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映画「mellow」@San Francisco Independent Film Festival レポート その3

その1では、映画mellowを東京まで観に行った経緯をお伝えしました。

その2では、Mellowが独立系映画の登竜門とも言われているSF Indie Fest映画祭でUSプレミアとして上映された様子をお伝えしました。

その3では、映画選考委員からきいた映画の感想、そしてお客さんの生の声を反映したアンケート結果を一部公開します。

映画選考委員、アレハンドロさんとのやりとり

「I loved Mellow.」

映画祭が終わって数日後。Mellowのモデレーターを務めた、上映する作品を選ぶにあたって重要な役目も果たしたアレハンドロ(Alejandro)さんにメールしてみたところ、返ってきた返事の冒頭がこの言葉でした。

1990年代に千葉の中学校で二年間教えていたという彼。

私が聞きたかったことは二つ。なぜこの作品を選んだのか。そして日本に住んでいた経験があったからこの映画を気に入って選んだのか。

I loved Mellow. に言葉が続きます。出品された映画150本以上に、少なくとも最初の20分には全て目を通した。Mellowについては、映画の面白さに気づくのにその20分かかった。この作品のプロットを理解するのに、それだけの時間を要したから。けれども、一度面白さに気づいたら、あとは見入ってしまった。ある意味破壊的(subversive)な要素も含んでいる作品だ、とも。

そして、日本で暮らした経験があったから日本映画を好んで贔屓目にみたわけでは無いとのこと。昔から小津安二郎、黒澤明、溝口健二等の日本映画は好きだったらしいが。

私は、Mellowはどちらかというとフランス映画の雰囲気がすると思っています。長回しが多く、ゆったりとした時間が流れている。大きな事件やイベントが起こるわけでもなく、話が展開していく。こういう指摘をしたところ、「確かにその通りかもしれない。」と同意してくれ、その次にこう話してくれました。

「僕はMellowに流れているエネルギーは、日本の社会の平均的な状況を映し出しているわけでは無いのを知っている。けれども、この作品のそういうところが好き。」

実際に日本に住んだことのある彼だからこそ、その気づきがあり、この映画の現実よりちょっとだけ優しい世界が物語のチャームポイントになっているのが理解できたのかもしれないと思いました。

観客の評価スコア

アレハンドロさんは、更に打ち明けてくれました。

「映画Mellowは、観客から5点評価中、4.66点を得た。この点数は、上映された映画のトップ5に入る高評価だ。」

映画館のスタッフから事前に渡されていた小さな紙きれ。その紙には1から5の数字が並び、上映後観客に映画の評価を点数でつけてもらい、回収していました。私は勿論5に丸印をつけ、スタッフに渡しました。

50本以上にも及ぶ世界中から集まった上映作品の中で、ほぼ満員のお客さんがつけてくれた高評価。

「僅差で観客賞は逃したけれども、僕はこのフィルムをとても誇りに思っている。なぜなら、これは自分が発掘してアメリカに持ってきた作品であり、観客賞をとった映画は、これも自分の選出した映画だったんだけれども既に何度も別の映画祭で上映されており、もともと高評価だった作品だったんだ。」

私は彼に、Mellowを選んでプレミア上映してくれたこと、丁寧に返事を書いてくれたことにお礼を述べました。

海外の映画祭で選考委員を務めている彼のような人が、私が本当に素晴らしいと思った邦画を公平でフラットな立場から高く評価してくれていた。それがとても嬉しかった。

今泉監督は、もしかして海外の人達にも受けるような作品を意識的に作っていらっしゃるわけでも、評価してほしいわけでもないかもしれない。これからも誰にも媚びずに、ご自分の良いと思われる作品を淡々とおつくりになっていくのかもしれない。

けれども、海外に住む日本人として、日本の素晴らしい作品が世界で高く評価されることを、とても誇りに思うのです。自分も、自分の分野で頑張らなきゃ!と思える。Mellowのサンフランシスコ上映は、私にポジティブなエネルギーを注いでくれた、大切な体験となりました。

アンケート用紙の感想

実は私、勝手ながらアンケート用紙を事前に用意していました。是非、アメリカ初上映後のお客さんの生の声を、制作陣の方々にお届けしたい…自分の出来る範囲で何かやろうと思ったことの一つでした。あらかじめSF Indie Festの運営委員会に承諾を得ています。

上映後ロビーにいた15名が回答してくれました。アンケート用紙の質問は、

1.お住まいの場所 
2.大まかな感想 
3.特に好きだったところ 
4.改善したほうがよいところ 
5.今泉力哉監督やキャスト、クルーメンバーにコメントをお願いします

