第5章―社会に潜む疑心暗鬼・都市と農村の格差

 一方で、新生ルワンダ政府は、どのようにして和解を促進しようとしたのでしょうか。ジェノサイドを鎮圧したルワンダ政府の方針は、ジェノサイドに関わった人たちを徹底的に裁判で裁くということでした。しかしあまりにも関わった人が膨大なため通常の裁判手続では処理に200年かかると言われました。
 そこでルワンダ政府は、ジェノサイド犯罪を裁くために、新たにガチャチャ裁判という制度を施行しました。これは刑務所にいる囚人を釈放し、出身地に返し、村々での住民の寄り合いの場で裁判を行おうというものでした。ジェノサイドでは村の中で住民が虐殺を行ったため、その実態はやはり住民がよく知っているということで、住民の証言をもとに、真相を解明し、判決を下そうというものでした。そしてそれと同時に、ガチャチャの場で、加害者と被害者が対面し、加害者は被害者に対して謝罪をし、被害者がそれを受け入れて和解する・・・ということをもくろんだ制度でした。

週に一度行われるガチャチャに集まる村人

ガチャチャが始まるのを待っている村人

 2000年から始まったガチャチャ裁判は、2005年頃にはおおよそ終了しました。そして判決を受けた加害者たちは、勤労奉仕で罪を償うこととなりました。
 そして罪を償った元・加害者たちは、村に帰ってきました。その後、加害者と被害者の関係はどうなったのでしょうか?私は元・加害者と被害者の双方に話を聞いてみました。

ジェノサイド当時の聞き取りを行った時の様子。左の男性はジェノサイドの際に殺人に加担し、ガチャチャ後に刑を終えた。中央の女性はジェノサイドで家族を失った経験を持つ。両者は今も一つの村で暮らしている。


 そこで分かったのは、元・加害者と被害者の双方ともに、同じ村に住んでいながらも、積極的に関わりを持とうとは思っていないということでした(この聞き取りをまとめたものはこちらからご覧いただけます)。被害者にしてみれば、自分の家族を殺した人たちとの間にわだかまりは少なからず残っています。一方で元・加害者の方でも、自分の行った罪に対しての良心の呵責を持っており、被害者に会うのは気まずいという人がいました。
 その結果、同じ村に住みながらも、目に見えない緊張関係の中、人々は日々を暮らしているのです。

 

 ところでルワンダは今、「アフリカの奇跡」ともいわれるほどの経済発展が進んでいます。首都キガリでは高層ビルや高級ホテルが増え、昔ながらの「市場」はつぶされて「ショッピングセンター」になり、24時間営業のスーパーマーケットもオープンし、多くの人々がスマホを持ち、無料Wi-Fiのあるきれいなカフェでくつろぐようになりました。


 一方で農村に目を向けると、生活の様子はそう変わっていません。薪や炭で煮炊きをし、灯油のランプを使っているところもあります。生業は農業や牧畜が中心です。97年当時のように飢餓に苦しむようなことはなくなったようですが、急速に発展する都市部との格差の広がりは、20年以上ルワンダを見つめ続ける私には、目に見えて分かります。


 このような状況下にあるルワンダでひらめいたのが、農村部の貧困削減のための手段として行われている「マイクロセービング」という取り組みに、民族和解の意味合いを持たせようというアイデアでした。


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