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「時刻表が読めない鉄道ファン」から始まる18きっぷ旅

 最後に青春18きっぷを使ったのはいつだったろう。
 少なくとももう4年は経つ。

 ことのきっかけは、8月に神田神保町の「書泉グランデ」にて、私が所属していた大学の鉄道研究会の顧問にばったりお会いした時。

 せっかくだからということで、近くのファミレスで2時間近く近況等を話していた。
 顧問の先生は年季の入った鉄道ファンで、鉄道の専門雑誌に記事を書けるような方である。

 先生と話している中で、時刻表の話になり、「今の鉄研の学生は時刻表が読めない」と嘆いていらっしゃった。

 一瞬、私は耳を疑った。

 曰く、みんなスマホの乗り換えアプリで時刻を調べてしまう上に、そもそも遠方へ旅行に行かなくなっていると。

 確かにこの3年ちょっとは、なにかと制限だらけで、旅行すら行けなかったのは仕方がないとは思う。
 しかし、先生のフィルターが入っているとはいえ、時刻表が読めない人がいるというのはやはり衝撃である。
 いやしくも鉄道ファンなら時刻表くらい読めないでどうする。

 さらに先生は18きっぷの話についても触れられていたが、このような話をしているうちに、私もまた18きっぷを使って旅行へ行きたくなった。

 そこで思い立ち、その足で金券屋へ向かい、そのまま18きっぷの残り3回券を購入して旅へ出ることに。


 旅の始まりはやはりここから。東京駅。

 朝まだ薄暗い時間に朝霧に包まれた中の東京駅は実に美しく凛とした佇まいを醸している。
 やはり日本の代表駅としての風格は不動のものだ。

 まだ人の気配が全然なく、改札周囲は閑散としていて、おまけに改札を済まそうと有人改札に行っても、なかなか駅員が来ず、しばらく待って眠たそうな顔をした駅員が奥からのそのそ現れ、ようやく通過できた。
 ホームに上がれば、すでに列車はいた。
 5時40分発、普通沼津行きに乗車する。待ち時間はなくすぐに発車した。

 こんな朝早い時間だというのにもかかわらず、乗客は多くいわゆる4人がけのクロスシート部には座れず、仕方なく、普通のロングシート部に座った。
 その後も各駅で続々と人が乗車してきて、たちまち混雑してきた。
 平日の朝ラッシュ前であるというのに、この混雑はなんだろう。
 小田原方面から東京へ向かう列車で混んでいるのならわかるが、下りでもそこそこの混雑率なんだろうか。
 とにかく、終点に到着するまで、乗車率は高かったように感じる。

 熱海から、丹那トンネルの長い暗闇を抜け、沼津に到着。
 ここからさらに東海道線を乗り継ぐ。
 ここから浜松までの静岡県内区間は通常、ロングシート(窓に背を向けるタイプの座席)の車両が多く、景色が見えづらい。
 なのだが、今回この区間に、沼津〜静岡間は4人がけボックスシートがあるセミクロスシート車、静岡〜浜松間では転換クロスシートの車両が来て、なおかつどちらもボックス席に座れたので、運が良かった。

 薩埵峠のバイパスと入江が複雑に交差する区間を通り、海が防波堤に遮られて全然見えないではないかとひとりぼやきながら、列車は浜松へ。
 途中、静岡で朝食のサンドイッチの補給をしてから、再び名古屋を目指す。

 今回の旅の道中は行く先々天候に恵まれた。おまけに車内には、日差しが強く差し込んできて、ブラインダーを閉めていてもやはり暑い。

 名古屋へは12時過ぎに到着した。
 朝一番の列車に飛び乗ったので、意外に早く到着したなというのが正直な感想。
 昼ごはんを食べようと、名古屋のエキナカのレストラン街をウロウロしていたが、金曜日のお昼時、どこも混雑している有様で、すぐに入れるような状況ではなかった。
 仕方がないので、駅の向かいにある、回転率のいいコーヒーチェーンでホットコーヒーとサンドイッチを注文して、少しばかり、この後の作戦を立てる。
 ここから先、最終目的地は大阪・難波なのだが、引き続きこのまま東海道線を乗り通していくのでも良いが、それだとすぐに到着してしまう。

