【私のヒーロー】

「亀井さん今日日直だよね?これ学級日誌。書いて先生に渡しといて。」
自分の机にいた私に、初めて同じクラスになった子が話しかけてきて、わたしはびっくりした。他のみんなはこういうの、机に放り投げてくるだけだった。顔をあげると、東ゆうちゃんのキリッとした顔が視界に広がった。
その後ろから、藤さんが声をかけてきた。
「東さん、なんでカメに話しかけてんの?」
「はぁ?」
東ちゃんが振り向いて、藤さんと向かい合った。
藤さんの両脇にはクラスの子が立っていた。3人で東ちゃんに詰め寄っている。私は椅子に座ったまま小さくなってしまった。
「カメには構わないことになってんの。東さんもどんくさいのが移るよ。」
3年生のときも「カメが移った」って言って一緒にいじめられ、結局は私をいじめてきた子がいた。そうするって言ってるみたいだ。上目で東ちゃんの背中を見ると、東ちゃんが言った。
「用があるから話してるのに、止められる意味がわからない。私は尊敬していない人からの指示は受けない。」
え?私は思わず顔を上げた。藤さんの方が身体は大きかったけど、東ちゃんの背中はとても大きく見えた。
「ハァ!?」
「アンタの事は尊敬できないって言ってんの。」
「こいつッ!」
藤さんが東ちゃんの肩を突き飛ばした!よろめく東ちゃん。次の瞬間、東ちゃんが藤さんの頬を叩いた!パンッ!ほほを押さえる藤さんが今度は東ちゃんのすねをけった。「ンッッ!」よろめいて尻もちをつく東ちゃん。周りがざわざわし始める。やっぱり大きい子のほうが強いみたい。
でも、東ちゃんは顔をしかめたり眉を落としたりしないで、ずっと藤さんたちのほうをにらんでいた。
私は鼻の奥がツーンとしてきて、泣いてしまった。
「なんでコイツが泣いてんだよ。」
「ウッザ。」
ちょっとした人だかりができたくらいで、ガラッと教室のドアが開いた。
「何やってんだー?授業始めるぞー。」
先生だ。みんな解散していく。東ちゃんも立ち上がって、自分の机に戻っていった。別に目が合ったりこっちを見たりはしなかった。
でも私には、とってもカッコよく見えた。

その後も東ちゃんは給食班やクラスの行事とか、用がある時に普通に話しかけてくれた。東ちゃんがいやがらせされることもあった。そのたびに東ちゃんは言い返して、絶対泣かなかった。
特に遊びに行ったりしたわけではないけれど、東ちゃんが同じクラスにいてくれた数ヶ月間、私は学校にいてもいいんだって思えたんだ。




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