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O.bong 2023

子供の頃夏休みに奈良の祖父母の家に帰るのが楽しみだった。
阪神のしましまのキャップを被り2つ上の姉と新幹線と近鉄を乗り継いで、車内販売で買った固いアイスを食べながら、その時だけ買ってくれるジャンプを穴が開くほど読んで、寝落ちして起きたら田んぼと山と工場がひたすら続く光景を見ているだけでワクワクした。
帰りは遅れて1人で車で来た父親の運転で鬼のように渋滞した東名高速をまだ静岡?と文句を垂れながらスカイラインGTRの狭い後部座席で白目をむいていた。車内の娯楽なんて何もなくて、千葉に着く頃にはいつも眠りに落ちていた。セダンが今でも苦手なのはその時を思い出すから。そういう夏が恒例だった。


妻の実家がある秋田へはほとんど飛行機で帰るのだけど、車を買い替えたので7年ぶりに車で行ってみるかと片道約500kmの道のりを運転しながらそんなことを思い出していた。以前は酒田で降りていた高速道路も、遊佐まで延伸していて、再来年には高速道路が県境を跨いでにかほまで延伸するらしい。軽い気持ちで日程を決めたものの、行きは栃木で完全に渋滞にはまり、12時間コース。iPadとDVDとラジオでメンタルをコントロールしながら、だけどミニバンだと車内の快適度は格段に上がっているのでそこまで長距離の運転も苦ではなかった。2度とステーションワゴンには乗れないなと思う。



縁あってにかほという街に帰省するようになって10年近く経った。初めは距離感も地名の読み方も右も左もわからない土地に戸惑っていたけど、思い入れのある場所が今はいくつもある。
移動手段が限られていて、簡単に帰れる場所ではないけれど海と山がすぐそばあって、水が柔らかくて冷たくて、家の風呂ですら気持ちよい。何もないことがいかに豊かなことかを教えてくれる。
日本海に沈む夕日をバックに浜辺で花火ができるのはとても贅沢なことに思う。変わらないことも変わっていくことも全て受け止めてくれるような気がして、とてもリラックスできる街だ。
来年は日程をずらして、仕事をしながらもう少し長く滞在できるといいなと思う。奈良の祖父母は他界して、もう田舎に帰るなんてことはないと思っていたけど、大人になり帰省する場所がまたできたことは喜ばしい。子供達が義母に駆け寄る背中を見ながら、自分の子供の記憶を思い返していたお盆。

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