見出し画像

花粉症といかに戦うか① 治療薬その1(小児を中心に)

 冬は厳しい寒さでしたが、最近暖かくなってきました。それとともにスギ花粉が大量に飛び始めました。本年11月から12月にかけて行われた環境省のスギ雄花花芽調査(https://www.env.go.jp/press/press_01019.html)から、ここ10年で最大の飛散量が予測されています。今年は花粉症の方には受難の年となりそうです。新たにデビューする方も多いのではないでしょうか。ここでは花粉症の治療(治療薬、効果、副作用、タイミング)について解説します。私は小児科医ですので、小児を中心としましたが、成人でも多くは共通する内容ですので、ご参考にしてください。

3つの花粉症治療

 治療はおおまかに3つに分けられます。
✅花粉によるアレルギー症状を抑える対症療法
→内服、点鼻、点眼などによる薬物療法
✅アレルゲンとなる花粉を回避する対策
✅アレルゲン免疫療法
→根本治療となりうる治療でアレルギー専門医としてはイチオシです。ただシーズン中は開始できませんので、治療開始は6月以降となります。

治療開始のタイミング

 対症療法の解説の前に、治療開始のタイミングについて解説しておきます。花粉症の症状が強くなると薬が効きにくくなります。そこでタイミングを逃さないことが大事。前年までの症状から花粉症がすでにわかっている場合は、治療開始は花粉飛散予測日、または症状が少しでも出た時点がよいとされます。

 アレルギーが強い場合には、それより少ない花粉数でも症状が出る方がいるかもしれません。アレルギーが強い方は飛散開始予想日より早くても、主治医に相談されるといいと思います。

 私は花粉アレルギーが強かったので外来の患者さんには「先生、そろそろ飛び始めてますか」とよく聞かれました。アレルギーが強い方にとっては、そこが治療開始のタイミングと言うわけです。でも最近は舌下免疫療法で症状が軽くなってしまったので、センサーとしての私の能力は低下してしまいました。

 ちなみに花粉飛散開始日とは?1平方センチメートルあたり1個以上のスギ花粉を、2日連続して観測した最初の日のことです。それでは対症療法の薬剤の解説です。

1 ステロイド点鼻薬

 対症療法の主力はステロイド点鼻薬です。ステロイドというと副作用がご心配かもしれませんが、主な処方薬の成分は鼻粘膜からほとんど吸収されず、鼻粘膜だけで効果を現します。薬液は飲み込んだり、粘膜線毛で運ばれたりしてその70%が腸管に行きますが、その後肝臓にすぐに運ばれて分解されます(1回肝臓を通過するだけで99%分解されます)。そのため全身の副作用はほぼありません。鼻水、くしゃみ、鼻づまり、かゆみの全症状に効果がある優れものです。

 局所の副作用として、鼻粘膜に刺激・痛み・鼻出血が起こることがありますが、やめるとよくなりますので、コントロールはしやすいです。副作用が懸念される場合は主治医に相談しましょう。ちなみに、私は噴射した時に時々痛みがあるので、噴射の方向を外側に変えたりしてできるだけ継続するようにしています。

 症状がある時だけでなく毎日使用することで最大の効果を発揮します(これは内服薬や点眼薬も同じですが)。最近は1日1回の薬が主流となり、使いやすくなりました。その場で効く血管収縮薬(次の記事で書きますが、問題があります)と異なり効果が出るのに多少時間がかかりますが、しっかり継続することが大切です。

 とってもいい薬なのですが、抗ヒスタミン薬に比べ処方数が4分の1程度といまひとつ普及していません。アドヒアランス(患者が治療方針の決定に賛同し積極的に治療を受けること)が低いとも言われています。理由としては
・副作用が心配
・使用感がよくない-鼻への刺激、液ダレ、のどへの流れ、味や臭いなど
・すぐに効果が出るわけではない-毎日の継続使用が必要
・一般的に内服よりも忘れやすい
などがあります。

 今は以前より使いやすくなっていますので、使用感に合わせた薬剤選択と使用法の検討が必要だと思います。医師が有用性と安全性について十分説明をすることも大事ですね。以下まとめです。

  • 鼻水・くしゃみ・鼻づまりすべてに効く

  • 全身副作用はほぼない

  • 局所副作用は限定的

  • 最近は1日1回で快適

1  補足:子どもは点鼻が嫌い

「鼻シュッシュやだ!」
お子さんは点鼻が好きではありません。いやがる場合はいろいろ工夫が必要です。まずはどうして必要か説明する、どうして嫌なのか傾聴することが大事です。

