神のいない星

「ここは?」

「『神のいない星』さ」

「神のいない星?」

「ああ。正しくは神から見放された大地とでも言えばいいのかな」

「お前は?」

「この星に残ったたった2人の人間、その1人だよ」

「他の人間はどうした?」

「死んだよ」

「なぜ?」

「少し長くなるけどいいかな」

「ああ。時間ならある」

「この星には昔、神がいたんだ」

「神か」

「君は神を信じるか?」

「私はよく分からない。見たことがない」

「ああ、確かにそうだな。私も見た事がないよ」

「なのに神を信じているのか?」

「そうだよ」

「変だな」

「そうかもね」

「何故神を信じるんだ?」

「昔、この星では作物が育ち、水が豊富にあった。確かに神はいたんだ」

「なるほど?」

「それらは全て当たり前にあって、それ を疑うものはいなかった。だけどある日、それらは無くなった」

「なぜ?」

「『呪い』だよ。神がいなくなった、ね」

「呪い?」

「我々は今まで神の恩恵を受けていて、 それが突然無くなったのは神が我々に愛想を尽かしたからだと考えたんだ。いや、そう思い込んだとでも言うべきかな」

「実際は違うのか?」

「わからない。本当に神はいたのかもしれない。だけど、直接の原因は別にある」

「別?」

「あの建物が見えるか?」

「ああ、工場?のように見える」

「そう。ほんの数十年前にあれが出来てこの星は衰えていった。あの工場のせいで星の大気は汚染されていったんだ」

「……さほど汚れているようには見えないが」

「そう。この星は締麗すぎたんだ。気づいた頃には遅かった。工場が稼働を停止した時にはもう既に大気は汚染されきっていた。人口だって半分以下になった。この星の人々は様々な病気になり、作物は枯れていったよ」

「惑星移住は考えなかったのか? この星の技術水準なら可能なはずだが」

「もちろん考えたさ。そして、惑星移住は失敗した」

「何故だ?」

「この星の水には、特殊な金属が溶け込んでいた。もちろんそれを使っていた我々の体内にも。その希少金属が我々以外、ほとんどの人類にとっては有毒だった」

「なるほど」

「奇しくも我々が汚染する側になってしまったということだな。だから惑星移住をすることが出来ず、この星の人々はただ減ぶことを待つだけになった。知り合いが1人、また1人と死んでいった」

「……なぜお前は無事なんだ?」 

「なぜだと思う?」

「大気汚染物質に耐性があった……?」

「勘がいいね。あの建物を設計、建築したのは私なんだ。初めの頃は中で働いてもいた。当時の私は若く、愚かだったんだよ。将来この星を滅ぼすための機械を嬉々として作っていたんだからね」

「そうか。それにしてもなぜ神なんだ?」

「そうだな。目に見えないからかな」

「目に見えないのに信じていたのか?」

「目に見えない“から”信じていたんだよ」

「どういうことだ?」

「その方が都合がいいのさ。みんなあの工場の恩恵を受けた。なんだかんだ便利だったからね。だからこそ、目に見える原因よりも目に見えない神を信じたんだ」

「……私にはよくわからない感覚だ」

「それもまたいいことだ。目に見えるものはだけは確かに存在するからね」

「いいことなのか?」

「多分ね。君は大人だな」

「大人というのはどういうことだ?」

「そうだな。大人になろうとしていないということかな」

「そうか」

「私は子供だったんだよ。早くみんなの役に立ちたくて、早く大人の仲間になりたくて、それであんなものを作った。 だからこれは神からの罰なのかもしれないな」

「罰?」

「ああ。私だけが汚染物質の耐性を得て、知り合いが死んでいくのを、この星が滅んでいくのを見せつけられている。 これは罰だろう」

「……そうか」

「そう思うことにしている」

「そういえば」

「どうしたんだ?」

「生き残りのもう1人というのは誰なんだ?」

「ああ、私の孫だよ。まだ幼いからそれほど多くの汚

染物質を取り込んではいない。だけどもうそう長くはないだろう」

「……親は、お前の子供はどうなったんだ? 死んだのか?」

「ああ。だけど汚染物質によってじゃない」

「なぜ死んだんだ?」

「惑星移住の実験でだよ。彼らの送ってきた通信によって惑星移住の希望は絶たれ、最初で最後の犠牲者になったんだ。あの工場を作ったのが私だということは公にはされていなかったから、その負い目もあったんだろうか。彼らには悪い事をした」

「そうだな」

「君もそろそろここを離れた方がいい。汚染物質の影響は惑星間航行スーツ越しでも少なくは無い」

「ああ、そうさせてもらう」

「そうだ。これを持っていくといい」

「...これは、化石燃料?」

「君たちの文明ではそういうのか。これはエネルギー効率が非常にいい。この中には希少金属は溶け込まないことも分かっている。ぜひ使ってくれ」

「……あぁ。ありがとう。色々聞かせてもらった。またながあったらまたな」

「この広い宇宙だ。またがあるかもしれないね。じゃあ、また」

機体を離陸させると直ぐにこの星は遠くなっていった。貰ったこれっぽっちの化石然料じゃ使い道がないな。そんなことを考えながら、自動操縦に切りかえ、私は眠りについた。

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