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花粉症といかに戦うか⑤ 舌下免疫療法その2 副作用とトラブルシューティング

 この記事では、舌下免疫療法の副作用とトラブルシューティングについて解説します。

舌下免疫療法の副作用

 一般的な薬剤では、肝臓・腎臓などに負担がかかるなどの副作用が起こりえますが、舌下錠の副作用は異なり、副作用のほとんどが錠剤に含まれるアレルゲンによるアレルギー反応が原因で起きます。

 副作用は比較的多く、約半分の方に出ます。えっ、多いのでは?とご心配かもしれませんが、一般的に軽度ですし、効果が出てアレルギー反応が抑えられてくれば、副作用は消えていきます。副作用が理由となって中断することは多くありません。副作用は早ければ最初の週から、7~8割が1か月で軽減し、2か月後にはほとんどの方で副作用がなくなります。まれですが、体調など種々の要因により、時間が経過してから副作用が出ることもあります。

 シダキュアの成分は口→咽頭→食道→胃と移動しますが、胃に入ると分解されます。その途中で、接する場所にアレルギーを起こすことで、副作用が誘発されます。口の中(置いた場所や唾液とともに流れた場所など)・のどのかゆみ・刺激・違和感が最多です。のどのかゆみは耳に響くことがありますので耳のかゆみが出ることもあります。さらに、口の中が腫れたり、口内炎ができたりすることや、花粉症のような鼻水、くしゃみ、鼻づまりがでる場合もあります。

 強めの副作用としては、頻度は高くありませんが、のどが腫れて締めつけられる感じ、咳や呼吸がしにくい感じ、胸の痛み・違和感(食道からの痛み)、好酸球性食道炎、腹痛、吐き気、下痢などが報告されています。

 アナフィラキシーは極めてまれと考えられます。少数ですが市販後調査や学会での報告があります。ただし、アナフィラキシーが発生した状況は複雑で、様々な複合要因があり、「ほんとにシダキュアで?」という場合もありますので、さらに精査が必要と思われます。注意は必要ですが、過度にご心配なさらない方がいいかと思います。

 ただし、例外があるのが医療。最初の1回目は病院で行いますが、症状がある場合は遠慮なく医師に伝えてください。また、治療中にいつもと違う、症状がつらいと感じた場合は、すぐ受診してください。舌下を処方する医師は、万一の場合に備えて、救急病院等バックアップ施設を設定しておかなければいけないことになっています。主治医にご確認ください。

 1つ気になる報告があります。ダニの舌下免疫療法でアナフィラキシーが増加傾向であるという報告が、ヨーロッパの副作用データベースであるEudravigilanceから報告されていますので、念のため。ただ、かなり多い量のダニアレルゲンを使用するようで、シダキュアの場合とは状況が異なりそうです。興味のある方は一読してみてください。Worldwide surveys on anaphylaxis to sublingual immunotherapy with house dust mite tablets are urgently needed. Clin Transl Allergy. 2021 Mar;11(1):e12012.

Numbers of reported suspected cases of anaphylaxis during house dust mite SLIT per year in the EMA repository WWW.ADRreports.EU.

トラブルシューティング

 副作用が出たらどうしたらいいでしょうか。また、体調が良くない、口の中に傷や口内炎がある、歯の処置をした時などはどうしたらいいでしょうか。なかなか続かなくて中断しちゃったんだけど再開したいという場合もあるでしょう。以下、そんな場合のトラブルシューティングです

1 副作用がごく軽い場合

 口やのどがかゆい、違和感や刺激があるなどの軽い副作用は少しがまんすると15分程度で消えますし、早い人は1週間以内に、遅くとも1~2か月で出なくなります。軽度の副作用のために治療を中断される方はほとんどありません。
 でもやっぱりかゆいかなという場合は
✅前もって抗ヒスタミン薬を飲んでおく
✅(5分経ってから)うがいや飲水をする
✅最初入れる前に唾液をしっかりためておく
という方法もあります。
 また、前もって抗ヒスタミン薬を飲んでない場合で、舌下を行って30分以上たっても症状がおさまらない場合は抗ヒスタミン薬を内服します。この30分は1つの目安で、つらいようなら早めに飲んでかまいません。
 お子さんで、かゆみから注意をそらすために、その間だけアニメの動画を見せていたという方がいらっしゃいました。これもひとつの方法ですね。

2 吐き出し法

 口より奥ののど、耳、食道(胸部違和感・胸痛)に症状が出る場合があります。のどの違和感のために、吐いてしまう子もいます。通常はアレルゲンが消化されるため、胃から下の症状は出にくいですが、敏感な方では、腹痛、吐き気、下痢などの症状が出ることがあります。そのような場合は「吐き出し法」を行います。

