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「理想と現実」のあいだで、会社に変化を。──オプテックス・小菅俊博さん #ローカル人事の背中

滋賀に11社ある上場企業のひとつ、『オプテックスグループ』。滋賀県大津市に本社を構える同社は、各種センサーや電子機器の企画・開発事業などを通じて、世界中に製品やサービスを提供しています。

1979年の誕生以来、経営はずっと黒字続き。昨年末時点で、世界41社、合わせて2200人以上の従業員を抱えるまでに成長してきました。

そんなグループの1社『オプテックス株式会社』で、4年前から人事を務めるのが小菅俊博さんです。もともと大阪の会社でキャリアをスタート、35歳でオプテックスに転職し、今や中途・新卒の採用を一手に引き受けるようになりました。

「“変化をつくれる人”が増えれば、会社はまだまだ成長できると考えています」

そう静かに語る小菅さんは、これまでどんな仕事に取り組み、何を感じてきたのでしょうか。目標に向かって挑み続けられる理由とともにお伺いしました。
 

キャリアを考え、35歳で“人事一本”を決意


——小菅さんは、オプテックスに入られる以前、製薬会社で働かれていたと伺いました。はじめから人事の仕事をされてきたんですか?

いえ、最初はずっと営業の仕事をしていました。人事に関わるようになったのは、30歳になったタイミングで本社配属になり、営業管理の職に就いたときです。

人事選任ではありませんでしたが、中途採用の面接などもしましたし、途中からは子会社の担当として、新たに新卒採用もしていくようになりました。

——そこからオプテックスに転職されたのはなぜでしょうか?

以前の職場では、どうしても3〜5年で異動や転勤があったからです。家族もいたし、腰を据えてひとつのことをしっかりやれる職場を探しました。職種を人事に絞ったのは、採用の仕事が楽しかったので、そこの経験を深めたいと思ったことが大きかったですね。

オプテックス株式会社 管理本部 人事総務部の小菅俊博さん(提供写真)

——採用の仕事の、どんなところが魅力だと感じましたか?

やはり、入社した方が3年、5年と経つなかで活躍することでしょうか。もちろん、担当者として「採用人数」という目標はありますが、その数字を達成しただけでは意味がありませんから。

前職では営業職採用がほとんどだったので、売上をあげていたり昇進したりするのを見ると素直にうれしかったです。あとは普段は業務上の関わりがなくても、自分が採用した社員から「実は今度結婚するんです」といった大事な報告をもらえるような関係になったり、上司に言えないような相談事をしてくれたりすることも、自分のやりがいになっていました。

——次のキャリアを探すなかで、オプテックスの人事を選んだ理由を教えてください。

人事の仕事といっても、採用以外に総務、労務、給与計算、人事制度づくりなどがあり、企業によっては細分化されています。僕は「採用に軸足を置いておきたい」という思いがありましたが、いずれマネジメントを担っていくためにも、もう少し幅広い仕事ができるところを探していました。そのニーズと合致したのが、オプテックスの募集だったんです。

実際、4年間でさまざまなことをさせてもらっています。一昨年に始まった人事制度改革も担当させていただいていますし、一方でメインの採用では、前職では経験のなかった派遣雇用や障害者雇用にも携わってきました。
 

採用で大事にする「透明性」と「自分が働くイメージ」


——オプテックスの採用担当として、小菅さんが新しく取り組まれてきたことはありますか?

大きな変化としては、採用手法を増やしたことです。以前は「求人票を出して待つ」「ナビサイトに掲載して待つ」と、あくまで広く情報を打ち出すことを中心にしていて、こちらから動くようなアプローチはあまりしていませんでした。

ただ、採用環境の変化もあり、今はより積極的な「攻め」の手法が重要になってきています。大変でも、中途採用・新卒採用ともにダイレクトリクルーティングなどをしっかり行って、直接お会いできた方を応募につなげていく。レスポンスのあった方に対して丁寧に個別面談をし、自社を知っていただく。結果として、都心の企業からいくつも内定をもらうような方も採用できるようになってきました。

——お会いした方々に自社を選んでもらえるよう、どんなことに気をつけていますか?

ひとつ大事にしているのは、その方に「自分が働くイメージ」をしっかり持ってもらえることでしょうか。聞かれたことは包み隠さずお答えしますし、出せるデータも全部見せます。最近は口コミサイトなどでかなりの部分を調べられるので、むしろ「透明性」が高いことが重要になりますね。

仮に突っ込んだ質問が来なかったら、こちらから実際の雰囲気や残業時間について「こんなことも聞いてもらっていいですよ」と投げかけたりもします。質問のハードルそのものを下げながら、聞かれた内容にできるだけ具体的なエピソードを入れて返す。事前にきちんと情報をお伝えすることが、結果的に長く働けることにつながると考えています。

——求職者とのフラットな関係を意識されているんですね。「働くイメージ」を持っていただくとき、ローカルの企業ならではのメリットや難しさはありますか?

