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前のめりでフッ軽な伊藤美誠似32歳とワインバルデート

濃密な土曜日の午前中を過ごした。
動物と戯れ、古民家カフェでフレンチトーストを嗜む。その体験を女性と一緒に過ごしたのだ。なんと恵まれているのであろう。短針は3つしか進んでいないが、平日3日分の労働と同等の疲労感まで得ることができて幸せだなぁ。

こんな思考になるほど疲れ切っていたため、次のご新規さんとの前にサウナで整えたのは正解だった。
他のサウナ客は皆朗らかな顔をしている。こぼれるような笑顔である。
私だけ面構えが違う。なぜサウナ後にヘアワックスを使うのか。なぜ鏡に向かって「お前は素晴らしい人間だ。自信を持て。」などアスリートのような鼓舞をしているのか。全てはこの後のデートのためである。

出会うまでのやりとり

写真からは髪を下した時の伊藤美誠に似た印象を受けた。(以降伊藤さんとする)
本日のデートは伊藤さんからメッセージ付きいいねを送ってくれたのがきっかけである。


「誠実そうな印象を受けたのと、私も旅行好きです!良かったら一度会って話しませんか?」

いやいやいや。前のめり姿勢が過ぎる。大企業の内定蹴ってベンチャー入社する新卒じゃん。私の顔面が佐藤健ならこのアプローチも理解できるが、どちらかと言えば佐藤二朗だ。内面も知らない佐藤二朗にこのアプローチする?「佐藤」だけで健しか存在しないと思ってない?世の中には二朗もB作もいるんだよ。
適度な猜疑心を持ちましょうねと諭したい。男は狼だって40年以上前からピンクレディーも啓発してるんだから。

と心配になった反面、まんざらでもなかった。(アプリ開始当初に1週間程やりとりしてデートに誘った女性から「もうちょっとメッセージを重ねてからで・・・」とお断りされ、そのまま音信普通になった過去もあり、誘うことに臆病になっていた私には良いタイミングだったし、素直に嬉しかった)

しかし冷静になった瞬間、ある考えが頭をよぎる。
外見の優位性が無い私にここまでのアプローチをかけて会おうとする…
この手口はネットワークビジネスではないか。羊の顔していたのはむしろ伊藤さんで、牙を向けられていたのは私…

不安になりシェアメイトにも相談したところ、
「プロフィールの訪問した国々が割とマニアックなため、ただの旅行ガチ勢と思われる。」とのこと。

なるほど。そうは言っても心配性な私は思い切って正直に聞いてみた。

「お誘いありがとうございます!ですがいきなり会うのはちょっと不安です…過去に似た流れでお誘い頂いた方がネットワークビジネス関係だったので…」
「そうですか…驚かせてすみません。でも怪しいものではないんです。どんなにメッセージを重ねても1度会って話すことには敵わないと思ってて。どうしたら疑い晴れますかね…」

伊藤さんのプロフィールを改めて確認する。
「マッチしたらまずは会いたい」を選択しており、メッセージにも一貫性がある。狼ではない確信を得たので、謝罪したうえで食事を提案した。

新宿三丁目のワインバルで食事

お店に向かう道すがら、午前中の出来事が頭をよぎった。
1日に2度もあの衝撃を味わうのは心臓に悪い。精神が持たない。
幸いにも杞憂に終わり、伊藤さんは写真通りの方だった。それ以上でもそれ以下でもなく、ただ写真の通り。これだけでもう花マルを差し上げたい。不用意に飾らないことは大事である。

旅行ネタをきっかけに話も盛り上がる。午前のおかげで全てが補正されているのかもしれないが、非常に楽しい時間を過ごした。

が、途中からちょっとした違和感を感じる。
若干無理に笑顔を作っていたり、とにかく話が終わらないように次から次へと話題を提供してくれたりしているような気がした。何かの意図を感じた私は、お酒の勢いも借りて聞いてみた。

「勘違いだったら申し訳ないのですが…無理されてませんか?色んな話題をふってくれたり、ずっと笑顔でいてくださるのはありがたいのですが、少し飛ばし過ぎな気がして…これが普段通りでしたら失礼なこと言ってすみません。」
 
 

「あっ…そう…見えましたか…やっぱり分かります?」
 
 

ばつが悪そうな、それでいて安堵の表情も垣間見えた。

「無理というほどではないのですが・・・話が合って楽しくなってくると、次第に"嫌われたくない"に変わってしまうんです・・・」
「そうだったんですね。お気遣いありがとうございます。でもその状態でずっといる方が大変だと思うので、今からは普段通りにいきましょう。ぶっちゃけトークしません?笑」

本音トーク開始

ようやくここから腹を割った話が出来た気がする。伊藤さん曰く、

・元カレとは長く、結婚も視野に入れていたが「結婚できない」とフラれ、自信を失っていた。
・20代と30代の恋人を作る難易度が違いに驚き、焦っていた。
とのこと。

フラれることが多かった私にはその気持ちが痛いほど分かる。

「お前は社会不適合者だ」
「人としての魅力が無い」
「一生結婚は無理だよ」

と全人類の総意として受け取ってしまうのだ。実際は全くもってそんなことはない。余談だが、
「80億分の1から否定されても残りが味方の可能性あるっしょ?それでヘコむとかウケる」というポジティブギャルを脳内に住まわせることで人生がイージーモードになるのでお勧めである。

伊藤さんも論理的な話し方や考え方をする方だったので、”そもそも何のための恋活・婚活?”という話をした。

「私は幸せになるためだと思っています。恋人を作ることや結婚は幸せになるための手段の1つです。無理をして恋人作っても幸せじゃなければ本末転倒です。まずは伊藤さんが無理をしない状態でマッチングアプリを利用し、その状態のあなたを好きになってくれる人を探す方が良いのではないでしょうか。」

「ほんとに・・・その通りです。焦って目的を見失ってました…頭では理解できてたのですが、実際に直面すると分からなくなりますね…ありがとうございます。」
「多くの人が陥ることだと思います。そこまで気にせず、たまに振り返ってみるといいかもしれませんね。それでは、本日は以上となります。また進捗聞かせてくださいね。」


おかしな展開になった。

「もしかしたら恋人になるかも?」というワクワクを持ち寄って我々はワインバルに来たはずだ。
趣味も近く、話も盛り上がったのにお悩み相談の場として幕を閉じた。
これはこれで有意義なのだが、異性として見る機会を完全に失ってしまった。お酒も入っていたのだが、

「これからも幸せのためにお互い頑張りましょう!」
「はい!」

なんて発言をした私にも問題がある。完全に宗教勧誘者じゃん。
伊藤さんも「はい!」じゃないんですよ。そこで瞳に光を戻しちゃダメ。
周りから見たら洗脳完了した信者ですから。周りの人怪訝な顔してたから。

後輩とのサシ飲みを彷彿とさせる伊藤さんに恋愛感情を持つことは難しく、再び会うことはなかった。


読んでいただきありがとうございます。いただいたサポートは今後の執筆の励みにさせていただきます。マッチングアプリ体験談、引き続きお楽しみください。