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花粉症といかに戦うか⑥ 舌下免疫療法その3 原理

少しだけ専門的な話

1 舌下免疫では何が起こっているか?

 アレルギーは、免疫のはたらきで攻撃しなくてもいいものを間違って攻撃してしまう病気。花粉を敵と勘違いして、くしゃみや鼻水で追い出そうとします。勘違いした免疫を再調整するには、どうしたらいいでしょうか。舌下免疫療法を含めたアレルゲン免疫療法では「免疫寛容」というしくみを応用します。

2 免疫寛容とは

 免疫寛容とは、過去に免疫応答(この場合はアレルギー反応)を起こしたことがある抗原(アレルゲン)にたいして、免疫応答を起こさなくなることです。人の免疫には、行き過ぎた免疫反応を抑えて調整するしくみがあります。免疫療法は、様々な経路(舌下、皮下、経口など)から、体の中に少しずつ原因物質を入れて免疫を再調整し、過剰な反応を出させなくする方法です。免疫の再調整には時間がかかるため、舌下免疫療法は最低3年続けます。

 その場所の候補して選ばれたのが舌下。なぜ舌下なのでしょうか。実は、口の中は比較的免疫寛容を誘導しやすい場所です。体の中には、侵入者(ウイルス、細菌、寄生虫など)を察知して、免疫システムを戦闘配置につけるような細胞がいますが、口の中の細胞は他の場所より侵入者を受け入れやすい性質のようです。体に必要な食べ物を受け入れる場所ですから、当然といえば当然かもしれません。

3 理論から実際へ

 実際には、本当に効果があるのか、副作用はないのか、研究が行われました。アレルゲンの量が多すぎると、アレルギーが強く出たり、分解されきれずに胃腸に行って症状がでることがあるかもしれません。逆に少なすぎると効果が出ない可能性もあります。慎重に試験が行われ、効果があり、副作用が強すぎない量が決まりました。軽い副作用は多いですがほとんど許容範囲内で、時間とともに出にくくなることもわかりました。このように、長年の研究の結果、製剤として承認・販売されるようになりました。

 ただ免疫療法自体はもっと歴史のある治療法です。皮下注射による免疫療法は100年、舌下は30年以上の歴史があります。

4 さらに詳しい話

 アレルゲン免疫療法によって起こる変化をまとめます
✅特異的IgG4(阻止抗体)の産生↑ 
✅制御性T細胞誘導
✅Th2 型免疫応答↓
✅Th1型免疫反応↑
✅制御性B細胞誘導
✅特異的 IgA 抗体産生↑
✅1型自然リンパ球、IL-10 産生性ILC の誘導
✅抑制性サイトカイン↑
✅局所肥満細胞↓好酸球浸潤↓
そして最後の最後にIgEが低下します。

図は日本アレルギー学会「アレルゲン免疫療法の手引き」より

https://www.jsaweb.jp/uploads/files/allergen_202101.pdf

 ちょっと古い図ですが、免疫療法で起こる変化を時系列でまとめた図です。わかりやすいのでお示しします。アレルギーを抑えてくれる阻止抗体のIgG4や制御性T細胞は早期に出現し、症状の抑制に貢献しますが、IgEの低下には長期間、場合によっては年単位かかります。
Mechanisms of allergen-specific immunotherapy 2011;127, 18-27.

免疫療法後の変化

以上で、花粉症といかに戦うかの記事を終了します。花粉症で悩むみなさまのお役に立てれば幸いです。


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