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地域の資源をフラットに見て、気付き、これからを構想する【Connect-Shiga “滋賀の地域デザインと人類学”】第1部:ゲストトーク

本記事は、2021年2月20日にオンラインで開催されたイベント「Connect-Shiga “滋賀の地域デザインと人類学”」のイベントレポートです。
イベントは、「滋賀の地域デザインと人類学」をテーマとしたゲストトーク、滋賀の地域をフィールドに活動してきた「滋賀ゼミ2020」の発表会の2本立てで行われました。
こちらの記事は、第1部ゲストトークのレポートです。
*第2部滋賀ゼミ2020最終発表会のレポートはこちらから。

オフラインでのイベント開催が難しい中、「滋賀の地域デザインと人類学」をテーマに、オンライン上に100名近い参加者が集まり、まちづくりや滋賀について考えました。
参加申込みをいただいた方(見逃し配信含む)は滋賀県以外の出身の方が約7割を占めています。

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第1部のゲストトークでは、まちづくりを文化人類学の視点から研究実践されている大阪国際大学の早川公さんと、滋賀県産業支援プラザで地域の創業支援に数多く携わってこられた舩越英之さんをゲストにお招き。

早川さんの専門分野は「まちづくりと文化人類学」。今回のテーマが「人類学と地域デザイン」ということで、滋賀を見つめなおす中で、文化人類学の観点からどのように地域を見ればよいのかを考えていきました。

もうひとりのゲスト、滋賀の創業支援に長く携わられてきた舩越さん。2016年には全国でわずか4人しか選ばれなかった「産業創造師」にも認定されたそうです。そんな舩越さんに、今の滋賀で起こっている面白い活動事例をお話いただきました。

お二人のゲストトークのあと、長浜市出身で博報堂の岩嵜博論さんをモデレーターに三人でクロストークを繰り広げ、一見つながりがなさそうな「まちづくりと文化人類学」をどのようにお互いが捉えたのかをお話しました。

本イベントレポートでは、ゲストトークとクロストークの一部を振り返っていきます。

文化人類学は「なんじゃこりゃ」から始まる - 大阪国際大学 早川公さん

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まちづくりを「文化人類学」という観点で見るとどうなのか、を研究されている早川さん。これまで注目を浴びてこなかった文化人類学ですが、「贈与」「ギフトエコノミー」といったキーワードで、再度注目されているそうです。

文化人類学とは、“他者”の世界を理解しようとすることによって、自分が生きる世界を分かりなおす学問。ここでの“他者”は他人だけでなく、文化、自然、モノ、機械(ロボットなど)も含みます。

では、どうすれば“他者”の世界を理解しようとすることによって、自分が生きる世界を分かりなおすことができるのか。それには、世界に飛び込み、現地に入って感じ取る「フィールドワーク」と、世界を書き留め、記録・分析・考察する「エスノグラフィ」の2つ方法があります。

こうした文化人類学の手法のうち、早川さんは「フィールドワーク」こそ、まちづくりにとって大事なのではないか、と考えています。

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フィールドワークで“他者”と出会ったときの衝撃=「なんじゃこりゃ」=「カルチャーショック」は、地域デザインを再構想するうえでも大事です。凝り固まったイメージのまま地域を見ていると、正しく理解することはできないでしょう。

「きっとあの地域はこうだろう」と決めつけることなく、世界の見方を変えることで、フィールドワークで気付きを得ることができ、そこから地域デザインが始まるのです。

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実際に人類学者も、「初心」「新鮮な驚き」をもって人間の行動を受け入れ、判断せずに観察し、さらに感情移入することを実践しているそうです。そして「分析者=私である」ということから離れて、分からなさに向き合うことこそが、もっとも大事な過程です。

さいごに早川さんは、「滋賀ゼミ2020」でも、ゼミ生が実際に地域を訪れ、どうやって分からなさに向き合ってきたか、問題を定義して解決を考えたのか、が大事ですね、と締めくくりました。


当たり前にある「琵琶湖」を新しく捉え直しビジネスチャンスに - 滋賀県産業支援プラザ 舩越英之さん

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滋賀県産業支援プラザで地域の創業支援に数多く携わってこられた舩越英之さん。創業支援として、起業の初期段階で何をすればいいのか、事業計画の立て方、お客様にアイデアを聞きに行く方法などアドバイス・サポートしています。

数々の支援の中から、今回はLIFE LINES PRODUCTの岡崎さんをご紹介。岡崎さんは、大手小売チェーンで働いたあと、2014年に独立・開業。2014年6月に水陸両用ヨガブランドSPOUTを生み出し、滋賀県の琵琶湖で「SUP×ヨガ」のイベントを開催。新たな市場である「SUP×ヨガ」を見つけ、メーカーと組んでSUPヨガのウェア開発も手掛けています。

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年々イベントの規模も来場者も拡大し、3年目には3200人が来場。都市部からの来場が多いのが特徴ですが、3年目には地元の人も大勢参加されとても盛況でした。

