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花粉症といかに戦うか④ 舌下免疫療法その1 方法・適応・効果

 花粉症治療の真打ちともいえるアレルゲン免疫療法は、原因となるアレルゲンを少しずつ体内に入れることによって、アレルギー反応を起こすはたらきそのものを抑え、アレルギーを起こりにくくする方法です。症状を抑えるだけの対症療法とは異なり、アレルギーの根本的な治療となりうる方法です。アレルギー自体が起こりにくくなるので快適な効き心地です。

 その中でも舌下免疫療法は、小児でも外来で容易に可能であることから、お勧めの治療です。この記事では、その方法・使い方、原理、効果、副作用、使用上の注意・トラブルシューティング、しっかり継続するためのコツなどについて解説します。

1 舌下免疫療法の方法

 アレルゲンが入った薬剤を、舌の下に短時間置くだけの治療で、5歳から可能です。舌下錠には以下の3種類があります。

✅シダキュア®️ スギ花粉用
✅ミティキュア®️ ダニ用
✅アシテア®️ ダニ用
下の画像はスギ花粉症治療用のシダキュアの写真です。今回の記事ではシダキュアについて解説します。

シダキュア

 シダキュア®️の場合は、錠剤を舌の下に入れますが、錠剤は唾液ですぐに溶けますので、そのままで1分間保持します。その後唾液とともに飲み込みます。5分経てば飲食やうがいができます。

 錠剤はもろいので、取り出す時に一般的な硬い薬を取り出すように丸い方から押すと、砕けてしまいます。青の「はがす」のところからはがしたうえでやさしく取り出します。

 最初の1回目は、服薬方法の指導や副作用のチェックのため、外来で行います。1週間は用量の少ない2000単位の製剤で練習し、次の週に外来に規定忠家、強い副作用などないことを確認のうえ、5000単位に増量して続けます。

 治療は最低でも3年行いますが、より長く行うとより良い効果と効果の持続時間の延長が期待できますので、できれば5年がお勧めです。下の図はダニの舌下免疫療法のデータですが、3年より4年、5年の方が効果が長続きします。

 シダキュア®️を入れる時、最初はどこに入れたらいいか迷ってしまうかもしれません。鏡の前で口を開け、どこに入れるか指さしてみるなどイメージトレーニングしておくと、うまく行くことが多いです。ただ、お子さんは1~2回やれば、すぐ慣れてしまいます。

 錠剤は湿気やすいので、開封したら早めに使います。入れる時に指で長く持っていると溶けはじめますので、ご注意。あまりあることではないですが、もし錠剤が割れたり、砕けたりしても、破片を全部入れれば大丈夫です(だいたい全部でかまいません。多少は残ってしまってもしかたありませんし、効果に大きくは影響しません)。

2 どんな方にお勧め?

 重い軽いにかかわらず「すべて」のスギ花粉症の方にお勧めです。内服、点鼻などの効果が十分でない方はもちろんのことですが、根本的治療を希望される方、受験など大事なことを控えている方、なるべく薬を飲みたくない方なども対象になります。鼻アレルギー診療ガイドライン 2020年版でも、軽い方から重い方まで、すべての重症度の方が適応とされています。以下の条件があります。

✅原則5歳以上
✅特異的IgE検査 or 皮膚テスト陽性
✅薬剤を1分間保持できる
✅免疫が落ちる病気がない・免疫が落ちる薬を使っていない
✅重い喘息や心臓疾患がない
✅妊娠していない(可能性がない)

 3~5年は長いなあと思われるかもしれません。私が迷っている患者さんや保護者の方によく言うのは
「子どもが成長するには時間かかるでしょ、アレルギーも調整するには時間がかかるんですよ」
「ピアノうまくなるの5年はかかるよね」→ピアノのところは人によって変更
「意外にあっという間だよ、しかも花粉症なくて快適に」

 また早く始めた方が効果がいいですし、新たなアレルゲンに感作される可能性が低くなりますので(4の効果のところで解説)
「早く始めるとよく効くよ」
「受験とかで忙しくなる前がいいよ」
などとお話します。

3 妊娠中、あるいは妊娠の可能性のある方は

 妊娠している場合、妊娠の可能性のある場所は原則治療を開始できません。確率が高いわけではありませんが、アレルギー反応が出た場合に放出されるヒスタミンが子宮筋を収縮させる可能性があるからです。

 ただし、妊娠前からすでに舌下免疫療法を行っていていて、落ち着いている方は継続できます。また、お腹の赤ちゃんにも影響はありません。妊娠中の安全性については下記論文をご参照ください。

4 舌下免疫療法の効果は?

 1年目でも70~80%の方に効果があります。2→3→5年と継続するとさらに効果のある方が増えます。他の治療が必要なくなるほど効果がある人も2割に達しますが、そこまでいかなくても、多くの方が症状が軽くなり、かなり楽になります。効果のあった方に聞きますと「症状が出てこない、出たとしても軽くしか出てこない」「出ている症状を薬で押さえつけているといっか感じではなく、自然によくなっている感じ」などとおっしゃいます。

 残念ながらあまり効果がない場合もあります。単に効かないというよりは、他に原因がある場合が多いかと思います。ダニやペットにアレルギーがあれば症状が残ります。冬〜春のハンノキ、春のヒノキ、初夏のカモガヤはスギと季節がかぶるため、複数の花粉にアレルギーがある場合は症状が残ります。

 おまけといいますか、舌下免疫療法にはうれしい効果もあります。舌下免疫を行うとその後新しいアレルゲンに感作されにくくなる(新たなアレルギーが出にくい)というものです。図に示すように、小児のアレルギー性鼻炎患者さん 216名にダニや花粉など原因となる1種類のアレルゲンに対し3年間舌下免疫を行ったら、新たなアレルゲンに感作された人は対照群では34.8%、舌下免疫療法群では3.1%と1/10になったという報告があります。舌下免疫療法をはじめとしたアレルゲン免疫療法の有用性をさらに示すデータですね。

5 皮下 vs 舌下

  私見ですが、小児のスギ花粉症に関して言えば、舌下に軍配が上がると考えます。

舌下の有利な点は
✅痛くない
✅投与が簡単
✅自宅で継続できる
✅通院回数が少ない
✅重い副作用は少ない
✅できる施設が限られている
などです。
そんなわけで、総合力ではお子さんに適していると思います。

ただし、皮下も長所があります。効果は皮下の方がやや強いようです。舌下ではできない他のアレルゲンの治療も「同時に」できます。状況に合わせてご考慮ください。

6  ミティキュアといっしょにできる?

 最初は二つの舌下製剤を併用することは推奨されていませんでしたが、警経験が蓄積し、今ではダニのミティキュアとスギのシダキュアによる治療をいっしょに行うことが増えてきました。
 ただし①同時開始はできませんし、同時に舌下に入れることもまだお勧めできません。一つの薬剤を開始して1か月以上たって安定している状態で、次の薬剤を開始します。二つの舌下錠を同時に入れず、一方を入れて1分以上経ってからいれます。

以上です。花粉症といかに戦うか⑤ 舌下免疫療法その2 副作用とトラブルシューティングに続きます。


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