 そこで、今回は、今まで乗車したことのない路線を使っていくことにした。

 私は今まで、四国を除く日本の都道府県を(通過しただけの県も含め)制覇してきたのだが、その中で最後まで行ったことのない県があった。
 三重県である。

 お隣の奈良県、和歌山県などは訪れたことがあるのだが、三重県に関しては、どういうわけかこれまでの旅行で一度も訪れたことはない。
 四日市、桑名、伊勢志摩など観光名所はあるのに、この県だけが最後まで残ったのである。
 ならばここへ行ってみよう。

 午後1時過ぎ、名古屋から関西線に乗り換え。

 普通列車亀山行は二両編成のワンマンカーだったが、始発駅でどんどん人が乗ってきて、そこそこの乗車率で出発した。
 車内は、二両編成にしては結構混雑していて、私の隣には外国人の青年が座ってきた。
 乗車中、全く話すことはなかったが、観察しているとどうやら家族でバカンスをとって日本に旅行に来ているようだった。
 私は、流れゆく田園風景、JRに喧嘩を売るかのように並走している近鉄の線路、遥か彼方に見えるコンビナートに目をやりつつ、持ってきた文庫本を読んでいた。

 そうこうしているうちに、亀山へ到着。
 かつて国鉄時代は、ここも大層賑わっていたらしく、駅構内がとても広い。
 ここから先は非電化になるので、一両編成の気動車に乗り換え。
 普通加茂行とは乗り継ぎがよく、乗り込むなりすぐに発車した。

 車内は先の関西線ほどではないが、ほぼほぼ席が埋まっていた。

 一両編成の気動車は、鈴鹿山脈の急勾配を、豪快なエンジン音を唸らせ登っていく。

 所々に民家や畑が見えるものの、ほとんど山の中で鬱蒼とした山林の中を列車は進んでいく。
 皆、思い思いに車窓を眺めている。
 ここに乗り合わせている人々は、私と同じ旅行者だろうか。
 普段はどれだけの人がこの区間に乗車しているのだろう。

柘植にて。単行の気動車同士行き違い

 まもなく、列車は柘植駅に到着した。
 ここで草津線に乗り継ぐ。

柘植駅 駅名標
伊賀の忍者にちなみ、駅構内の至る所に忍者のマネキンが飾ってある。
通路の両サイドには、地域の名物をかるたにして表現している。

 この区間は電車であった。
 いわゆる関西圏を走る近郊型の車両が来た。
 私としては、ここで古い車両(113系)が来ることを期待していたのだが、先代の車両は今年の3月で運用を離脱してしまっていたようだ。
 少々残念。

 出発まで少し時間があったので、外には出なかったが、駅構内を写真に数枚収めた。

古い跨線橋。
草津線の現行車両、113系じゃなかったのが残念。

 草津線は、途中までのどかな田園地帯を走るが、貴生川あたりから少しずつ人が乗ってきて、あたりも少しずつ住宅が増えていく。
 この辺りは京阪神エリアの通勤圏内だろうか。
 学生っぽい若い人や、ビジネスマンらしき人が乗り込んできた。

 乗車時間1時間ちょっとで草津に到着。
 古来、中山道と東海道の合流地点で、交通の要衝である。
 今までの行程は、ちょうど本来の東海道のルートであり、箱根エリアを除き、鉄道で辿ったことになる。

 ここからは新快速に乗って、大阪までひとっ飛び。

 …と行きたいところだが、行きたいところがあったので、京都駅で途中下車。

 お目当ての場所は、京都駅ビルの9階にある、「KATO京都駅店」である。
 ここは、鉄道模型のパイオニア・KATOのアンテナショップである。
 元々は大阪にあったのだが、2015年に京都に新たにオープンした。