ロケーションからくる仕事環境の良さや、地域に根ざした人同士のつながりは、魅力として訴えやすいです。特に子育て世代の方はワークライフバランスを意識されることが多いので、自然豊かな暮らしのことなどをお伝えしますね。逆に街中に住みたい方にとっても、たとえば京都からは大阪に行くよりも近く、通勤電車が混まないなどのメリットがあります。

一方で、東京や大阪の企業からも求められるような方にオファーをすると、どうしても最先端の働き方と比べられることになります。今だと在宅勤務の制度、ITツールの導入などは当たり前と考えられていて、対応できていなければ「遅れている」と敬遠されてしまうんです。そうならないよう、常にアンテナを張り巡らせておく必要がありますね。

幸い、今は人事向けのオンラインセミナーなどで最新の情報を得ることもできます。できるだけそれらに参加して、自社で活かすようにしています。
 

“理想と現実”のバランスを取りながら進める、人事制度改革


——冒頭で、採用した方が「実際に活躍していくこと」が重要だとおっしゃいました。オプテックスではまだ4年ですが、そこの手応えは感じてらっしゃいますか?

そうですね。たとえば新卒だと、本格的に関わったのが2020年春入社の方からなんですが、早くもプロジェクトの主担当になっていたり、現場で派遣社員の指導を任されたりするケースがあります。すでに昇格対象になっている人もいます。

あとは最近、評価制度を変えるなかで、面談記録をしっかり取るようにしました。そこでの上長のコメントなどからも、若手の活躍ぶりはこちらに伝わってきていますね。

また、新卒採用の会社説明会では先輩社員として登壇してもらったり、座談会などに参加してもらったりもしています。そこでの話しぶりなどからも成長は実感できています。

——うまくいかなかったことや、キツいと感じる仕事はありませんか?

今も進めている人事制度改革の仕事は、大変さというか、難しさを感じています。人事として「こうなれば理想だな」という想いはあるんですが、現実とのギャップはどうしてもある。現場の事情もあるなかで、どうバランスを取ればいいかは悩ましい問題です。

——数字の上でも成長を続けているなかで、改革を進めることへのハードルはありそうですね。

おっしゃる通りで、「なぜ今までのやり方ではダメなのか?」という声をいただくこともあります。ずっと成長を続けてきた会社で、プロパー社員の比率も高く、社外の事を知らない人が多いのも実情です。

ですが、競争がどんどん激しくなっているなか、今変化をしなければ厳しくなるとも感じています。「このくらいの成長でも」と思っているうちに、気づけば下降線を辿っていくことになるかもしれない。

僕は、オプテックスがまだまだ企業として成長できると考えています。人事の仕組みを変えることでも、もっといい会社にしていきたいんです。

小菅さんの仕事風景(提供写真)

——小菅さんが、そこまで熱を持って改革に取り組めるのはなぜでしょうか?

そうですね……そもそも自分自身、現状維持が好きではないことがあります。「これでいいよね」と言われても「本当に?」と考えてしまうような、疑い深い性格も影響していると思います(笑)。あとは、転職者としての危機感でしょうか。

現状、オプテックスは業績も順調に伸ばしているし、離職率も悪くありません。たとえば前職の離職率はもっと高かったです。でも、それは製薬業界にライバル会社が山ほどいたことも関係があって、「部下を引き止めるための人的マネジメント」はむしろ社内で非常に意識されていたんですね。

これからの競争環境を考えたとき、そういう感覚をオプテックスも持っておくことが、きっと重要になると僕は思っています。
 

経営と連携しながら、“変化をつくれる人”を増やす


——そうした小菅さんの危機感は、会社全体の方向とも通じているのでしょうか?

はい、会社側もやはり「このままではいけない」と考え、変化を求めています。もともと人事は立場上、経営に近いポジションにいるので、全体の計画や経営者の考えがどちらに向いているかは当然いつも意識しています。

——今されていることを踏まえて、さらに進めていきたいことはありますか?

経営との関係という意味では、つながりをより強化していきながら、逆に人事の視点でのアドバイスもしていけたら、と考えています。

同時に、実際の採用を担う立場でもあるので、会社のなかで“変化をつくれる人”を増やしていきたいです。新しいことに積極的にチャレンジできて、自分の意見をしっかり発信してくれる若手が増えれば、現場も変わっていくと思いますし、人事面談を通じて経営者に提案を伝えることもできます。

オンライン取材にご対応くださった小菅さん

——人事だからこそ、会社全体をポジティブに変えられると考えているんですね。最後にひとつ、そうした採用戦略のなかで、小菅さんが“人”を見る際大切にしていることがあれば教えてください。

中途採用の場合は、求職者の方のキャリアプランの方向をきちんと確認するようにしています。これまでのキャリアについて納得のいく説明ができ、それが自社のなかでもつながっていきそうかどうか。ただ新卒採用はそれも難しいので、基本はポテンシャルだけを見させてもらっていますね。特に自社に対する想いや真面目さ、あとはこちらに合わせて「取り繕っていないか」を意識しています。

自分を過度に良く見せて入社すると、取り繕った姿でその後も進まねばならず、いずれギャップを生んでしまいますから。そうではなく、「自然体で自分の意見を言えている」ことが伝わってくる方は、入社後も自然体のまま仕事をしていただけるので、活躍につながりやすいと感じています。

——お互いになるべくギャップのない状態でいられる関係が、個人の成長にも、会社のさらなる成長にもつながっていく。ご自身が「透明性を大事にしている」というお話にも通じる視点ですね。貴重なお話、どうもありがとうございました。


(取材・執筆/佐々木将史、編集/北川雄士、アイキャッチ/武田まりん


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