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読書日記『そして、バトンは渡された』

しばらく本が読めていなかった。久々に読む本として選んだのは、瀬尾まいこさん『そして、バトンは渡された』。2019年の本屋大賞受賞作だ。

悲しいわけではない。ただ、私たちは本質に触れずうまく暮らしているだけなのかもしれないということが、何かの瞬間に明るみに出るとき、私はどうしようもない気持ちになる。(p.219)

主人公の優子が、義父・森宮さんとの行き違いに直面した際の一文。一見、平和で安定した状態が保たれている二人の生活に対して、優子はどこかで緊張感を覚えている。他人同士で「うまく暮らしている」ことへの表現として、これほど的確な言葉があるだろうかと思った。

オムライスには、ケチャップで「今日はよく寝て、本番に備えよう。合格できると信じてリラックスしながらがんばって!」と長々とメッセージが書かれていたのだ。(p.300)

受験を控えた優子に、義父・森宮さんが作った夕ご飯のシーン。
私も、過去にオムライスに文字を書こうとしたことが一度だけあったのだが、バランスが取れなくて最後まで書ききれなかったことを思い出した。この時私が書こうとしたのは「オムライス」。しかし「オム」で余白がなくなってしまったので、こんなに長々とメッセージをかけた森宮さんは相当器用な人なのだろう。

自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって、未来が二倍以上になることだよって。明日が二つにできるなんて、すごいと思わない? 未来が倍になるなら絶対にしたいだろう。それってどこでもドア以来の発明だよな。(p.315)

義父・森宮さんが、優子の義母・梨花さんについて語った際の台詞。
私は現在に至るまで、子どもを持つということに対する動機がいまいちよくわからなかったのだが、「どこでもドア以来の発明」と力強く言い切った森宮さんの姿を見て、だから人は親になろうとするのだろうかと、少しだけ腑に落ちた気がした。

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