ぼくと彼女は浅草方面へ行く

 ぼくと彼女は浅草方面へ行く。今年の初めのことである。「地元の友人の集まり」と「高校の部活の集まり」という2件の新年会を掛け持ちし、ぼくはコンビニの夜勤のバイトに勤しんだ。そして、自宅に帰って新年一発目のnoteを投稿して、少しだけ仮眠をとったあと、午後から由梨(交際相手)と会った。ぼくがバイトの夜勤明けとなることを考慮して、会うのを午後からにしてくれたのである。逆に言うと、由梨がそんなことも考慮してくれない彼女だったら、ぼくらの関係はこんなに長続きしていない。ただでさえ性的指向が噛み合ってないんだし(注:ぼくはゲイです)。まあ、本気でぼくのことを考えてくれるんだったら、会うのは「午後から」じゃなく「夜だけ」にしてほしいし、ぼくが高所恐怖症なのを知っていて東京スカイツリーに連行するのはやめてほしいんだけどさ……

 JR蒲田駅のホームで待ち合わせし(今年もぼくらのデートはぼくの微妙な遅刻で幕を開けました)(相変わらずごめんなさい)、京浜東北線に乗車。さすがに三が日の電車はガラガラだ。「眠そう」「やつれたんじゃない?」などと言われながら、高輪ゲートウェイ駅に到着。改札を出て都営浅草線泉岳寺駅まで歩く。三が日にこんな情緒のない道を歩いている人間なんてぼくらぐらいしかいないんじゃないか(失礼だしそんなことはない)。浅草線に乗って押上駅へ。車内で一瞬ウトウトしてしまい、「押上着いたよ」と起こされる。目を閉じていただけで寝てはいなかったんですけどね!

 駅の改札を出てエスカレーターを上がると、さすがに東京スカイツリータウンは激混みです。屋外へ出て展望台のエントランスへ。ぼくらは前売券を買っておいたからチケット購入列には並ばないで済んだけど、それでも入場まで1時間以上は並ばないといけないと掲示されていた。ぼくが「じゃあ列に並ぶ前にトイレ行っておくか」と提案したら、由梨が「わたしは大丈夫」と言うので、ぼくは「いや、行っておいたほうがいい」と説得する。「わたしは大丈夫」「いや、行っておいたほうがいい」「本当に大丈夫だから」「いや、おしっこ漏れちゃう……」「早く一人で行って!」というやり取りで30秒程度消費する。結局ぼくだけトイレに行って、いますれ違った男子はイケメンだったなと思いつつ、用を足して由梨のもとへ走って戻った(もちろんちゃんと手も洗いましたよ!)

 この日ぼくらが東京スカイツリーに行くことにしたのは、由梨がちいかわが好きで、東京スカイツリーの「天望回廊」と「天望デッキ」でちいかわのコラボ企画が開催中だったからである。ただ、由梨のちいかわ熱は明らかに去年より冷めており、行くのは「天望回廊」のほうだけでいいということだった。おかげでぼくらはチケット代がかさまずに済んだわけだが、そもそもぼくは「天望回廊にしか行けないチケット」と「天望回廊+天望デッキの両方に行けるチケット」の2種類を並べる東京スカイツリーの魂胆が気に食わない。これだと本気でちいかわが好きなひとは後者のチケットを買わざるを得ないじゃないか。ひとの足元を見た商売をしやがって。由梨が「行くのは天望回廊のほうだけでいい」と言ったのは、万年金欠のぼくを気遣っているからのような気もしたので、それだけにぼくは東京スカイツリーの商法には余計に腹が立つ。ぼくはこういう経済格差を突いてくる商売のやり方が好きじゃない。初めから「天望回廊」だけでちいかわコラボ企画を開催するか、いっそのこと初めから「天望回廊+天望デッキの両方に行けるチケット」だけを販売してほしい。「1,000円追加で払えばフルで見せてやるよ? ン? どうした? お前はカネ払わねえのか? いや、払ねえのか(笑)」と客に迫るやり口は下品である。だからぼくは東京タワーのことは好きだけど、東京スカイツリーのことは信用できないんだよな。

