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【ショートショート&音楽】カッコ悪いよ

私は学級委員長になった事を後悔していた。
やっぱり私には向いてなかったんだ。
何となく仕切ることはできる。
決まりきったことを計画通りに進めることもできる。
でも問題を解決することがこんなに難しいとは思わなかった。
いや、問題の種類によるのかもしれない。

「いじめ」それは、私にとって大きな問題であった。
実際は2年3組のクラスの問題である。
それは結局、この中学校の問題かもしれない。
いや、この社会の問題かもしれない。
「いじめ」はそういうものかもしれない。

私がいじめられているわけではない。
彼女がいじめられている。
桜井さんだ。
それを私は見て見ぬ振りしかできない。
そんな自分がもどかしい。

今日もまた教室の後ろの左端で嫌がらせされているようだ。
いつもそれは昼休みの時間だった。
桜井さんは頭を抱えて机に伏せている。
教室を出ようが結局は同じこと。
そう、理解しているようだった。

それを実行しているのは女子4人のグループ。
その近くにはその女子と仲の良い男子も何人かいる。
彼らはただ楽しげに笑っているだけだ。
彼女らも、その男子も本当に腹立たしい。
でも何も出来ない自分も結局彼女ら、彼らと同じ。
それがまた余計に腹立たしい。

みんな何も出来ない。
それくらいあのグループの存在は大きい。
何故だか分からないが。

私の前の席で寝ている男。
中元。
こいつは私の幼なじみ。
最近では話すことも少なくなった。
でも気軽に話せる仲ではあることには変わりない。
中元はどう思っているのだろうか。
無気力、無関心。
そう形容するのがぴったりの中元。
そもそも気づいてのかも怪しい。
まぁいい、誰かに話すことで何か見つかることもある。
何も変わらないと思うが一応相談してみるか。

その日の放課後、私は中元を追った。

「ねぇ、中元?」
「ん?菊池、何?」
「あんた、部活行かないの?卓球部だっけ?」
「もう行ってないよ。」
「そう。あっでね、桜井さんのこと気づいてる?」
「桜井?さぁ。何?」
「いじめられてるんだよ。一学期の終わり頃から。」
「ふーん、そうなんだ。誰に?」
「あの女子グループだよ。で、二学期になっても続いてて。」
「そう。」
「私も何も出来なくて。どうしたらいいんだろう。」
「んー俺らみたいな人が何を言っても響かないだろう。」
「うーん。」
「あいつらが気づくしかない。」
「じゃあそれまで待つしかないってこと?」
「まぁ、そうだろうね。」
「何でそんなに他人事なの?」
私は強めの口調で言った。
でも中元は何も答えず帰っていった。

あいつに相談しても無駄だったか。
やっぱり部活もやってないのか。
あの感じだと委員会の仕事もしてないだろう。
放送委員?風紀委員だったかな?
無気力、無関心、男め。

次の日。
あっという間に昼休みの時間が訪れた。
また桜井さん席に女子グループが近づく。
中元は前の席で寝ている。
そして嫌がらせが始まったようだ。
私は目を逸らす。
前を向く。
すると中元は消えていた。

教室のスピーカーからは音楽が流れている。
いつもと変わらない曲。
いわゆる無難な曲。
気休め程度に流れている。
誰も聞いちゃいない。

曲が変わる。
ピアノの音が聞こえる。
こんな曲あったっけ?
すると突然凄まじい音。
えっ、ヘヴィーメタル?
そしてキレイな女性の歌声が聞こえる。

♪ 
夢を見ること それさえも持てなくて 光と闇のはざま ひとり
傷ついたのは 自分自身だけじゃなく 見つけ続けてくれた あなた

何だこの曲?
そしてこの歌詞?
これは何だか・・・

周りの皆もこのスピーカーから流れる音楽に気づいた。
そしてあの女子グループも同じように。


イジメ(ダメ!) イジメ(ダメ!)
カッコわるいよ(ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!)
傷ついて 傷つけて 傷だらけになるのさ

皆んなが聴き入っている。
曲は続く。


イジメ、ダメ、ゼッタイ(ダメ!ダメ!ダメ!ダメ!)
イジメ、ダメ、ダメ

終わった。
何だったんだ?
私は桜井さんの方を見る。
女子グループはバツが悪そうにその場を離れた。

私は放送室に向かった。
放送室がある4階に到着すると部屋から出て向こうに歩いていく人がいた。
中元?
放送室に到着すると、そこには同じ部活の水野先輩がいた。

「菊池さん、どうしたの?」
「さっきの曲が気になって。水野先輩は何でここに?」
「私、放送委員だもん。さっきの曲って?」
「なんかヘヴィーメタルみたいな曲流しませんでした?」
「あぁ、あれ。あの彼よ。」
「中元ですか?」
「そう、何か急に現れて。これを流して欲しいって。」
「ベビーメタル?」
「うん、そう。私もはじめて聴いたよ。」
「これは?」
「明日以降、これも流して欲しいって。」

そこには汚い字で10曲近くリストアップされていた。
中には私も知っている曲があった。
確か勇気づけられる曲である。

「中元くんのああいう一面見たのはじめてだったなぁ。」
「えっ、どういう面ですか?」
「何か熱く語ってたよ。」
「何てですか?」
「んー『俺の言葉には何の力もないけど、この曲たちの力は凄まじい』って。」
「へぇーそんなことを。」
「あと、『これで待ち時間を短くできるとか』、何かわけのわからないことを。」

待ち時間?

「あいつらが気づくしかない。」
「じゃあそれまで待つしかないってこと?」
「まぁ、そうだろうね。」

あいつ…
カッコいいじゃん。

今日は曲に助けられた。
でも明日以降はどうなるか分からない。
同じように曲が流れるかもしれない。
また助けられるかもしれない。
でも、決めた。
もう、逃げない。
私が動く。


BABYMETAL - イジメ、ダメ、ゼッタイ
https://youtu.be/nDqaTXqCN-Q

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