Scramble渋谷01

村上春樹が処女作で予言した世界。『量』による拡散は『質』を超えるのか?~「魔法の世紀」の罠。

落合陽一氏に喧嘩を売るわけじゃないんだけど………

彼の著書『魔法の世紀』で書いたことは間違いではない。
でも、GAFAや新進のデジタルプラットフォーマーのビジネスモデルに対して、ちょっと違和感を感じて、あの懐かしい小説をふと思い出してしまったのは、僕が初期高齢者だからかしら?ちなみに筆者は今56歳。

今や日本文学界の巨匠、金字塔の村上春樹の処女作『風の歌を聴け』。
そこには、数値でしか自己の存在価値(レーゾン・デートゥル)を証明できないという考えに囚われた一人称主人公の”僕”の独白が記されている。

【作中引用
その時期、僕は全てを数値に置き換えることで、他人に何かを伝えられるかもしれないと真剣に考えていた……(中略)……そういう訳で彼女が死んだとき、僕は人生で6922本目の煙草を吸っていた。

振返って今の時代。
何もかもがクラウドサービス化され、グローバルの80億の人類に放たれ、そして確率論で商売になって一人100円の月額費用が世界ユーザー積算で100億円以上の売上に化ける世の中……。
これ……村上春樹が処女作で予言したかのような、
数字で自己存在を証明しようとする主人公を思い出してしまうんだ。

例えば貴方がグローバルプラットフォーマーの社長だったとする。
お金を払ってくれてる全世界の人達は、あなたのことをどれだけ意識してるのだろう?
貴方にお金を払った世界人口の1.5%の人々。彼らは貴方のことをホントに評価してお金払ってるのか?単にみんな使ってるから…或いは契約したことすらも忘れてるだけじゃない?それって言ってみれば『コミュ障ビジネス』なんじゃない?

確かに80億人に分散されて投資回収されるので、一人当たりの負担は小さい。でもその安さと多機能ゆえに、あんまり価値を感じないしお金を払ってることを忘れてしまう。それが魔法の世紀の罠だ。

例えば…僕はすれっからしの音楽(Rock)マニアなのだが
真剣にその楽器が好きで、何度も試し弾きして、でも大枚叩いて買う勇気を持つのに半年かかって、そして10万円払って買ったイバニーズ(昔はアイバニーズと言わなかった!)のストラトキャスター。

これはね。
もう簡単に捨てられないし、断捨離したあともその音は忘れられないですよ。そうやって、サブカルチャーは”思い入れをインストールされて受け継がれていく。
そうやって育った人はミュージジャンにならないかもしれないが、楽器職人になるかもしれない。欲しくて欲しくてまとまったお金を払った経験が思い入れを作り、そこからのトレーニングや試行錯誤・創意工夫を作り出し、次世代に受け継がれるクリエイティブを生み出す。
オンライン拡散型ビジネスモデルはそこが弱いんだな。今更、1970年代に後戻りしよう!という気はないけどさ。

思い入れをインストールされた人にしか
「質」は創造できないのだ。

あ…これ、初期の村上春樹の主人公の台詞っぽい(笑)…最新作の『騎士団長殺し』も久々に読み始めたけど。