見出し画像

本屋探訪。vol2 ケルン編

現在はドイツに留学中。
休暇にはヨーロッパのいろんな国に滞在している。
まず街に降り立ったら現地の本屋に行ってみるのだ。
本屋を回りながら、国によって違いがあったりなかったり。どっちにしても面白い。

Buchhandlung Walther König

ケルン中央駅から繁華街を10分程度歩く。見えてきたのは巨大な本のオブジェ。シンボリックな見た目は雑踏の中でも一際目を引いた。老舗のブックショップ、「ヴァルター・ケーニッヒ」だ。一号店のあるケルンから今ではドイツ全土に支店が広がっている。

仕事帰りの人や家族連れが古本でいっぱいのカートを物色している。その地に根付いているような、飾らない雰囲気が好きだ。なんとなく地元の広島を思い出しながら扉を開けた。

店内はアートブックショップにしては非常に広い。
入り口近くにある子ども向けの絵本や新刊が置いてあるスペースから細い道を抜けて奥に行くと、次にはアーティストのアーカイブ本や建築、美術系の本全般が置いてある。ここはいるだけでとても楽しい。大きなスペースにいくつかの階段とぐるりと部屋を囲む本棚がある。まるでアスレチックのような雰囲気があった。
そして、さらに2階もある。
螺旋の階段を登ると、一階と同じくらいのスペースはデザイン系の著書で占められていた。通りを眺めることができる窓側には、デザインの歴史を語る本や、ブランドのアーカイブ本などが置いてある。
そして店内の最奥には今をときめくアートブックやマガジンたち、それにデザインの理論書が置いてあった。広すぎてどこから見たらいいか分からない。一緒に来てくれた友人には「申し訳ないけどちょっと長くなるかもしれない」と断りを入れておいた。

尽くしてくれる系の本屋

この店の凄さはとにかく蔵書の多さだ。床から天井まである本棚のほぼ全て「棚差し」で置かれている。1、2階の吹き抜けの壁約8mもしっかり本で埋まっていた。そしてなんと階段の壁にも本棚がある。なんなら段差にも本が積まれており、お客さんは膝をついてそれを掴む。すごい本屋だ。お探しの本は見つかりませんでしたみたいなことは多分ないだろう。

面白かったのが店内をざっと見た時にうまく距離感が掴めなかったこと。見える平面が本で埋め尽くされており、奥行きを感じ取れない。まるで本の迷路に迷い込んだようだった。いつまでも居られるし、居てしまう。友人には申し訳ないが、じっくり探検してみようと思った。
店内には閲覧用のイスも何脚かあった。ホスピタリティの高い街の本屋さん。皆、思い思いの本と共にケルンの夕暮れ時をゆっくり過ごしていた。


「本屋兼出版社」の完成形

事前情報で知っていたが、この本屋は出版社としても機能しているとのことだ。
アーティストの作品を一冊の本にまとめるアーカイブ本を多く承っている。
今まで私は、出版社と本屋は別に存在するものだと思っていた。日本では、あまりみないからだ。
大抵、出版社はメーカー業、本屋は小売業で、産業において別々の役割を持っている。しかしこの「ヴァルター・ケーニッヒ」は、老舗でありながらその別々の役割をシームレスに繋いでいるのだ。

出版社と本屋の垣根を取り払うとどのようなことが起きるのか。
個人の見解ではあるが、極端に言うと、「思想を広めること」ができるのだと思う。
日本の場合、作家や出版社から消費者に届くまでに、取次と本屋を介さなければいけない。
取次によって、より広い地域に本を届けることが可能となるが、その間にビジネスのやり取りが行われる。そこで互いの要求がぶつかり、コストや本のコンセプトに関わる問題が発生する。その結果、本当に届けたい読者に純度の高い情報が届きにくくなる可能性が出てくるのだ。一方海外では、出版社と本屋が直接取引をすることが多いのでビジネスのやり取りはある程度少なくなる。
そしてヴァルター・ケーニッヒの場合では、取次と本屋のステージをすっ飛ばして、書籍化してからそのまま読者の元に届く、と言うことが可能になる。作家と出版社が実現したい表現を純度の高いまま世に放つことができるのだ。まさに「全部自分でやるわ!」の成功例。作家たちの強烈な思想を、その角を尖らせたままドイツ中に流通させることができているのだ。


そのホスピタリティと蔵書の多さから街の本屋さんとして機能する傍ら、持ち前の積極性でヨーロッパのアートブックシーンを引っ張ってきたという実績も持っているヴァルター・ケーヒッヒ。

かっこいい本屋だったなぁ。

悩んだ末、Tokyo PapersというZINEを購入した。東京を訪ねたデザイナーが日本のタバコ屋に衝撃を受けて、その注文用紙をZINEにしたというなんとも不思議な一冊だ。コンセプトの斬新さに衝撃を受けて買ってしまった。

2時間程度滞在したが、まだ充分に探索できていない。ケルンにもう一度来た時は、ぜひ寄ってみよう。


Buchhandlung Walther König GmbH & Co. KG
---------------------------
Ehrenstraße 4, 50672 Köln, Germany
10:00〜18:00 日曜定休

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?