 以下、いろんな方からいただいたアイディアを列挙します。他に何かアイディアがありましたら、コメントください。

  • ゆっくり息をさせてリラックス

  • 座らせて噴霧

  • 風呂上りにやる-鼻が広がりやすく刺激が緩和される

  • うまくできたらほめる

  • 好きなキャラのシールを薬に貼っておく

  • うまくできたらカレンダーにシールを張る(一種の報酬を与える)

  • 動画などを見せて気をそらす

  • 最初は浅めに入れて徐々に慣らしていく

  • 家族や人形に試し打ちをして安心感を与える

  • リハーサルしてイメトレする-点鼻するまでの動作を遊びにする

2 内服抗ヒスタミン薬

 次に内服抗ヒスタミン薬です。みなさんはこちらの方が、なじみがあるかもしれません。ただ、鼻水、かゆみには効きますが、鼻づまりにはあまり効きません。

 現在たくさんの抗ヒスタミン薬が出ていますが、私はその中でも眠くなりにくい非鎮静性抗ヒスタミン薬をお勧めします。ヒスタミンはアレルギーの諸症状を引き起こすので、アレルギーの世界では悪役となることがありますが、脳内では大切なはたらきをしています。その中でも重要なのが、覚醒状態を保つ機能。ヒスタミンのおかげで、私たちは起きていられます。抗ヒスタミン薬は脳内に入って、このはたらきをブロックし、眠気・倦怠感を起こします。ヒスタミンのはたらきについてはまた別記事にしようと思います。

 眠くなりやすい鎮静性抗ヒスタミン薬は、眠くなるだけではなく、認知機能を抑制する、記憶力・集中力・判断力を落とすなど大事な脳の機能を抑えてしまいます。子ども、特に乳幼児ではけいれんを起こりやすくする場合もあります。市販薬には鎮静性抗ヒスタミン薬が含まれているものがありしかも乳幼児でも使用できるとされているものがあるため、問題視されています。

 米国の多くの州では運転中の使用が飲酒なみに禁止されています。日本においては、非鎮静性抗ヒスタミン薬の中でも、ビラノア®、デザレックス®、アレグラ®、クラリチン®などは、添付文書に自動車運転に関する注意喚起の記載がありません。効果には個人差がありますので、鎮静性が軽度な他の選択肢もあります。

 脳内のヒスタミンH1受容体占拠率(脳に薬が入ってどのくらい受容体に結合するか)から、鎮静の程度が推測できます。50%以上占拠する場合は鎮静性、20%以下なら非鎮静性、その間を軽度鎮静性とします。最近はほぼゼロの薬剤もあり、あらたに分類しようという考え方もあります。

 脳に入りにくい方から、まずビラノア®(15歳以上)、アレグラ®、デザレックス®(12歳以上)。このあたりはお勧めです。

ザイザル®、アレジオン®、エバステル®、ジルテック®、クラリチン®、アレロック®、タリオン®
と続きます。

 ただし、個人差があるので軽度鎮静性でも結構眠くなる場合もありますし、必ずしもこの順序通りというわけではありません。効果や剤型、内服回数なども合わせて検討し、自分に合う薬を選ぶことが大切です。

 以下に各薬剤のヒスタミンH1受容体占拠率のグラフをお示しします。
出典:谷内 一彦 日本耳鼻咽喉科学会会報 2019; 23:196-204

ヒスタミンH1受容体占拠率

抗ヒスタミン薬はどう選ぶか、まとめてみます。

  • 原則として非鎮静性を選択

  • 鎮静性は極力使用しない→特に乳幼児ではNG

  • 軽度鎮静性でも運転時などは使用しない

  • 睡眠薬としての使用はおすすめしない※

  • 個人差に留意する

  • 剤型・味・服用回数など考慮

※また別記事にしますが鎮静性抗ヒスタミン薬は睡眠に影響し、睡眠の質を低下させる可能性があります。

 抗ヒスタミン薬について記載してきましたが、以下の論文(少し古めですが)に抗ヒスタミン薬のリスクについてよくまとめられているのでご紹介しておきます。
Church MK, Maurer M, Simons FER, et al. Risk of first-generation H1-antihistamines: a GA2LEN position paper. Allergy 2010;65:459–66.

以上です 花粉症といかに戦うか② 治療薬その2に続きます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?