 ……という話を入場列に並んでいる時に由梨にしたら、由梨は「でも、天望回廊と天望デッキは別のフロアなんだから(追加料金は)当然じゃない?」「行くのは天望回廊だけでいいってひとも結構いそうだし、この2種類のチケットを用意しているのは親切だと思うよ」と言い返してきて、まあ、たしかにそうかもなと思った。「天望回廊」は上の階の展望エリア、「天望デッキ」は下の階の展望エリアだから、「行くのは天望回廊だけで十分だ」という客はいても「天望回廊には行きたくない」という客はまずいない。「天望回廊」と「天望デッキ」は同じタワーの中とはいえ別のエリアだから諸経費も別にかかるわけで、そう考えると、東京スカイツリーが「天望回廊にしか行けないチケット」と「天望回廊+天望デッキの両方に行けるチケット」の2種類を用意しているのは合理的で良心的な対応だと言える。……うーん、それでもなんかちょっとモヤモヤはするんで、ぼくは東京スカイツリーより東京タワーのほうが好きですけどね!

 地上450m「天望回廊」はちいかわファンのせいで激混み・鬼混み・狂い混みで、そもそもちいかわに何の興味もないぼくとしては怒りすら覚えたのだが、おかげで自分が高所恐怖症であることを忘れられたのはよかった。混んでいたせいであまり窓に近寄らず(近寄れず)に済んだし。……とまあ、高いチケット代を払ってせっかく高さ世界一の電波塔に上ったのに「ここが高所であることを忘れられてよかった」という感想を持つぼくは、どう考えても東京スカイツリーの客にふさわしくない人間だと思う。

 「天望回廊」の壁に描かれているちいかわのイラストや、随所に置かれているちいかわのオブジェを写真に撮っている由梨の隣に立ちながら、やっぱりこのひとはちいかわが相変わらず好きなんだなと思った。そりゃ、一昨年とか去年の前半までと比べたら熱が冷めてはいるけどさ。ぼくが「やっぱり天望デッキも行く?」と尋ねたら、由梨は「え? 行かないよ。(天望デッキに行くなら)また下で列に並ばなきゃいけないんだよ?」と言い返してきたけど、でも、本当は内心では行きたかったのかもしれない。

 ちいかわ軍団のフォトスポットで、由梨のスマホ(ぼくのスマホよりカメラの性能がいい)で由梨を被写体にして写真を撮ってあげていたら、後ろにいた見ず知らずのご婦人から「撮りましょうか?」と声をかけられて、ぼくは由梨とのツーショット(ちいかわ含めるとスリーショット)を撮られる羽目になった。なにこれ。激ハズなんですけど。写真を撮ってもらったあと、逆にそのご婦人と娘さんとちいかわの集合写真を撮ってあげなきゃいけない空気になったので、ぼくは「じゃあいきます。はい、チーズ!」と言って写真を撮ってあげた。それは別にいいのだが、ぼくは、そのご婦人にスマホを返す時に「写真、確認してください」とクールな口調で言ってしまった。ご婦人としてはキツい感じで言われたように感じたかもしれない。あとでぼくがそのことを由梨に言ったら、由梨は「別に平気だと思うよ」と言っていたが、ぼくとしてはもっと柔らかい口調で「お写真、撮れたかなーっ? チェックしてみてくださぁい!」と言えばよかったなと反省している(それはそれでキモがられそう)

 エレベーターで5階へ降り、「お腹が空いたから何か食べよう」と言い合いつつもテレビ局ショップへ。ぼくが『笑点』の手拭いを買おうかどうか悩んでいると、由梨から珍しく「いいんじゃない? 高くないし」とGOサインが出たので、ぼくはルンルン気分で『笑点』の手拭いを手に取る。正月だしたまには母親にも何か買っていってあげるかと思って、『相棒』の特命係木札クッキーも手に取る(ぼくの母親は『相棒』を毎週見ているので)。ぼくが独り言っぽく「実家のお土産に買おうかな」とつぶやいたら、由梨は「……お母さんに? 買いなよ! 一緒に食べなよ!」とうれしそうな表情を見せた。由梨はぼくと母親が実際以上に仲が悪いと思い込んでいて、ぼくが家族と「健全」に関わろうとするのを知ると喜ぶのだ。ぼくは由梨のこういうところは苦手だ。別にいいじゃん、家族関係が崩壊してたって。各自が幸せだったらそれでいいと思うんだけど……ダメでしょうか?

