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冬のアサガオ 13

神田「なぁ」
武林「ん?どうした」
神田「ごめんな。黙ってて」
武林「いいよ別に。こんな大変な事、多分お前も俺に気を使っての事だと思うから。」
神田「あぁ、ありがとう」

僕自身、完全にこの問題を心の中で整理出来たわけじゃない。
でも武林がこの事を知って、なんとなく心が軽くなった気がした。

ー体育祭前日ー

先生「神田……お前、忘れたわけじゃないよな?」
神田「はい?」
先生「体育祭終わった1週間後、追試だからな」

完全に忘れていた。これはヤバイ

佐々岡「神田、あんた。」
神田「佐々岡、それ以上言うな。」
朝凪「神田君、体育祭終わったら一緒に勉強しようね」

苦笑いしながらも朝凪が声をかけてくれた。

嬉しさと焦りが入り交じり変な汗をかいた。

その人の帰り、玄関で靴を履いていると
駆け足で朝凪が駆け寄ってきた

朝凪「神田くん、一緒に帰ろ」

神田「……え?」

予想外の出来事に戸惑っていると
朝凪が少し不安そうな顔でこう言った

朝凪「あ、ダメかな……?」
神田「いえ、帰りましょう」

夕日が綺麗な河川敷
隣には黒髪ロング制服姿の美少女

これは、青春。
僕にも春が来た

朝の水やりぐらいしか2人で話す時間がなかったから、ドキドキが止まらなかった

朝凪「神田君。ありがとうね」
神田「ん?何がだ?」

朝凪「応援団に入ってくれて。私、今毎日が楽しいの。毎日笑って汗かいて、ずっと不安だった学校生活が嘘みたいで。その中心にいつだって神田君がいてくれて。ずっとこのままがいいってそう思えてる。」

その言葉に僕はとても苦しかった

頼ってくれた。楽しんでくれた。
僕はこの朝凪の言葉に、喜ぶべきところなのだと、心の中では分かっていた。
でもどうしても、朝凪の寿命が頭に過って
思わず涙が溢れそうだった

この零れそうな涙は嬉しさと切なさが入り交じり
今の僕には少し重すぎた。

朝凪「だからね、神田君。神田君にはずっとそのままでいて欲しい。私は、近いうちに居なくなっちゃうけど、神田君は神田君の人生を生きて欲しい。自分を生きてね」

この言葉に込められた朝凪の気持ちを全て汲み取る事は、多分できなかった。
でも僕が彼女に伝えたいのはたったひとつだけだった

神田「心配すんな。僕は変わらないよ。でも、僕の人生に朝凪が居る。これは変わらない事実で、これからもずっといて欲しい。朝凪が居なくなっても、僕は僕を生きる。でもそんな先のこと考えられないし、今。今を生きよう。今目の前の幸せを、僕は掴みたい」

朝凪「神田くん。」
神田「これって、お気持ち表明になっちゃうかな」
朝凪「ふふ……なるね」
神田「なんか、遠回りになっちゃったな。カッコ悪いね」
朝凪「ううん。私にはヒーローに見えたな。」

それ以上の言葉はいえなかった。
いや、言わなかったと言うのが正しいかもしれない
この先、この決まりきらなかった選択が
後悔でいっぱいになろうと
僕は僕の人生を生きなきゃいけない
朝凪がそう言ってたから……

朝凪「今日、電話かけていい?倫也君。」
神田「もちろん。」

夕日が沈みかけた駅のホームで僕達はまた後での約束をした。

次回に続く

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