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【小説】あと75日で新型コロナウイルスは終わります。

~夜道の帰宅とUber Eats~

今日は、最後の外来患者さんといざこざがあって、お産施設の無い産婦人科クリニックにも関わらず、アキナは珍しく2時間も残業をした。

(疲れた~。今日はコンビニで夕飯を買って帰ろう。)

自宅近くの最寄駅近くを歩いていると、高層マンションの横の暗がりから、黒いカタマリが降ってきた。

「キャッ!!!」

アキナがとっさに避けると、若い男性らしき人が、

「すみません!」

と言ったかと思うと、すごい勢いで自転車をこいで、あっという間に見えなくなった。

(またUber Eatsか。ぶつからなかったから良かったようなものの……)

アキナは内心ムカつきながらも、緊急事態宣言が出されて解除される日までのことを思い出した。



話題 NEWS ポストセブン2020/9/6 16:05

俳人で著作家の日野百草氏が、今回は、都内のウーバー配達員たちについてレポートする。

(大幅に省略)

思い返せばこの8月だけでも、何度も危険な走りをするウーバー配達員に遭遇した。私が久しぶりに大型バイクのんびり走っていると、125cc未満は進入禁止のバイパスを「Uber Eats」の鞄を背負った半ヘル男が90ccのスクーターで抜き去って行った。また、都下の某繁華街の喫煙所は外食チェーンが軒を連ねているのもあって配達パートナーの溜まり場となっている。原付は一方通行もお構いなしの逆走(この十字路は一部一通になっている)、自転車は信号なんか守らない。ときに車、ときに歩行者と都合のいい走り方で信号無視を繰り返す。きちんと交通ルールを守ってしっかり稼いでいる配達パートナーもいると反論するかもしれないが、いつもは労働者側に立つ私もウーバーだけはどうか、実際、都内に限れば私の広範囲の取材の途中で見かけた数を鑑みても、ルール無用の配達員が多すぎる。これでは、同じように悪質配達員を見かけているのであろうネット民を中心としたウーバー批判ももっともである。

(大幅に省略)



3月、感染者が日を追う毎に増え、自主的に営業を短縮したり停止したりする店が増え、会社員たちはリモートワークに切り換え、子どもたちの学校や塾もお休みになり、ついには緊急事態宣言が出たが、

アキナたちが勤める医療機関は、もちろん稼動し続けた。朝こそ、満員電車が解消されたと喜んでいたが、帰り道は悲惨だった。

特に、残業があり遅くなると、最寄駅から自宅までは闇に包まれた。

飲食店がほとんどやっていなかったためだ。

人もアキナ以外の人間はほとんど歩いていなかった。

アキナは泣きたくなった。

強盗に襲われるんじゃないだろうか。朝から晩まで働いているのは自分と同僚だけなんじゃないだろうか。

それどころか、暗い夜道をアキナ一人で歩いていると、今、この瞬間に、この世の中に自分一人だけが地球上に取り残されている気分になった。

(どうせ自分一人なんだから……)

アキナは夜道で大声で泣き出そうとした。

そのときだ!

キーコ、キーコ、キーコ、……

どこからか古い機械が動いているような音がした。

アキナが辺りを見渡すと、後ろの方から丸い電気を光らせて、近づいてくる黒いカタマリが見えた。

(自転車だ!)

そう思うと、男性が乗った自転車はあっという間にアキナを追い越して走り去っていく。背中にはあのUber Eatsの巨大なバッグが見えた。

キーコ、キーコ、キーコ、……

1台目の自転車が通りすぎて少しすると、今度は女性ウーバー配達員、そのまた後ろには、初老な男性と思われるウーバー配達員が続いた。

(わたし一人だけじゃない!)

アキナは泣いた。でもそれは、寂しかったからじゃない。嬉しくて、励まされて、自然と涙がこぼれたのだ。

それからというもの、毎晩アキナは暗い夜道を一人で歩いているとき、ウーバー配達員を見てはホッとし、励まされていた。

(みんな働いているんだ!みんな必死に戦っているんだ!地球は生きているんだ!)

アキナは明日の仕事も頑張れそうな気がした。

新型コロナウイルスが終わるまで、
あと75日。

これは、フィクションです。

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