 エスカレーターで下へ降りてフードコートのエリアへ行ったが、ものすごく混んでいて落ち着けそうになかったので、「せっかくだから浅草まで行こうか」ということになった。冷静に考えれば、東京スカイツリー(正確には東京ソラマチ)が混雑しているのに日本を代表する観光地・浅草が空いているわけはないのだが、この時のぼくらはお腹が空きすぎていて正常な判断能力を失っていたのである。

 スマホのGoogleマップを頼りに徒歩で浅草へ向かう。途中ですみだリバーウォークという橋を渡らないといけないことが判明し、ぼくは「こわい……こわい……」と言いながら橋を渡った。高所恐怖症と関係があるのか不明だが、ぼくは川をまたぐ橋を渡るのもめちゃくちゃ怖いのだ。由梨から悪魔の笑みで「手つなごうか?」とイジられ、ぼくは「最悪そうなるかも」と答えたが、結局は手をつながずに渡り切ることができた。いま考えれば、ぼくらは傍目にはカップルだから手をつないでもよかったんですけどね。ぼくらの目の前ではふつうに手をつないでいるカップルが歩いてましたし。

 「浅草」というよりは「台東区」という感じの……つまりは「観光地」というよりは「住宅地」みたいなところを通過して、人通りの賑やかな通りへ向かう。いま「賑やかな」と書いたが、正確には「大混雑」である。由梨が「ここひとがいっぱいいるね」と言って、左側の狭い路地のところに入っていこうとする。ひとがいっぱいいるならそこに行くのを避けるのがふつうだと思うのだが……危機管理能力がなってないぞ!

 その路地に入ったら美味しそうなメロンパンが売られていた。ぼくも空腹が限界だったので「ちょっと食べちゃうか」ということで、二人で一個ずつ買う。思ったよりサイズが大きいので困惑しつつも、もぐもぐ。まあ、普通に美味しい。元の本通り(?)へ戻ると五重塔が見えた。高所恐怖症のぼくだが、五重塔ぐらいだったら目の当たりにしても平気である(さっきのスカイツリーで高層建築物に免疫がついたのかもしれない)。由梨から「行ってみようよ」と言われたので向かうことに。その時に初めて知ったのだが、そこが有名な浅草寺というお寺だった。

 ぼくはすぐに五重塔に向かおうとしたのが、その途中でおみくじが売られていたので1個100円で1人ずつ引く。ぼくは「吉」だったが、由梨が「末小吉」だったのでなんか気まずい。ぼくが「でも、2人合わせたら大吉だね」と言って和ませようとしたら、由梨が「……合わせても大吉には届かないんじゃない?」と冷静にツッコんできて、ぼくらはどっちにしろ「そこまで運がないコンビ」だという結論に至った。こういう変な空気になりかねないので、全国の神社仏閣には今後は「大吉」のおみくじだけを用意するようにしていただきたい(それだと逆にありがたくないぞ!)

 五重塔に近付いて写真を撮ったあと、本堂のほうへ向かい、煙の窯(?)のところに立ち寄った。近くにいた人々の雑談を総合すると、この窯から出てくる煙を頭にかけると頭がよくなるらしい。「これ以上頭がよくなると困るんだけどなあ……」などと言いながら、なんだかんだで煙を頭にかける(隣の由梨には多めにかけておいた)。本堂へ向かってお詣り。賽銭箱に小銭を入れる。ぼくの財布の中には5円玉があったけど、由梨の財布の中にはなかったので、ぼくの5円玉と由梨の10円玉を交換してあげた。なんか5円儲けた気がする(実際には浅草寺が5円多く儲けただけなのだが)

