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かくして権力は生まれる/築古マンションで暴走するパワハラ男

 我がマンションには暴走する高齢者がいる。その人は7階に住んでいる。7階とは言っても実際は屋上だ。その人は理系で、施工会社が倒産したため設計図がなく、修繕や保守点検に困っていた管理組合で権勢を拡大したらしい。

 そしてついに管理組合から、修繕や補修に関する全権限を委譲されるまでになった。私はその人に違和感を感じていた。しかし実際は、それどころではなかったのだ。
 たまたま駅前で管理組合理事長と出会い、雑談していた時のこと。話題がその人に及ぶと、理事長が声をひそめて「あなたはものが分かりそうだから話すが」と前置きして、A氏の横暴ぶりを話しはじめた。
 
 それを聞いて驚いた。その人はやりたい放題なのだ。理事長には連日、恫喝に近い電話がかかってくるとか。その日も午前5時に、「◯◯の件 その他」という不吉な題名のメールが来て、「すぐに電話せよ」と命じてきたとのことだ。

 理事長はおとなしい人。このマンションを建てた人の息子だから、おっとり育ったのかもしれない。その人はそこを見透かして、居丈高な態度を取っていると思われる。

 何かにつけて因縁をつけるそうで、「理事会での話は録音してある。公開するぞ」と脅かすので、別にやましいところもない理事長が「どうぞ」と言ったら、激昂したとか。

 「引っ越してきた十数年前に少し付き合ったことがあるが、あんな人間ではなかったように思う。別人のようだ」「A氏は会社を経営しているが、コロナで在宅ワークが増えて苛立っているのではないか」とこぼす理事長。あまりの圧力に、子どもの時以来久しぶりに、食べたものを戻してしまったそうだ。

 驚いた私が、ここに長く住んでいる人に話してみたところ、さらに驚くような話を聞いた。その人は以前、管理人をしていて、その時から瞬間湯沸かし器のように、何かにつけて激昂したそうだ。

「掃除してねぇじゃないあ、テメェ、馬鹿野郎!」と戸を蹴られたこともあったとか。恐ろしや。で、私はこう言った。「会社を経営しているなんて嘘でしょう」と。

 会社を経営している人が屋上で暮らすはずがない。その人は他に家があると言っている。でも、それも嘘だと思う。あるなら、わざわざ屋上で暮らす必要はないし。恐らく全て嘘。

 そういう嘘で固めたようなパワハラ男が、ここで権勢を奮っている理由は、高齢女性の理事たちが頼るからだと思われる。私が引っ越してた時も、「このマンションの内部について全て把握していらっしゃる方」と紹介された。

 すると上機嫌で「理系だから、たいていのことはわかる」「何かあったら言いなさい」と得意満面でした。それがハリボテだったことが、停電の時に明らかになった。

 しかしこのバカバカしい事態は、人間社会において、どのように権力が生まれてくるのかという事例の一端を教えてくれる。

 以前ネットニュースで、少年野球チームにボスママが生まれ、監督を差しおいて入部希望者の面接まで行うようになったという話を読んだ。

 その始まりは何人かのママたちが、その人をすごいと思って言うことを聞くようになり、取り巻きになったことだったという。 

 少年野球や少年サッカーの保護者間には、とかく上下関係が生まる。監督も面倒だから、見て見ぬふりをしているとか。しかし、ある監督が勇気を出して、保護者によるお茶汲みと試合の送迎をやめたところ、ボスママやボスパパは消滅したのである。

 興味深い話だ。お茶汲みや送迎をしていると、指示を出す人間と言うことを聞く人間に分かれてしまがちである。そしてしばしば権力を握ろうとする人間が現れる。そして、それを誰も止められなくなる。

 タワマンのように、あらかじめ文字通り上下が見た目ではっきりしていると、なおさらだろう。大事なことは、偉そうにする人間には従わないことだ。

 そう言えば、菅元首相の権力の源泉は、不機嫌なことと理由を言わなかったことらしい。議員秘書をしていた時に横浜市の人事に介入。理由も言わずに、人事案を突きかえしていたとか。そういう人間を、普通の人は恐れる。




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