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(18)惰性

 日々は続く。二週間に一度の診察は繰り返され、本格的な夏がくる。私は予約時間を夕方にずらしてもらって、数時間の待ち時間は待合室で本を読み、スマートフォンを触り、また本を読み過ごした。薬は一度ほんの少し減り、けれどそのまま停滞したままだ。
 未だスーパーマーケットとドラッグストア程度しか行けず、それも非常に疲れを伴う行為であることに変わりはない。去年も着ていた服を今年も着ている。化粧品はインターネットでまとめて注文している。本も同様に、音楽は配信サイトで聴いているから何も困ることはない。他人と関わらないと人は生きていけないけれど、それを極限まで削ることはできる、ということを、私は心を病んで立証してしまった。

 細やかな暮らしも続いている。投げ売りのキウイで煮たジャムを冷ましている間に、さらしの煮沸消毒をして、玄関を箒で掃いて、その一瞬だけ外の空気を吸う。ポストインされたどうでもいい冊子を丁寧に分別する。繰り返す通販で溜まった段ボールを束ねる。木綿のシャツワンピースにアイロンをかける。防水スピーカーから静かなインストゥルメンタルを流しながら、夕方のぬるい風呂にゆっくりと浸かる。金柑の香りの入浴剤に少し咽る。でもいい香りだ。深呼吸をする。丁寧にトリートメントをする。
 そろそろ髪を切りに行かなければな、と思う。毎月の美容院も億劫で、本当はショートカットを辞めたいと思っているけれど、今できている一つの我慢を妥協したら、なし崩しに駄目になってしまいそうで、結局毎月勇気を振り絞って美容院へ通っている。



(続)

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