 店内は、東京のホビーセンターカトーに売り場面積で劣るものの、車両が黒を基調としたショウウインドーに整然と並べられ、かつ、ライトアップされているので、より一層、模型が輝いて見えた。
 インテリアも、白と黒のコントラストがバチっと決まっていて、京都にふさわしいシックでモダンな内装だった。
 店では、普通にKATOで売られている製品の他に、限定品として、京都店でしか買えない商品も販売されていた。
 お土産としてはやや高価な気もしたが、せっかくKATO京都駅店にきたので、一番安かった「京のおもたせ チビロコセット」(6600円)を購入した。

 ついでに京都駅ビルには屋上もあったので、行ってみた。
 京都駅ビルは9階建ての駅ビルで、高い建物は京都タワーを除き存在しない京都で、存在感のある建物である。
 京都タワーといい、この駅ビルといい、あまり京都らしさがないが、屋上庭園はさすがに見晴らしがよく、遥か遠くの大阪あたりまで見渡せた。
 ちょうど夕方だったので、駅にも通勤客や外国人観光客でごった返していた。

京都駅ビル屋上広場からの展望。

 再び新快速に乗り大阪駅へ。

 今年新たに開業したうめきた地下駅にも行ってみた。
 在来の大阪駅とは少し離れていて、東京でいうところの京葉線ホームと東京駅の間くらい離れているだろうか。
 開業したばかりなのか、人の姿が全然見えず、片側の壁に、水中をイメージしたプロジェクションマッピングの映像が煌々と映し出されているのみだった。
 これから利用客も徐々に増えていくのだろうか。

大阪・うめきた地下駅の自動改札。左は顔認証で通行できるらしい。
同、改札の反対側にあったインスタレーション。真ん中の柱じゃま…。


 大阪環状線を乗り継ぎ、1日目の旅の終点、JR難波駅に到着したのは19時半ごろ。

JR難波駅は地下駅である。

 難波の地下街を通りぬけ、道頓堀の方へと向かう。

 大阪と言って、よくテレビで紹介されるのは、なんと言ってもこの道頓堀周辺だろう。
 特に、グリコのおじさんの広告は、大阪を象徴するアイテムだ。

あまりにも有名な戎橋周辺。グリコの広告はいつの間にかサイネージ化されている。

 行ってみると、さすがは天下の道頓堀。

 グリコの広告をバックに、スマホやセルカ棒を構えている人のなんと多いことか。
 夕食を食べる場所を探しに周辺をうろうろしていると、道ゆく人のほとんどが外国人と見えた。中国語やら、ベトナム語、タイ語などがスクランブルしていた。
 幸い、阪神タイガースがリーグ優勝する直前に旅行したので、名物(?)の「アレ」に遭遇することはなかった。
 あの光景を、全く事情の知らない外国人が見たら、さぞかし驚くだろう。

 夕食は、道頓堀の居酒屋にて、だし醤油味のたこ焼きと「うのせ」を食べた。

 「うのせ」とは、だし巻き卵の上に鰻が握り寿司のように「乗って」いるという料理で、店の売り文句によると、「ありそうでなかった」そう。
 しかも、乗っている鰻がとても大きく、だし巻き卵と合わせて食べると出汁の薄味とともに鰻の香ばしい香りが漂ってきて、とても美味しい。
 
 たこ焼きは最初、一口で頬張ったらとても熱く、口を火傷した。それでもほのかに香るだし醤油の味がいいアクセントになっていた。

たこ焼きと「うのせ」 だし巻き卵の上に鰻が豪快に乗っている。

 これで、1日目が終了。
 そして翌日、2日目は大阪を発ち、今回行けなかった三重県の中心部へと行くことになる。

 1日目は朝早くに出発し、途中下車を挟みつつ、半日かけて大阪へ行った。
 新幹線なら2時間ちょっとで着いてしまうところを、ゆっくり時間をかけて行く。

 18きっぷ旅は今までも何度か使ってきたが、普通列車ながら改めて全国のJR線に乗車できるのは、すごいことだろう。
 鉄道研究会の顧問との会話から始まり、すっかり旅の魅力に浸っている私であった。

(↓2日目へ続く↓)


(↓3日目↓)


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