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10月22日、『はりぼて』は誰だ君だ僕だ。

アップリンク吉祥寺は平日の朝9時30分だとは思えないほどに賑わっていて驚いた。ほぼ空席のないスクリーンも久々で、なんだか逆に新鮮だった。

『はりぼて』観てきました。ずっと観たかったけれど、腰が重かった。どうせ自分と向き合う映画になるだろうなと思っていた。案の定そうだった。なので、詳細の感想はまた文章にまとめたいと思う。きょう1日、吉祥寺をぐるぐる歩きながら考えたけど、うまくまとまりそうもなかった。下記は雑感。

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あらすじを一応。2016年頃、富山県の市議会議員に政治資金の不正使用疑惑が持ち上がり、地元テレビ局が調査をすすめるうちに、あの議員もこの議員もみんな不正に政治資金を使っていることが判明し、大量に議員が辞職する騒動に。夕方の報道番組を担当する2人の記者を中心に、大量辞職後の議会の再生までを追う。でも、そうかんたんには再生しないのである。その後もポロポロと疑惑は降り積もり…というお話。ブラックコメディであり、報道素材をつかったドキュメンタリーであり、この4年間で富山で起こったただの事実である。

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冒頭から中盤にかけては大いに笑った。いちばんおもしろかったのは、裁判所にタクシーが滑り込んでいくシーン。劇中に出てくる疑惑の議員(といってもこの映画には疑惑の議員しか出てこない。疑惑のアベンジャーズである)が、裁判に出廷するところを報道陣が待ち構えているのだけれど、その裏をかいて、しかしほぼ正面突破のようなコースで、それでいて猛スピードでタクシーが裁判所内に入っていく様子は、さながら『ベイビードライバー』のようだった。あまりの強引なタクシー運転手に、でも地方のタクシーの運転手さんで、めちゃくちゃ豪快に飛ばす方いるよな…と思い出し、声を出して笑ってしまった。

そう、ブラックコメディとしての成分が高く、ドキュメンタリーとしても、風刺としてもおもしろかったのだ。ラスト10分までは。そう、問題はラストだ。以下、一応ネタバレになります。

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まだ新たな疑惑の追求もつづくなか、記者2人が、現場を離れることになるのである。一人は社内異動、もう一人は退職(別のテレビ局に転職)。詳細は割愛しますが(後日、別の形で文章にしようと思っています、自分のために)、僕はこの結末に覚えがあって、そして悲しくなった。真実を求めると、等価交換として、現場は解散してしまうのである。ここまでの偉大なる報道だったとしてもだ(実際、報道に関する賞をいくつも受賞していたらしい)。

続かない、なぜか。誰かにとって都合が悪いからだ。誰かとは、誰なのか。特定の誰かであることもあるし、複数の総意である場合もあるし、不思議なことに明確な誰かの意思でないこともある。正しいことを続けることは、本当にむずかしい。

ただ、上映後に読み漁った監督インタビューや感想ブログなどによれば、彼らが報道の現場を離れたことが、この作品が映画で公開されるきっかけとなった部分もあるようで、そこは朗報だった。

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監督(実は劇中の記者2人である)はラストシーンも含めて「語られていない部分を想像してほしい」なる旨のコメントを残していた。語られない部分とは、作り手は様々な事情から直接は語ることができない部分であり、劇中で登場する市長 (a.k.a. どの職場にもいる、要領がよくて出世するタイプ)の言葉を借りれば「行間を読んでください」という作り手からのエクスキューズである。その答えを出さなければいけない。繰り返すがこれは自分のためである。

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僕は記者職ではないが、この記者が見たであろう近い景色を、ここ数年で見てきた。そして、僕は彼らと違い、続けるために現場を去ったのではなく、ただ去った。真実の先にあったのは非難と無関心で、そこにいられなくなった。そして、疲れて果ててしまって、当然のように頭がおかしくなって、今こうして仕事を辞めて、再構築の日々を過ごしている。

真実は甘美だ。でも、だからこそ毒なのだ。ようやく理解したが、こいつの解毒には時間がかかる。

故にこの元いた場所を追われても、映画という武器を片手にそれぞれの場所から戦いつづける2人を心から尊敬するし、同時にすこし怖くも思う。聞けるものなら聞いてみたい。なぜ、戦い続けているのですか、なぜ、怒り続けられるのですかと。僕はいま、何にも怒れなくなってしまって、困っているんです。あと、真実って当事者に近い存在であればあるほど、意外と興味ないですよね。自分にとっての真実のほうが大事というか。お二人が掴んだ真実で、世界は、市民は、報道のあり方は、幸せになったと思いますか? 

これはすごく意地悪な問いかけだし、何より特大ブーメランなんですけど。お前はどうなんだよって返されたら、泣いてしまう。このあたり、もっともっと考えないといけないんですよね。もちろん自力で。

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とにかく、この映画はものすごく絶妙で危ういバランスで上映を迎えていることは確かだ。富山在住の方の感想ブログで知ったが、この映画はお膝元の富山では公開がまだだそうだ。その理由は、ちょうど市長選を行っている最中で、選挙後に公開が予定されているとか。もちろん、テレビでの宣伝の予定はないという。

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しかし、作り手からとんでもない宿題を出されたと思うのである。「この空白を、あなたが考える真実で埋めよ」。絶対に回答するので、ちょっとまってください。パンフレットも原作本も買ったので、ね、そこをなんとか。

写真はきょう歩いた吉祥寺の道なり。インタビューと感想ブログを読みまくったり、『メディア粋談』の五百旗頭さん、砂沢さんの2人の監督が出演した回を聞いたりしながら、ほんとに一日中、吉祥寺を歩いていた。そういえば『メディア粋談』も終了に際して、理由は話せないと丁寧に話されていた。メディア人とは、確信的に空白を受け手に託したくなる性分なのかもしれない。

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