自分の時間、信じられるかい?|「スター」朝井リョウ(読書日記)
またしても、朝井先生にボコボコにされました。抉られつつも読む手は止まらない。
「スター」は新人登竜門と言われる映画祭で賞を受賞した2人の大学生、尚真と絋が「巨匠の弟子」と「YouTuber」っていう両端の進路に進んで、挫折・困難・努力・葛藤てんこ盛りの日々を生き抜いていく成長の話。
言ってることが手厳しくて、でもその通りで。
私も映像業界に勤めていて辞めた経験があるから、他人事と思えなくて2人の状況への純粋な共感で泣いた。
私は大学時代、映像専攻で作品を作っていた。映画、アニメ、ドキュメンタリーなど毎日何か作品を作っていた。2人のように全国規模のコンペティションで賞ももらったこともある。就活のプレッシャーに負けそうになりながらも作品作りは絶対にやめなかった。「就活<作品」で、そういう自分自身を信じていた。その根性を買ってくれたのか、憧れだったテレビ局の新入社員として採用された。狭き門を通過したものだと、家族も先生も喜んでくれた。私も心から頑張ると決めた。でも、3年ともたずにやめてしまった。朝から早朝まで毎日心を忘れるほど働いて、鬱になったのだ。10ヶ月くらい休んで、転職した。今は小さなデザイン会社で働いている。薬はずっとやめられないけど、結構元気です✌️
なんでそんな過去語りをしたのかというと、この「スター」を読んで、テレビの世界を辞めてからずっと臆病になっていた心の一部をグッて押し戻される感覚があったから。社会的には立ち直りつつも、あれからずっと心の一部が迷子になっている。そういうナイーブなところ、真っ直ぐに突いて鼓舞してくれる人っていない。私自身ですら庇いながらやり過ごしてるんだから。本っていう距離だから届いた。(もちろん朝井さんの言葉の強さもある)
朝井さんが作家として10年間、考えてきたことも詰まっていると思った。自分が権威ある作家となった今若い書き手たちに言いたいことも。それをさ、こんな熱量で伝えてくれて、それを読ませていただいているわけ。器…。描写がすごーく丁寧なの。こっちが質問したいくらいなのに、こうして伝えようとしてくれているのって、尽くせないほど感謝じゃん。書いてくれてありがとう!出版に携わった人たちもありがとう!
特に好きなセリフの話
作り手である以上、受け取る人のことを舐めちゃダメだと思う。舐めたくて舐めてる人っていないと思うけど、受け取る人のことを舐めてる心ないですかって当時一緒に働いていた人たちに言いたかった〜!でも、わかるよ。私もその一人だったから。忙しいと出すことに精一杯でそういうの出来なくなる気持ちも。毎週の生放送、収録、ロケ、配信番組、特番、長期撮影。いろんな事が全部逆風で、心を忘れないと達成出来ない環境になっていった。でも、忘れようとすると本当に忘れてしまって、心がない身体はちょっとだけ死にたがった。
その点、主人公1人の絋くんは偉かった。忘れようとせずに、心を軸にして作品に向き合った。
絋くんの姿勢にハッとさせられたのだ。心を忘れて作ったものってつまらない。観ていて全然面白くない。ちょっと掴みかけたような答えっぽいものを落とし所にして、考えることをやめたものって全然余裕でつまらないじゃんと。
作中でも「何か足らない」という言葉が出てくる。何か足らないにぶち当たった時、そういう時に必要なことって考えるのをやめないことだ。別の答えに乗り換えるのではなく。考え続けられる心の体力は一朝一夕に手に入るものではないだろうけど、遠くへ行きたいなら必要と思う。
もし仮に今後自分は作り手側で生きていくと決められる日が来るならば、その時は誰に向けても「これは私の作品です」と差し出したい。そしてその作品は考えに考え抜いたものでありたいです。
これは、とても勇気の出る言葉。生活の中では、評価を受けることばっかりだ。ほとんどは、すぐに褒められたり認められたりしない。そういう時に常に自分を信じてあげられるか。全然自信ない。いろんな目線からいろんなことを言われ戸惑うこともある。メンタルがグラついてる日なんかは特にぶれぶれ。
だったら尚真が貰った言葉のように、これからの私の時間を信じる。自分が積み重ねてきた日々が、信じるに値するものだったら私は大丈夫。その日々を続けられれば、報われる瞬間は来る。
昔、部活の顧問に「試合前から勝敗は9割決まってる。お前は負ける。」って言われてムカーってしたんだけど、あれは言葉足らずだっただけで今は意味を理解出来る。練習っていうのは上手になるためだけじゃなくて、ピンチな時も自分自身を信じられるようにするために必要だったんだな。先生スゴい!でも16歳には言葉足らずだったよ〜〜😂
自分語りの多い話になってしまって、結構恥ずかしいので消すかもしれません。
こんな話をここまで読んでくれてありがとうございました。
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