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岡崎さんの事業の成功ポイントは3つ。一つ目は、大手小売チェーンでの経験を活かしたウェアづくりを行ったこと。二つ目は、滋賀県に当たり前のように存在している「琵琶湖」を新しく捉え直したこと。三つ目は、琵琶湖と「SUP×ヨガ」という新たな市場をつなげたことです。

舩越さんは、岡崎さんはこれまでの経験と、再発見した地元の魅力を組み合わせてビジネスチャンスを生み出し、着実に実行して実現された、と感じているそうです。

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▲グラフィックレコーディング:あるがさん

地域の資源をフラットに見て気付き、これからを構想する - 早川さん×舩越さん×岩嵜さん

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お二人のゲストトークのあと、長浜市出身で博報堂の岩嵜博論さんをモデレーターに三人でクロストークを繰り広げ、一見つながりがなさそうな「まちづくりと文化人類学」をどのようにお互いが捉えたのかをお話しました。

ここでは一部を抜粋してお届けします。

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岩嵜:早川さん、どうすればフィールドワークが「創造」につながるのか、教えてください。

早川:何よりも「カルチャーショック」が大事です。カルチャーショックが起きたときに、多文化と自文化が同時に創造されます。つまり驚いたということは、そこに当たり前だと思っていた自分がいたことを発見するわけです。

岩嵜:カルチャーショックを受けたあと、どうポジティブに捉え解釈し直すのでしょうか?

早川:師匠には「だいたい同じ」という言葉を使うな、と言われていましたね。どんな背景でその言葉を使っているのか、細かな違いにまで着目するのが大事です。

岩嵜:舩越さん、琵琶湖でのSUP×ヨガは、滋賀県らしいビジネスでしたね。他にも地域発ビジネスや起業家の特徴を教えてください。

舩越:琵琶湖を当たり前のように見ていて気付かなかった、という事例は、地場産業の産地であってもそうです。違う角度から見て新しいビジネスの可能性に気付ける人が、次のステージに進みますね。

岩嵜:岡崎さんは2014年から「構想」を持っていたそうですが、「構想」は早川さんの「創造性」にもつながってくると思います。

舩越:起業家においては、将来こんな姿になりたいという未来を強く描き、ビジネス上の現在地との差分を埋める行動ができる人がうまくいきます。特にイキイキと元気に楽しそうに話す起業家は、周りがお手伝いしたくなりますね。

早川:文化人類学として「創造性」は「一緒につくる」ということだと思っています。卓越した人が地域をプロデュースするのではなく、人々が絡み合って作り上げていくのだと。

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▲グラフィックレコーディング:あるがさん

岩嵜:SUP×ヨガのケースだと、岡崎さんは人類学者ではないものの、フラットに地域の資源を見て気付くことができていた、ということでしょうか?

早川:デザイン思考においても、人間中心アプローチもあります。求めているユーザーの立場で、いかに「私」に固執しないか、が大事です。

舩越:岡崎さんも、混沌に溺れるといった言葉のように、いち早く自身のビジネスアイデアを世間にさらして、フィードバックをもらっていました。自分の考えに縛られずに、地域の使ってもらう人とのズレをいち早く見つけて修正していましたね。

岩嵜:なるほど。どんどん良くしていこうとする場合、「人に対する関心」が大事なのでしょうか?世の中こうなったらいいなという「構想力」とか。

早川:まさにそうですね。地域の中で何かしてやるぞ、ではなく、同時に形づくられていく感覚・感性・態度を持てる人が、地域を変えられる人だと思います。

舩越:起業家では、これをやりたいんだ、と宣言することで協力者が増えていきますね。応援されやすい人・事業は、周りの人と一緒に同時に作り上げられていきます。

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▲グラフィックレコーディング:あるがさん

さいごに、「滋賀ゼミ」はどういう意味付けがされるのか、聞いてみました。

早川:インキュベーションでは「孵化」という言葉がありましたが、期待の意味も込めて、さなぎの中身がドロドロに溶けて再構築して蝶になるように、ドロドロに溶ける私を見守る場として滋賀ゼミがあるといいのかな、と思いました。

舩越:若者、よそ者、バカ者が地域に新しい風を吹き込むと言われています。地域にとって、接点が増えるいい機会だと思っています。当たり前すぎて気付かなかった視点にフォーカスし、新たな機会が生まれます。

岩嵜:地域発ビジネスをつくるインキュベートの場だと思います。社会に必要だけど、なかなか場がない。ビジネススクールの教科書には載っていない。地域だからこそ必要なキーワードだなと思いますね。新しい地域社会の作り方、その共有、というのがこの活動を通じてできたらいいなと思っています。

第2部は「滋賀ゼミ2020」の発表会です。「高島市今津町椋川」と「多賀町」のフィールドワークをもとに、参加者が5チームに分かれてプレゼンテーションを行いました。

その様子は、こちらから!

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