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頂いた回答の中からいくつかをピックアップします。

1)お住まいの場所

 サンフランシスコの映画祭なので、参加者は皆サンフランシスコ市か、その周辺エリアからの参加でした。ちなみに私の住むシリコンバレーからは、車で一時間かかります。

2)大まかな感想

Kさん:最高でした。不必要なドラマ展開の無い、リアルなシチュエーションの中で片思いを描写しているところが良かった。Loved it. It was lovely to see a film portray realistic situations regarding unrequited love without unnecessary drama.
Hさん:全体を通してノスタルジックな雰囲気が漂っているのが最高に良かった。日本のリアルを描いているところも。Loved the nostalgic atmosphere throughout the movie. Showing real Japan.
Fさん:物語をシンプルに伝えるスタイルが良かった。そして、相手の好意を受け入れられないという状況においても明るい雰囲気を保っていたところが良かった。I liked how simply it communicated the stories and how it stayed uplifting while telling stories of rejection.
Eさん:良かった。演技が好きでした。Good. Liked the acting.

圭さん、演技が良かったって!(涙)

3)特に好きだったところ

Aさん:全体的にとてもキュート、穏やかな感じだったし、面白かった。It was overall very cute, soothing and funny
Bさん:ストーリーがとてもユニークでオリジナルでした。The story was unique, very original
Eさん:日常を描いた部分。姪っ子が愉快だった。自分を抑えるという日本文化が時々出てくるけど、皆が自分の気持ちをシェアするという場面が良かった。Depicted ordinary life. Niece was entertaining. Japanese culture sometime, repressed, but everyone shared feelings which was nice.
Kさん:全体的に流れるメロウな雰囲気。観ててリラックス出来たし、鑑賞後、爽やかな気分を残してくれた。ストーリーについて色々考えた。The overall "mellow" feel. It was relaxing and left me feeling good after as I keep thinking about the story.

そうなんですよね、まさしくメロウなんです!

4)改善したほうがよいところ

Aさん:そのままで良いと思います。I liked it the way it was
Gさん:改善点は特に思いつかない。シーンはどこも完璧でした!Can't think of anything. Scenes perfect!

おひとりだけ、こういう感想を述べた方もいらっしゃいました:

Eさん:登場人物間の関係性がわかりにくいときがあった。理解するのに時間がかかった。Some of the relationships between characters confusing. Took a long time to clarify.

実は私、仏壇のシーンと病院のシーンが時系列的にすぐに結びつかなくて少しだけ混乱したので、こういうコメントがあったとしても理解できます。ほとんどの方は、このままで素晴らしい、特に改善点は無いと回答しています。

5)制作陣へのコメント

Hさん:このラブリーな作品を世に送り出してくださりありがとうございました。Thank you for delivering this lovely movie.
Jさん:素晴らしい作品、おめでとうございます。Congratulations on a great film.
Kさん:とても素晴らしいフィルムでした。グッドジョブ!監督の次の作品を楽しみにしています。It was a great film. Good job! I look forward to your future works.

強風で天候が優れない中、足を運んでくれた人たちがこうして映画を楽しみ、「映画製作陣に送りたいので」とお願いして渡した用紙に、時間をかけて感想を書いてくれたことに大変うれしく思いました。

これからのアジア映画の評価

映画上映のちょうどこの日、ロサンゼルスではアカデミー賞が発表され、外国映画である韓国映画「パラサイト」が想定外に見事作品賞を受賞、世間を大いに賑わせました。

ハリウッド映画をあまり好まない私は、アカデミー賞についてはほとんどフォローしていなかったのですが、ハリウッドにおいてのアジア人の高くない地位を素人ながらも感じ取っている私にとって今回のニュースは本当に驚きでした。

今日たまたま読んだYahooの記事で、外国映画が今回アカデミー作品賞を初めて受賞したが、世間で字幕付きの外国映画があまり抵抗なく受け入れはじめていることが要因の一つとしてあるとありました。その理由としてネットフリックス等のネット映画配信サービスの普及が挙げられており、例えば米国内の有料会員数6000万人を誇るネットフリックスは、配信されているオリジナル作品の半数以上は英語以外だそうで、「多くの米国人が自宅でネットフリックスの字幕付き作品を見るようになり、その習慣が映画館にも広がった」との見解がありました。

MellowのUSプレミア上映とアカデミー賞の発表日が同じ日だったということにも何かを感じるし、映像の世界において言語の垣根もだんだんと低くなってきている。どこで制作されようとも良い作品が世界で正当に評価されつつある傾向は大変良いことだと思うし、今回の受賞は、日本の作品にとっても最高の追い風になると思います。

Mellowのサンフランシスコでの宣伝。私なりにやったこと

その4では、東京でmellowを鑑賞した1月17日の週末(その1参照)から2月9日のサンフランシスコ上映までの3週間、映画館に少しでもローカルの人に足を運んでほしい、その一心でどのような活動をしたかということについて綴ろうと思います。

サンフランシスコ現地人の、田中圭も日本映画についても普段あまり興味のない人に、どうやったら想いが届くのか。誰にも頼まれていないのに(笑)、一ファンとして模索したお話は次回です。

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