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【過去の社内メッセージより】兄貴の市議会選挙

2010年より、SHIFTの社内向けブログにさまざまなメッセージを書いてきました。そのメッセージをより多くの方たちに読んでいただきたいと、noteに転載したいと思います。


(SHIFTの社内向けブログ2012年4月9日)
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兄貴の市議会選挙を応援する為に、広島の実家に帰りました。

兄が急きょ、広島県福山市の市議会選挙に立候補すると言いだし、その選挙の投票が2012年4月8日(日)に行われる為でした。

帰宅したのが、4月5日(木)の夜。いつものように、両親が広島空港に迎えに来てくれた。実家に帰る車のなかで、父親に状況を聞いた。応援してくれる人が増え、兄貴のメンターになるような年配の方や、ブレーンになるような若い人まで、揃っていた。

ただ、肝心の兄貴の演説、そして、なぜ選挙に出るのか、何を解決したいのかがまだ分からない状態でした。

いろいろな応援者の方の尽力もあり、事前の投票の数字予測が分かってきました。全ての数字を積み上げると2,000票。当確ラインは、2,500票以上。3,000票あれば確実と思われており、あと1,000票足りない。

選挙を3日後に控えた状況で、完全にヤバい状況でした。

たった3日程度で、何が出来るか、自分にどんな応援が出来るのか、分からなかったが、とにかく何かをやろうと思ってその日は床についた。

翌日、朝7時から、甲斐酒店という地元でもっとも交通量の多い交差点で、立って1時間ほど演説をしているので、それに付き合って、とにかく通る通勤者の方々に頭を下げていた。

俺にできることは、こんなことくらいかもな。そして、8時に選挙事務所(実家の目の前の空き地)に戻り、朝の集合挨拶をして、選挙カーに乗る者、地元を歩いてお願いにあがる者、ポスターを貼り直しに行く者、テレアポのごとく、応援ハガキをくださった有権者の方に電話をする者、それぞれが分かれた。

自分は、指示される事も無かったが、1票でも多く入れてもらおうと、高校や中学の同級生に電話をかけた。しかも、ほとんど知らない人まで。

同級生も、どうせ選挙だから久しぶりに電話をくれるんだろうと思って対応してくれたが、申し訳ない気持ちを抑え、とにかく電話をした。

そして、中学校の同級生達とその日の夜に食事をする約束を取り付けた。そして、高校生のサッカー部だった同級生達は翌日の土曜日の夜に、飲み会をしてもらう事になった。ありがたい。

そして、午後からは、兄貴の選挙カーに乗り、各地域を回る事になった。

正直、初めてづくしで、どうやってしゃべって良いのか分からなかったが、兄貴の参謀の方と10分ほどミーティングし、兄貴が何を訴えようとしているのか、そしてどうやって選挙カーでしゃべるのかの作戦を聞いた。参謀の方は、とても頭がよく、兄貴の性格も分かっており10分足らずで、意気投合した。

選挙カーには、お姉ちゃん(兄貴の奥さん)も同乗しており、ウグイス嬢をしていたので、カンペを見せてもらい、交替でしゃべった。最初はドキドキしたが、度胸を振り絞り、兄貴に成り変わってしゃべった。

カンペ通りなので、つまらないなと思いながら、自分の味を入れてしゃべってみた。これが結構良い感じになってきたので、頑張ってしゃべっていたら、とうとう力が入ってしまい、「たんげ まさるを宜しくお願いします」
って、言ってしまった。

兄貴の名前は。「たんげ たくみ」。俺がまさる。

自分の名前を言ってしまったのである。お姉ちゃんには大爆笑された。赤面状態。まあしょうがない。そして、その日の夜は、中学の同級生と飲みに行った。20年ぶりに会う友人も来てくれて、付き合ってくれた。

「俺は他のしがらみがあるから、丹下のにーちゃんに投票できんけど、丹下に会いたかったから来たんじゃ」って、言ってくれた。正直嬉しかった。

そして、最終日の土曜日。朝から選挙カーに乗り、昨日と同じように、ウグイス嬢を演じまくった。最終日という事もあり、最期は力が入って、大音量マイクで住宅街を叫びまくった。

「たんげ たくみ、最後の最後のご挨拶にやって参りました!無所属新人、甲斐酒店に130日間立ち続けた男。たんげ たくみを宜しくお願いします!!」

もはや、声が枯れてくるほどだった。

そして、兄貴は、昼から地元を歩いて、お願いにあがるという事をすると言いだした。選挙カーを降りて、俺が後から追いかけながら、マイクでフォローするという完全にアナログな世界だ。

選挙最終日、そこまでやるのかと思ったが、これが一番効くんだろうと俺も信じた。そしたら、わざわざ、おばさんが家から出て来てくれて「あんたを応援しとるよ。あんたは素晴らしい先生に応援してもらっとるな。本当に応援しとるけえ」と、泣きながら兄貴に握手をされていた。