 ぼくが「諸々上手くいきますように」とお祈りして頭を上げると、隣の由梨はまだ何かお祈りしていた。本堂の階段を降りながら、ぼくが「何をお祈りしてたの? なんかめちゃくちゃお祈りしてたけど」と聞いたら、由梨から「お願い事はひとに言っちゃいけないんだよ」と教えられた。ぼくは神社仏閣のルールに詳しくないので素直に「へえ、そうなんだ。知らなかった」と返したが、いま考えてみると、由梨は自分のお願い事を他人に言うのが恥ずかしかったから隠しただけのような気がしてならない。どうせ「就活が上手くいきますように」だろうけどな!

 逆にぼくも由梨から「そういう(ぼくの下の名前)くんは何をお願いしたのさ?」と聞かれたので、お願い事を他人に言ったらダメだったんじゃねえのかよと思いつつ、ぼくは「『諸々上手くいきますように』って祈った」と正直に答えた。神社やお寺で賽銭箱を前にお祈りをする時、ぼくは周りの雑音や気配が気になって具体的なことをお祈りできないんだよな。誰かに監視されてるんじゃないかと思って緊張しちゃうっていうか。ただ、ごくたまに学科の友人の香川と一緒に暇つぶしで大学の教会に行く時は、意外と具体的なことを祈れるんですよね。その時に祈るのは、なぜか自分のことじゃなくて「ウクライナに一日も早く平和が訪れますように」とかなんだけど(急に偽善者ぶってすみません)(そもそもぼくも香川もキリスト教徒ではありません)。たぶん、この集中力の差は、教会の聖堂が屋内にあるという事情が関係しているように思う。祈る場所が屋外か屋内かっていう違いは、ぼくのような臆病者にとっては大きい。

 ……まあ、この話は本当にどうでもいいですね。ぼくが「『諸々上手くいきますように』って祈った」と告げると、由梨は「……ふーん……」という微妙なリアクションを返してきた。なんだそれ。ぼくの説明を信じていないのか。どうせ疑うんだったら最初から質問しないでいただきたいものである!(心の中で断固抗議)

 浅草寺を出たあと、本通り(?)で売られているメンチカツの列に並ぶ。思ったより値段が高かったので後悔しつつ、もぐもぐ。まあ、美味しかったので文句は言うまい! その後、雑貨店で由梨がアクセサリーを買ったのを見届けたあと、アーケード通りで噂の「マルベル堂」(昭和のスターのプロマイドのお店)を見つけたので入店する。ぼくは「尾藤イサオだって!」「すげえ、池部良だよ!」などと言ってずっと興奮していたが、由梨は明らかにぼくよりテンションが低めだった。ぼくに合わせて「歌手のひと?」とか「髪型がすごい」などと一応合いの手を挟んではいたが、これ以上付き合わせるのは気が引けたので、ぼくは三波春夫と立川談志と藤岡弘、のプロマイドを選んでレジに持って行った。本当は秋吉久美子のプロマイドも買いたかったが、ぼくが白黒の秋吉久美子に見惚れている時、背後の同行者から嫉妬に近い念を感じたのでやめておいた。

 メロンパンとメンチカツを食べたせいでお腹の好き具合が微妙になっていたけど、でも二人とも何かしっかり食べたい気持ちではあったので、回転寿司のお店へ入った。そのお店はカウンター席がメインで、注文を受けて目の前で職人さんがお寿司を握るタイプのお店だった(お値段はリーズナブルでした)。付き合って1年半が経つが、ぼくと由梨がお寿司屋さんに一緒に入るのはこれが初めてのはずだ。今回初めて一緒にお寿司を食べて、由梨はマグロが好きだということが分かった。ぼくもマグロは好きだが、かんぴょう巻きのほうにシンパシーを感じる人間なので、「かんぴょう巻き美味しいよう? かんぴょう巻き美味しいよう?」と隣の由梨に言いまくってやった。そうしたら由梨は「うん、聞こえてるよ? うん? どうしたのかなー?」などと言って、ぼくを幼稚園児扱いしてきた。着地点の見えないミニコントの始まりである。傍から見たら完全にバカである。

