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次の世代の声に、耳を傾けたい。──日吉・林侑季さん

「みんな興味も事情も違う。そのなかで、まずは自分だったらどうしてもらいたいか、どう声をかけてもらいたいかと考えています」

人事として、何を大事にしながら働いていますか?——編集部の問いかけに、悩みながらもそんな言葉を返してくださったのは、滋賀県近江八幡市の『株式会社日吉』で働く林侑季さんです。

従業員数300人を超える会社のなかで、人事業務の中核を担う林さんは入社6年目。今では毎年10名ほどの「新卒採用」を一手に引き受けながら、「中途採用」「社内教育」も任されるなど、環境事業に幅広く取り組む同社の事業を下から支える存在になっています。

積極的に「若手の声に耳を傾ける」文化がある、という日吉。その窓口に立つ一人として林さん自身も、応募者や新入社員に「もっとどうしてほしかったか?」と尋ねる意識を持っているそうです。

元は分析・測定などの職種を志望していながら、今は「この仕事で良かった」と話す林さん。現場に立つ人事としての、過去の悩みや今の想いを率直にお話しいただきました。

「学生に近い目線で」採用担当へ抜擢


——入社以来、総務部に所属されている林さんですが、就活では技術系の仕事を志望されていたと聞きました。

はい。もともと化学が好きで、大学でも分析のことを勉強していて。日吉を知って応募したときも、それに関わる部署の希望を出していました。

——どういった経緯で人事に配属されたんですか?

内定後、卒業までの間に「入社前アルバイト」として、いろんな部署でアルバイトとして働かせてもらっていたんです。そのなかである日、駅まで車で送っていただく道中に、総務課長(大角浩子さん・現在の林さんの上司)から突然「総務部に入ってほしいなと思ってるんやけど……」と打診がありました。

でも、その時点では総務部が何をするのか全くわからなくて。自分は事務系の職種には向いてないと思っていましたから、「ええ、はあ……」という感じでとりあえず言葉を返したのを覚えています(笑)。

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総務部総務課で働く林侑季さん

——なぜ林さんに声がかかったんでしょうか?

当時は大角が長らく人事を一人で担っていた状況で、会社の今後を考えたときに「管理部門にも若手を」というタイミングだったんです。私を指名した理由については、後から「直感で魅力を感じた」と言っていただきました。

具体的な仕事として依頼されたのは「学生に近い目線で、特に新卒採用を担当してほしい」ということ。当初の想定していた分析業務ではありませんでしたけど、「自分をこれほど求めてくれる人がいるなら、まずやってみよう」と思いました。

——入社後、次の新卒採用に今度は「社員」として関わっていきます。やはり大変でしたか?

上司に付いて、企業説明会などいろんなところへ行かせてもらいました。ただ、1年目は知識不足すぎて、会社の説明なども全然うまくできませんでした。

せっかく機会をもらっても、5分で終わるくらいの薄っぺらい内容しか話せなくて。本当に悔しかったのを覚えています。

「それでも日吉がいい!」と言われるように


——今では新卒採用を一手に引き受けるまでになっていますが、最初の苦労をどうやって乗り越えたんでしょうか?

とにかく学んだことを一つずつ吸収して、次に活かす。その繰り返しでした。

大角に直接アドバイスをもらったり、私がしゃべる内容に補足してもらったことを、今度は自分自身の言葉で話せるようにしたり。自分の「引き出し」をどれだけ増やせるかを、かなり意識していました。

——興味を持ってくれた人により深い魅力を伝えるには、今の事業はもちろん、会社の歴史も知る必要があります。

海外事業だったり地域貢献だったり、一人ひとりの興味は異なります。相手がどこに目をキラリとさせたかを捉えて、大角は「こんなこともやったよ」といった話をどんどんしてくれるんです。

過去の事例は掘れば掘るほど出てくるので、それを横で聞きながら日吉について学んでいきました。

龍谷大学

——採用担当として経験を積むなかで、何か手応えを感じたエピソードはありますか?

合同企業説明会の場で悩んでいそうな学生さんに、私から声をかけに行くようになったんです。「こんな会社なんだけど……」といった説明からブースに来て、応募してくれる方が何人も出てくるようになって。

そこから入社に至った社員もすでに何人かいるので、いい出会いのきっかけをつくれるようになったかなとは思いました。

——エントリー数も年々増加しているとお聞きしました。

新卒に関して言えば、今で100人くらいです。ただ、とにかく数を増やせばいいとも思っていなくて、「日吉という会社が合いそうな人」にしっかり届くような採用活動にしたいと考えています。

良いところばかり伝えて、入社後に「やっぱり違う」となるのはお互いに不幸ですから。できるだけそうならないよう、課題面も正直に伝えたうえで、「それでも日吉がいい!」という方に選んでいただけたらいいなと思っています。

どうすれば相手に“安心”してもらえるか


——お互いが正直な面を見せ合うには、まずこちらが応募者の声にきちんと向き合う姿勢も大切だと思います。林さんが「人」と接するときに、大事にしていることは何ですか?

