日本で何番目かに高いトイレは、たぶん自信がつくトイレ。
実体験に基づいたフィクションです。
私は仕事で失敗しひどく落ち込んでいた。気づくと、山手線から見えるオレンジ色のあたたかい光に誘われてフラフラと東京タワーに向かっていた。
1階のチケット売り場で、トップデッキ入場までの待ち時間が本日短いと知り、メインデッキと合わせて3000円のチケットを買った。
まず、1階のエレベーター乗り場から四角い形をしたメインデッキに向かった。外を一通り眺めた後、トップデッキのエレベーター乗り場に向かった。
丸い形をしたトップデッキはとても小さくて、外を眺める窓は順番待ちだった。加えてカップルや親子連ればかりで、私は一人でこんなところ来るんじゃなかったと後悔し始めていた。
そのときである。私は突然尿意をもよおしたのである。メインデッキでトイレに行っておけば良かったとますますトップデッキに来たことを後悔した。
3000円も払って、他人の肩越しに夜景を観て終わりだなんて。その場でスマホを使って東京タワーのサイトを確認したが、見取り図にトイレが載ってるのはメインデッキまでだった。実際、トイレらしきものも見当たらない。それでも私はあきらめ切れず、ダメ元でスタッフに聞いてみた。
「トイレに行くには、メインデッキに降りなきゃダメなんですよね?そうすると、トップデッキには戻れないんですよね?」
すると、スタッフは意外なことを言った。
「一つしかないのですが、よろしいでしょうか。」
男女共用ということか。トイレのドアは、トップデッキが狭いのにもかかわらず、ほとんどの人が気づかないまま帰ってしまうくらい目立たない造りになっていた。
使う人がほとんどいないのか、洋式トイレは思っていた以上にキレイだった。私は便座に座ると勢いよく排尿した。しながら気づいた。東京タワーでいちばん高いトイレ、しかも、たった一つしかない。そう思った途端、
「わたしはまだまだやれるんだ!」
という気持ちがみなぎってきたのである。
それから私は、落ち込むと東京タワーのトップデッキのトイレを利用するようになった。心理学的にどうなのか私は知らない。でも、トップデッキのトイレで排尿すると元気になり自信がつくのである。
(注)現在の東京タワーの営業時間や料金は、出掛ける前に、必ずご自身でご確認ください。
tokoytower.co.jp
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