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七輪車'sトラペジウムSS

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記事一覧

【友達の友達】

ポン。ヒグラシの鳴く夕方、ババハウスから1人で帰ろうとしたところ、スマートフォンの通知が鳴った。こないだニコキッズの登山で一緒になった4人のグループだ。
『そういえば、今度南さんの誕生日だよね?』
城州の有名人、大河くるみからのメッセージ。彼女の顔のアイコンが自分のスマホに届くのにはようやく慣れてきた。
『まあ!覚えててくれたのね』少女漫画のお嬢様のアイコン。華鳥蘭子さん、2人は南さんと呼んでいた

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【バック・イン・オリジン】

朝、通勤ラッシュが始まりだした車内。ラフな格好の金髪の女性が扉にもたれかかってスマートフォンを眺めている。今日は自分発の企画の最初の会議だ。ディレクターになって2年弱だが、こういうときはついこれまでの仕事の写真を眺めてしまう。一番上付近まで辿ると、4人の女子高生たちとの
写真で手が止まった。初めての自分の企画のものだ。(この子ら、今どうしとるんやろなあ)考えていると、電車が駅に停まった。ハッとして

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【トレジャー・マップ】

日曜日。新学期にも慣れた頃、私たちはいつものショッピングモールのフードコートでハンバーガーを囲んでいた。
「東ちゃん、書類選考通過おめでとー」
「ありがとう、ここまでは通ったことあるし、これからだよ」
言いながらも、昨日封筒開けたときに小さくガッツポーズをしたのを思い出していた。
「東ちゃん美人だし大丈夫だって信じてた」
「このあとどうする?」
「そろそろ南さんちのプールが恋しくなってきたなー」

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【玄武の尾】

「ごめん、今日はこの後ちょっと予定があって」
美嘉は私が誘うといつも来てくれる。そんな美嘉が集まりを途中で抜けるのは珍しかった。ボランティアならいつもそう言うのに、今日はくるみが「なに?デート?」と煽っても言葉を濁す始末。煮え切らないままショッピングモールの外に向かう彼女を見送った。
直後、蘭子が言った。
「やっぱり気になるわね。着いて行ってみましょうよ」
こういう時、遠慮を知らない蘭子の好奇心は

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【4+3】

「それ、何?」
西テクノ高専の中庭。くるみは膝にノートパソコンを、隣にノートを広げてベンチに座っていた。ノートにはなにかのデザインスケッチが書かれていた。その足元には、七輪が置いてあった。
「七輪車だよ。」
「七輪車?」
「今度番組で電気を使わないメカを作る事になったでしょ。それで思いついたの。ついでに秋刀魚も焼いてみようと思って。」
そんな企画もあった気がするけど、秋刀魚?聞いてもよくわからなか

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【私のヒーロー】

「亀井さん今日日直だよね?これ学級日誌。書いて先生に渡しといて。」
自分の机にいた私に、初めて同じクラスになった子が話しかけてきて、わたしはびっくりした。他のみんなはこういうの、机に放り投げてくるだけだった。顔をあげると、東ゆうちゃんのキリッとした顔が視界に広がった。
その後ろから、藤さんが声をかけてきた。
「東さん、なんでカメに話しかけてんの?」
「はぁ?」
東ちゃんが振り向いて、藤さんと向かい

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