【4+3】

「それ、何?」
西テクノ高専の中庭。くるみは膝にノートパソコンを、隣にノートを広げてベンチに座っていた。ノートにはなにかのデザインスケッチが書かれていた。その足元には、七輪が置いてあった。
七輪車だよ。」
「七輪車?」
「今度番組で電気を使わないメカを作る事になったでしょ。それで思いついたの。ついでに秋刀魚も焼いてみようと思って。」
そんな企画もあった気がするけど、秋刀魚?聞いてもよくわからなかった。一旦置いておこう。
「それで、何を手伝ったらいい?ジュースを口に運ぶ係ならまたいくらでもやるけど。」
「車輪とかの組み立てをお願いしたいんだ。設計は1人でできるけど、実際に作るのは手作業だから。」
「わかった。」
くるみに簡単な構造と作業内容を教えてもらう。取り掛かろうとしたところで、蘭子と美嘉も来た。



「「「「できたー!!」」」」
4人の声が中庭に響く。目の前の七輪は4つの車輪によって地面からスクっと立っていた。4人それぞれが一輪ずつ担当した形だ。くるみが組み込んだ何らかの機構(聞いてもよくわからなかった)で、火をつけると車輪がそれぞれ動くのだという。
「じゃあ、つけるね。」
くるみが七輪の中の炭に火をつけて、上に金網を置いた。秋刀魚はテスト走行後にするらしい。徐々に炭に炎が移り、パチパチと鳴っていく。すると、七輪車は少しずつ前に動き始めた!
「わぁ!」
「動いた!」
だんだん加速していく七輪車。でも、なんだか不安定だ。速くなるにつれ、左右の揺れが大きくなっていく。歩くくらいの速度になったところで、金網が落ちてしまった。このままじゃ倒れちゃうかも、といったところでくるみが駆け寄った。トングを手に炭を取り出して消火していく。私ももう一本のトングを取って手伝った。
「どこが悪かったのかしら。」
「私の車輪、ちょっといびつだったかも……ごめん……」
「いや、出来は皆おんなじだよ。くるみの設計がよくなかったのかも。」
美嘉とくるみが俯く。秋風が冷たく吹いた。
すると私たちの後ろから声をかけられた。
「補助輪をつけたらどうかな?」
「シンちゃん!」
真司が、サチの車椅子を押しながら来ていた。さっきくるみが見せたいから呼ぶって言ってたっけ。
「直接動くタイヤを増やすのは動力と繋げないと難しいでしょ。でも補助輪ならつけれるんじゃないかって。」
そういえば真司も高専生なんだった。真司のアイデアにくるみがノートを開き、一瞬でデザインをあげた(やっぱりくるみちゃんは天才だ)。計算も終わったところで、古賀さんも来た。番組の企画用だから、見にもくるか。
「なんや、まだ途中なん?補助輪つけるとこ?手ぇが必要なら手伝うで!」
補助輪は3本。サチを美嘉と蘭子が手伝い、くるみが古賀さんに説明しながらそれぞれ1本ずつ組み上げる。あと一本は私と真司だ。
「ロボコンの時もこんな感じだったの?」
「うん。でも今の方が賑やか。」
あの頃は3人だった。美嘉とも、サチや古賀さんとも出会っていなかった。少しずつ世界が広がってる感じがした。
「うまくいくといいね。」
「うん。」
みんなとなら、なんでもできる。そう思った。

4つの車輪に3つの補助輪がついた"七輪車"に、くるみが点火した。蘭子と美嘉は両側からサチと手を繋ぎ、真司と古賀さんが真剣な目で見守る。七輪車は炭を鳴らし、少しずつ前に進んでいく。温度が上がるにつれだんだん速くなっていく。しかし、補助輪のおかげで真っ直ぐ立ったままだ!金網もしっかり乗っかっている!くるみが追いかけ、金網に秋刀魚を置いた。魚の焼ける良い匂いがしてくる。7人が見守る七輪車は、秋刀魚を焼きながら、秋の夕暮れを走っていった。



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