 1分の舌の下に置いたあと通常では飲み込みますが、そうせずに唾液とともに吐き出します。舌の下にいる免疫細胞に花粉に慣れてもらう治療ですので、吐き出しても効果は変わりませんのでご安心ください。

3 口内のトラブル・体調不良

 口内炎がある・歯が抜けた・歯の処置で出血している・口の中に傷があるなどの場合は一時中断します。中断しても効果は大丈夫?安定した時期なら治療を1週間中断しても大丈夫で、再開できます。

 再開は
✅歯肉などの出血がおさまっている
✅口内炎や傷が覆われて痛みがおさまっている
ことがひとつの目安ですが、私は5~7日待つことが多いです。個々のアレルギーの強さ、口内炎の程度、傷や出血の程度によって異なりますので、ケースバイケースで判断します。なかなか、口内のトラブルが治まらない場合など判断に迷う場合は、舌下免疫療法の主治医だけでなく、歯科処置をした歯科医などに相談してください。

 体調が悪い時、風邪で熱がある、胃腸炎で下痢・嘔吐などがある時も中断します。感染がある時、特にしっかり症状があって、感染の活動性が高い時は、アレルギー症状が誘発されやすいからです。熱が下がって本人が元気である、普通に食べられるようになってきたとなれば再開できます。

4 舌下前後の運動・入浴

 最初は舌下の前後2時間は運動・入浴は不可となっていましたが、最近使用前の運動・入浴制限は無くなりました。添付文書には微妙な書き方がしてあってわかりにくいので改善しただきたいですね。

 ただ、舌下前運動可といっても、運動後にハーハーいってる時、お風呂で温まって顔が真っ赤でほかほかしてる時などはやめた方がいいと思います。いつものように落ち着いたらOKです。
 舌下後は2時間は、強い運動や入浴しないことになっています。運動・入浴によってアレルゲンの吸収が亢進する可能性があるからです。運動といっても部活などの激しい運動のことで、いつもと同じようにうちの中で活動するのは問題ありません。ずっとじっとしてる必要はありません(そもそもお子さんは無理ですよね)。

5 中断した場合は?

 しっかり毎日がいちばんですがなかなかそうも・・開始直後であれば困りますが、安定した時期になれば1週間は中断しても大丈夫です。ただ、1か月以上あいたら、初期量からやりなおしした方がいいと思います。その間だったら、ケースバイケースで考えます。ただこのあたりはまだエビデンスがはっきりしているわけではありません。

 こんな例がありました。ダニ舌下免疫療法を行ってたお子さん、よく効いていたのですが、ある時から急に鼻炎が悪化。どうしたんだろうと保護者の方と首をかしげてましたが、原因が判明しました。なんと、お子さんの机の引き出しに舌下錠がいっぱい。気を取り直して、初期量から再開し、すぐよくなりました。素晴らしかったのが、父も同時に治療を開始したこと。二人で励ましあい、今ではお二人ともハッピーです。

「Nobody’s perfect」
映画「お熱いのがお好き」のエンディング、ジャック・レモンのセリフですが、いろんな場面で使用される決まり文句です
アレルギーの日々の治療は大変、ストレスもたまります
人間は誰も完璧ではありません
そんなわけで時にはこのセリフを思い出してください
なんかよもやま話になってきましたね

6 なかなか続かない場合は?

「なかなか続かなくて」
いろんな方法を箇条書きにしてみました。参考にしてください。
いいアイディアがあったらコメントくださるとありがたいです。

✅洗面所や食卓など見えるところに置く
✅いつもの💊といっしょに
✅うまくできたら
→ほめる
→「投与したらカレンダーにシール」のように目に見えるような報酬を
✅分が何をやっているのか自覚させる
→どうやって治っていくのか、なぜ必要か「本人に」説明
✅症状を自覚させる
→口を閉じて呼吸させる
→鼻の下、目の周りなど鏡でみる
→症状日記をつけさせる
✅楽しいルーティンにする
→1分の間動画を見る
→保護者と遊ぶ
✅家族がいっしょに治療する
→仲間意識、いっしょにやると楽しい
✅成功体験を!
→こんなにティッシュを使わなくなったよ!
→いびきがなくなったよ
→よく眠れてるね!
→顔がすっきりしたね!
→薬が減ったね!

以上です。次は、花粉症といかに戦うか⑥ 舌下免疫療法その3 原理です。


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