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イキモノとして多様性を排除した種は確実に滅びるのだ。

『人類学のバックグラウンドを持ち、進化の観点から人間の行動を研究しているロンドン大学の公衆衛生学者ヴァレリー・カーティスは、「公衆衛生ルールを破ること」が、人類にとって最もプリミティブな “犯罪” の認識カテゴリに当てはまる行為だったかもしれないと主張する。*13彼女は、きわめて古い遺跡からも櫛・公衆便所・ゴミ捨て場といった人工物が出土することを例にあげ、人類はかなり初期から、ゴミの処理を怠ったり、好き勝手な所に排便したり、公共の場で唾を吐いたり、髪の毛についたシラミを櫛でとかして落とさなかったりする仲間を軽蔑していたのではないか、と考えている。衛生マナーを守らないことは、人類にとって最古の「罪」であったかもしれないということだ。伝染病の脅威に対処する上では、自分一人だけが衛生マナーを実行しても効果がない。他の人間も、そのマナーに従わせる必要がある。規範的な違反(=normative transgressions)は、違反者自身を危険にさらすだけでなく、周辺住民の感染リスクを増大させる可能性が高い。体制順応主義はここに産声を上げる。──理由やメカニズムを理解する必要はない。よそ者や社会不適合者を迫害し排除すれば疫病は治まる。神が定めた宗教的戒律を守らない者を処刑すれば疫病は治まる。黒死病(ペスト)が猛威を振るった中世から近世のヨーロッパで、魔女狩りが同時進行したのは偶然ではない。いま、世界中の人々の脳に感染症の脅威が “プライミング” されることによって、知らず知らずのうちに体制順応主義が昂りを見せている。──取締りを強化しているのは為政者だけではない。ボランティアでドローンを操作し、呼びかける人まで出てきた。いまや市民一人一人がウォッチメン(監視者)となっているのだ。ロックダウンが発動され、外出禁止令が敷かれている欧米諸国では、ルールを監視・管理する政治的権力が急速に強化されている。──パンデミックによって引き起こされたこうした大衆意識の変化は、ある見方からは喜ばしいことなのかもしれない。人びとのお行儀が良くなり、マナーやルールの遵守精神が強まり、反社会的な逸脱者(=“悪人”)に対して制裁を加えたい気持ちがたかぶる、というのだから。しかし、筆者が警戒したいのは、これが合理的分析や理性的判断にもとづく行動ではなく、むしろ生物学的な本能にもとづく動物的リアクションであるということなのだ。実際、規範逸脱者に罰を下すことでヒトの脳の報酬系は活性化し、満足感が得られることが知られている。*15 自分がガマンさせられるほど、ガマンしていないように見える他人の行動がムカついてくるというのも、ヒトの適応的な心理である。*16今こそ立ち止まって考えてみたい。何が「正しい」のだろうか? われわれは他人の自由をどこまで制限できる権利を持つのだろうか? ──感染症の拡大防止という「絶対善」を前にして、あらゆる主義主張が説得力を失っている、そんな今だからこそ考えたいのである。われわれ人間は危機に陥ると、“理由” をろくに理解することなく、「〜しなさい」という規範に盲従したくなる生き物だ。感染防止のプロフェッショナルである医師が、接触8割減を主張するのは当然だろう。しかしたとえば、はたして新型コロナ感染症による死者数は、経済的不況や精神面の悪化による死者・患者数の増加を上回るだろうか。前者のシミュレーションだけを行って、後者のシミュレーションを示さないのもまた、科学的な態度ではないように思われる。パンデミックの真の恐ろしさは、人々から思考力を奪うことである。そしてさらに恐ろしいのは、体制順応主義に染まらない者や、自分の頭で考えようとする者に対する社会的圧力が昂っていくことなのだ。』

人類共通の恐怖である感染症によるパンデミックは体制順応主義に拍車をかける。不潔が罪であった様に不健康が罪になり健康が義務と成る。その先には健康でないモノを排除する社会が待っている。だがイキモノとして多様性を排除した種は確実に滅びるのだ。

コロナ不安で「権威に従い、他人を叩きたがる人」が増えた深い理由
進化心理学から説明する「体制順応主義」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/72387


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