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「いつまでも白い羽根」 藤岡陽子

 小説家でありながら看護師としても仕事をしている藤岡陽子さんのデビュー作を読んだ。

 高校を卒業し、看護学校へ進学した女の子たちの日々を描いた作品で、社会人になってから看護学校で学んだ作者の経験が詰め込まれた作品なんだろうと思う。

 看護学校と聞くと、若くして将来の目標が明確に決まっている人たちが夢を叶えるために行く学校、というイメージがある。もちろん、そういう学生がいる一方で、主人公の瑠美のようにしかたなく進学する人もいる。そして、どんなに看護師になりたいと夢見ていても、その仕事に向いているかどうかはまた別の問題である。

 悩み苦しみながらも成長する青春のきらめきや爽やかさだけでなく、病気や死と正面から向き合う現実の苦しさ、家族との関係や将来への悩みもきっちりと描かれていて、それでも藤岡陽子さんの本は読んでいてつらくなりすぎないから好き。物語のそのあとの主人公たちの未来が知りたくなった。

 厳しい実習期間を過ごすうち、学生たちは看護師が病の前にいかに無力であるかを思い知る。しかしそのとき主人公は看護学校で言われた言葉を思い出す。

でも、何もできないわけではない。直らない病を抱えた人に対しては、看護師が最も力を発するのだと教わった。

 この言葉、本当にそうだなと思った。

 入院中の患者やその家族の日々に最も近くで寄り添うのは看護師だ。看護師の言葉や態度で、結果は同じでも闘病者側の感情は大きく左右されるということを私も経験から知った。

 そういえば大学生のころ、看護学科の友達は実習が始まると途端に忙しくなり毎日大変そうだったことを思い出した。私が呑気に遊んでいたあのころ、彼女は生と死に向き合っていたんだな。




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