正直、たった数日選挙カーで回っているだけなのに。こんなに応援してくれる人がおるんじゃ。

そして、トイレ休憩で立ち寄ったコンビニで、見知らぬ人から「毎日、リーデンローズに立って演説しとるのをみとったよ。俺はあんたに投票するけえ。頑張れよ!」と話しかけられた。

マジッ。凄っ。

そして、最後の街頭演説に、福山市で一番の駅前に行った。そこでは、他の政党が演説をしようと準備をしており、選挙カーのおじさんに挨拶をした。そしたら、「あんたが毎日、朝7時から演説するのを見とったよ。俺はこの候補の運転手だけど、俺はあんたに入れるけえ。」と。

えっ。そんなのあり????もしかしたら、神が下りるかも。

見知らぬ人に誰が応援するんかなって、正直思いながら手伝った選挙だったが、なんと凄いパワーを感じた。そして、選挙カーで宣伝出来るギリギリの20時まで、兄貴と地元を回った。そして、それから少しでも1票を稼ぐ為に、高校の同級生の待つ居酒屋へ向かった。選挙だから会いに来てくれてると分かっていて、高校の同級生は暖かく迎えてくれた。

嬉し過ぎる。そして、当時のサッカー部の話になり、選挙そっちのけで大盛り上がり。どんどん人が増え、最後は、近くの同級生の自宅まで押し掛ける事になった。

あー、あの頃の楽しかった時代に戻ったなあ。田舎の友は、本当に落ち着くなー。と感慨に浸った。

そして、選挙活動が終わった。

いよいよ投票日の日曜日になった。朝まで飲んでいたので、疲れきってお昼の12時くらいに起きた。兄貴が起こしに来てくれた。

「おー、一緒にチャリンコで散歩しようや」

兄貴と一緒に近くのフジグランというデカイ複合施設に行った。自転車乗るのって、いつ以来かな?

そして、兄貴が満足そうな顔をしていた。俺も、あの最後の雰囲気はチームで戦った感があり、とても大きな手ごたえを感じていた。

「そんで、兄貴ー。結局、なんで政治家になるん?」

「おー、それはのー。社会保障っていうもんがどうしても必要なんよ。会社で社員の全てを保証する事なんか出来んじゃろ」

「ふーん、まあそりゃそうだ」

「今回の選挙で、俺の店の従業員に俺のマニフェストを見せたんじゃ」

「そしたら、字が読めませんって言うたんよ」

「えっ」

「でも、あいつは、友達に一生懸命お願いして、200票も集めたんじゃ」

「俺の仕事は、底辺かも知れん。でもそういう人達を救う為に、社会保障がいるんよ。でも少子高齢化で税金が足りんのんよ。でも、その子達が、自立したらそんな大きな負担で保証せんでもええじゃろ」

やっと、兄貴のやりたい事が分かった。そうじゃったんじゃ。

俺が、会社を通して社会貢献したいと思っていた事を、政治を通してやりたいんじゃ。兄貴は商売下手だから、不器用なりに、そっちの世界で。

4ヶ月前に、大喧嘩をして、兄貴にいろいろと聞いたけど、腑に落ちなかった事が、やっと分かった。

「兄貴、それよ。それ。それをちゃんと伝えて行かんと」

こんな兄貴なら受かると思った。そして、夜の21時から、開票を待つ為、兄貴のお店に続々と親戚、応援してくれた人が集まった。そして、夜の0時を過ぎたころ、開票率99%。兄貴の得票数2,140票。

兄貴の戦いは終わった。結果は、落選。49人中45位。当選ラインまで、あと500票。これが結果。そして、落選しても、誰一人帰ろうとしなかった。夜の0時を過ぎていたのに。

それから、兄貴を応援してくれた県会議員の先生が「もう皆さん帰りましょう。落選してここまで残ってくれる選挙事務所の人はいなかった。普通は落選したらさっさと帰るもんです。たくみさんは恵まれています」と。

そして、兄貴の最後の挨拶。

「皆さん、本当にありがとうございました。たった4ヶ月でここまでこれて本当にお世話になりました。僕は4年後もまた立候補します。そして、明日、また甲斐酒店に立ちます。本当にありがとうございました」と。

そして、丹下家の戦いが終わった。惨敗だけど、大きな家族のきずなが出来た気がした。

最後に、母親に、ある夜聞いた事を思い出した。

「お母さん、もう66歳にもなって、大変じゃったろう。」

「いやー、とっても良かったよ。もうこれから細々と人生の最期を迎えるように静かに生きて行こうと思っていた時に、あーやって、たくみが立候補してくれたから、また、新しい出会いがあって、いっぱい新しい経験を
させてもらったんよ。とっても勉強になった。」

と。兄貴は、選挙で落選したかもしれないけど
何かをし始めた事で、周りの人の人生が豊かになったのかも知れない。

そして、先日ブログに書いたように、兄貴がバスを押し始めた時に、1人、2人とバスを押してくれる人が現れ、そしてそれぞれの人が何かを得たんだなと。4年後の兄貴がもっと成長している事を期待するし、当選して、多くの若者が自立する事を願って。


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