それぞれ気になるポイントや事情も異なるという前提で、まずは「自分だったら」という視点は持つようにしています。どういう反応がほしいか、どういう声をかけてほしいかを自分に置き換えて考えてみるんです。

あとは極力距離を詰めて、本心で向き合える関係づくりも気をつけていますね。連絡をもらったらなるべく早めにリアクションしたり、面接以外の何気ない会話で得た情報を「あれどうなった?」と次につなげたり。

——「学生に近い目線」を意識しながら、柔らかい関係をつくられているんですね。

特に新卒採用では、あまり硬くなりすぎないよう心がけています。一方で、今は中途採用の担当もさせていただいているんですが、そこではくだけすぎると不安になってしまうでしょうから、もちろん接し方を変えます。

「相手がどうしたら安心してくれるか」という視点では、どちらも同じなのかなと思います。

——今の“安心”のお話、人事としていろんな仕事に通じているように感じたのですが、林さんは他にどういったことをされていますか?

入社後の研修も担当させてもらっています。技術的なところの基礎を学ぶ機会をつくって講師を呼んだり、新卒であればビジネスマナーを教えたり。そのときも、それぞれのメンタル面をその都度見ながら、内容やスケジュールの調整をしていますね。

あとは、配属後の細かなフォローも継続して行っています。入社した時点では一緒に過ごした時間が一番密な関係だと思いますし、何かあったときすぐ頼りにされる人でいたいという気持ちがあります。

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——最初に採用で関わってから、ずっと側に寄り添い続けているんですね。

特に新卒の人であれば、初めて社会人になって、初めて一人暮らしをして……環境が大きく変わるなかでメンタルが動く場合もあります。そういったところのフォローもできるように、細かく様子を見るようにしていますね。

本社以外で勤務する人もいますが、出張でこちらに来たときには声をかけますし、業務メールのやりとりでもちょっとしたコメントを挟むようにしています。

——新卒採用と言えば、3人に1人が3年以内に離職するという数字もあります。日吉さんは離職率が低いとお聞きしていますが、実際はどうなんでしょうか?

この5年間で、採用に関わった新卒社員がすでに48人いますが、今の時点で43人が在籍してくれています。活躍する姿を見せ続けてくれるのはやっぱりうれしいです。

もちろん人は十人十色で、今は転職することが悪い時代でもありません。ただ、一生で一度きりの新卒入社というご縁を「間違った選択だった」と思ってほしくない、といつも考えています。

貴重な出会いの窓口を担当している以上は、ご本人が振り返ったとき、「この会社で良かったな」と感じてもらえることが責務だと思うんですね。総務という場所から、いろんな関わり方を通じてそれができたらいいなと考えています。

次世代の「声」が、会社をより良く変えていく


——採用活動のあり方を考えるときに、“ご縁”は改めて大事にしたい言葉です。

そもそも日吉自体が、縁をすごく大事にする会社ではあると思います。

事業や共同研究などを含め、過去に関係を築いた十数校の大学は今もつながりがあって、それが採用にも活きていますね。実際に大学の先生から「この会社いいよ」と学生さんに紹介や口添えをいただいたり、社員の後輩が話を聞いて応募してきてくれたり、といったケースも多いんです。

私自身もそうでしたが、今の学生さんは社内の雰囲気をすごく重視して見ているなと感じます。日吉は上の年代の方がとてもフレンドリーで、居心地がいい。人づてにそういった良さも伝わるので、また次のご縁が生まれるのかなと思いますね。

——林さんが「人」として大事にされたいことと、人事として目指す方向がきれいに重なっているなと思います。でも、これも一つのご縁ですよね。

そうですね……これは社内でも話したことはなかったんですが、高校のときの吹奏楽部の先生にもらった「置かれたところで咲く」という言葉を、座右の銘として大事にしているんです。まずはその場所で、精一杯花を咲かせることに努めてみようと。

もともと技術系の仕事を希望していましたが、せっかく求めてもらったのなら全力で役割を果たしたいなと、素直な気持ちでトライしてみました。今は「本当にこの仕事で良かった!」と思ってます。

——そうやって若手に機会を与えるところも、日吉さんの魅力だなと感じます。

時代がどんどん変わっていくなかで、「若い社員がどう考えるか」という視点をすごく大事にする会社だと思います。そこが一番の魅力だと、私自身感じていますね。

なので、私もできるだけ入社間もない若い世代の声に耳を傾けたいなと思うんです。「相手がどうしてほしいかを考える」と言いましたけど、実際に意見を直接聞くこともあります。例えばオンライン採用の取り組み一つとっても「あのやり方どうだった?」「もっとどうすればいいと思った?」など、正直な気持ちを聞いて、それを次に活かすようにしています。

私も6年経って、今の学生さんたちと感覚がズレているところもあると思うんです。常にそこを確認しながら、変えていけたらと思っています。

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——若手人事の方が、さらに若手の声を拾って組織に良い影響を与えていく。『しがと、じんじ。』で特に応援したい地方の中小企業にとっても、すごく参考になるお話でした。

地方企業にはそういった可能性がある、という話は学生さんにも時々しますね。それぞれの地域性が出せるのもすごくおもしろいし、大きな企業ではないからこそ若手が声を上げやすい。自分の力で会社をいい方向に、自分が求める会社像に近づけやすい魅力があると思うんです。

まだまだ日々勉強の繰り返しですけれど、そういった強みをもっと活かして、これからも会社の魅力を伝えていけたらと思っています。

——林さんのような方を人事に抜擢するからこそ、企業の魅力が外に広がっていく側面もあるように感じます。今日は貴重な話をありがとうございました。


(取材・執筆/佐々木将史、編集/北川雄士、アイキャッチ/武田まりん


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