 ぼくはこの席で誕生日プレゼントをもらった。ぼくは去年の誕生日も、由梨から明らかに高価そうなプレゼントをもらった。今年の誕生日も由梨が何かをくれそうな気がしたので、ぼくは一か月以上前から「誕生日は何もいらない。本当に何もいらない」と由梨に伝えておいた。由梨も「分かった。何も贈らない」と言っていた。それなのに、である。はあ。しかも名前入りのボールペンって。高級な箱に入ったボールペンって。どれぐらいの値段がするのかすら想像がつかないよ……。メッセージカードが同封されていたので読んでみる。「いつもありがとう。これからもよろしく」的な内容である。はあ。誕生日プレゼントならこのカードだけでよかったのに。お金を使わせてしまって申し訳ない。ぼくは由梨に作り笑顔で「ありがとう。とてもうれしい」と告げながら、誕生日プレゼントをリュックサックにしまう。まあ、いいか。バイトの時給的に由梨のほうが稼ぎはいいんだし。

 お寿司屋さんを出て、由梨のお土産購入に付き合ったあと、ぼくらは都営浅草線浅草駅から帰ることに。駅に向かう途中でぼくがあくびをすると、由梨が「どこか泊まってく?」と冗談っぽく言った。ぼくは「ううん、今日は帰ろう」と真顔で答える。ぼくが一晩帰宅しなかったところで心配するひとはどこにもいないが、由梨を正月三が日から彼氏とお泊まりさせるわけにはいかない。去年の11月に由梨の実家に行ってご両親とお会いしてから、ぼくはそういうことをむしろ気にするようになった。

 行きと逆ルートで家路を辿る。泉岳寺駅で下車して、高輪ゲートウェイ駅でJR京浜東北線(大船方面)に乗車。二人で並んで座りながら、ぼくはリュックの中からさっきもらった誕生日プレゼントを取り出して「本当にありがとね」とか言う。なんだかんだでぼくは名前入りの高級ボールペンをもらえてうれしいのです。普段ならぼくは蒲田駅で下車して、由梨は一人で桜木町駅まで向かうのだが、なんとなくもっとしゃべりたい気分だったので、ぼくは蒲田駅で降りずに桜木町駅まで付き合った。「じゃあ今年もよろしく」と言って由梨と別れて、階段を下りて向かい側のホームへ。横浜線に乗って横浜駅で京浜東北線に乗り換えて、ぼくは蒲田駅へ舞い戻りましたとさ(車内では爆睡しましたとさ!)

 ……なんだかとんでもない長文ルポルタージュになってしまった。本当は今回は「ぼくは誕生日プレゼントをもらうのが気が引ける」という話を書くつもりで、あくまでもその前フリとして今年由梨からもらった誕生日プレゼントのことを書くつもりだったのだが、そっちの話(というか東京スカイツリー+浅草観光全体)がテーマの記事になってしまった。まあ、こういうことも憶えているうちに書いておかないと結構忘れちゃうからね。実際、一年前のこととかだいぶ忘れてるもん。もっとも、別に忘れたところで生活に支障はないんだけどさ。

 でも考えてみたら、人生って、そういう「忘れても困らない想い出」の詰め合わせのことを言うのかもしれないな。少なくともぼくの人生はそうだ。ぼくの人生に忘れたら困るような出来事なんてない。「無駄」な出来事しかない。ぼくは自分の人生を「無駄」の詰め合わせだと思っているが、だからこそ自分の人生をとても誇らしく思っている。人生は「無駄」な部分こそが面白い。「無駄」にこそ価値がある。逆説的に言うと、「人生では『無駄』が無駄にならない」=「人生には無駄がない」ということだ。はい! 積極的ニヒリズムばんざい! いまここに自分で書いたことを忘れない限り、ぼくは自分の人生を見捨てずに済みそうである。

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