見出し画像

【激レア】小四だけのお楽しみ企画「ドラとバケルともうひとつ」とは何か?

「ドラとバケルともうひとつ」と聞いて「知っている」と答える方は極めて稀ではないかと思う。「ドラ」はドラえもん、「バケル」はバケルくんとして、「もうひとつ」とは一体どういうことなのか?


「小学四年生」1975年4月号~1976年3月号
/藤子・F・不二雄大全集「ドラえもん」20巻

1975年度の一年間、「小学四年生」だけが読めた特別企画が存在しており、それが「ドラとバケルともうひとつ」である。

藤子F史においてもこの異色の企画が、どういう流れで誕生し、どのような内容だったのか。本稿ではそのあたりを詳しく解説する。

画像1

企画が立ち上がるまで

突然だが、1974年という年を、藤子F奇跡の一年と勝手に位置付けている。それは、この一年が藤子先生にとって多種多様な傑作を発表した、あまりに多忙な年だったからである。(加えて僕が生まれた年という意味合いもある)

把握できている限りで、この年に発表した作品を並べてみると・・

「ドラえもん」(小学一年生~六年生)63本
「モッコロくん」(小学一年生、幼稚園)21本 
「ドラミちゃん」(小学館ブック)8本
「みきおとミキオ」(小学四年生~五年生)16本
「バケルくん」(小学二年生~三年生)24本
「パジャママン」(たのしい幼稚園他)43本
「キテレツ大百科」(こどもの光)9本
「つくるくん」(キンダーブック)9本
読切短編 6本
合計:連載8作+読切6本=199本
太字は新連載

なんと、一カ月当たり16.5本という作品数で、これは控えめに言ってもギネス級である。しかも「ドラえもん」以外は全て新連載という事実も驚きである。

さらに、この年は7月に「ドラえもん」の単行本が一気に6冊発売されている。藤子先生にとっての単行本は傑作選という位置づけだったので、収録に際しては過去の作品に手を入れていた。

まさに八面六腑の大活躍だが、でも、なぜこれほどの作品数の執筆依頼を引き受けたのだろうか?


諸説ある中の通説として、「ドラえもん」を書き続けたい先生の思惑と、ポストドラえもんの種を蒔いてほしいという編集側の思惑が重なったから、というものがある。

この奇跡の年の一年前、1973年に「ドラえもん」の一度目のTVアニメ化が放送されたが、クオリティにも問題があったりして人気に火が付かず半年で終了してしまう。1974年が奇跡の年なら、1973年は悪夢の年であった。

一般的に、アニメ化を終えたマンガは、黄昏の空気を纏(まと)うもの。「ドラえもん」も例外ではなく、マンガにも連載終了の圧力をF先生が感じていたのは想像できる。ドラえもんを続けるために、敢えて多忙の道を進んだのではないか、という説が有力なのである。


ところが74年に発売された単行本が望外に売れ、ドラえもんの認知度も人気もここから急上昇していく。なので、1975年に入ってからは、何本も抱えたいた連載を整理させていく。

この整理を生き残って、連載が続いた作品が「バケルくん」と「キテレツ大百科」であった。これらの作品については、それぞれ別記事で書いているので、詳細はそちらを読んでもらいたい。

生き残ったこの二作は、今読んでも十分に面白い、普遍的な完成度を誇る。

「バケルくん」は、1975年度では「小学四年生」と「小学五年生」で連載を継続していた。前年度は「小学三年生」と「小学四年生」で連載していたので、一つずつ学年が繰り上がったことになる。

この二誌は、当然「ドラえもん」も連載されているので、この時の読者は藤子F作品を常に2本読めるラッキーな人たちだった。


そして、「小学三年生」の1975年3月号において、重大告知が掲載される。それが、翌月号(=「小学四年生」4月号)において、「ドラえもん」「バケルくん」の連載とは別で、藤子先生の特集ページが付いてくるというのである。しかもその内容は、毎月変わるのだという。

そこら辺のユーチューバーにも見習ってもらいたい本物の「重大発表」なのである。

その第一回目は「ドラえもん大事典」で、みんなの知らないドラえもんの秘密や不思議な道具を大特集するというもの。僕が当時の読者だったら楽しみ過ぎて眠れなかった可能性もある。


さて、なぜこの年の「小学四年生」だけ大盤振る舞いが行われたのか。

まず前年から連載の数がぐんと減り、藤子先生に時間的余裕ができたことが大前提にある。「ドラえもん」単行本ではのび太の学年設定を小学四年生にしているので、藤子先生にとって小四は思い入れのある学年であることも一つ。小学館的にも、小四あたりから学年誌は部数が落ちていたはずなので、そのテコ入れだった可能性もある。

ただ、はっきりとした理由はよくわからない。


そして、ついに特集ページ企画が開始される。題して「まんがワイドショー ドラとバケルともうひとつ」である。ちなみに、まんがワイドショーの表記は月によって付いたり消えたりしている。

それでは、各号のタイトルと主な内容をリストアップする。

4月号:ドラえもん大事典

ドラえもんの身体情報・未来の国の様子・ドラえもんの経歴などが初披露される。ふしぎな道具39個の紹介つき。この号の内容は、てんとう虫コミックス11巻に再編集の上掲載されている。

バケルくんが、ドラえもんにインタビューするコーナーもあり、二作のクロスオーバー感を醸し出している。

画像2


5月号:クイズだパズルだ暗号だ

かくし絵クイズ、暗号クイズなど9つのクイズやパズルが掲載。この回は単行本に収録されていないので、かなり貴重。

画像3


6月号:スター誕生

かなり凝った回となっている。まず、「天才少女歌手 円奈(つぶらな)ひとみのなぞをさぐる!」という2ページの記事が載り、この後ドラえもんの「ジ~ンマイクの巻」(単行本収録時には「ジ~ンと感動する話」)とバケルくんの「ゴン太のガールフレンド」が掲載される。そして今の2作を踏まえた小説「スター誕生」が載せられた。

この回については、次回改めて記事化します。


7月号:おまけ四年生

コンセプトの統一感には欠けつつ、バラエティに富んだミニ企画が集められている。特筆したいのは「百恵ちゃんとドラえもんの体育教室」で、人気急上昇中だった山口百恵(らしき子)とドラえもんが共演して、意味不明の体操をするという謎企画である。

他にもアシスタント勢で執筆したと思われる「どんぐりQのわすれな靴とゴンタッチのトントン・スリー」(作:フニャ子フニャ夫)は、自棄っぱちな空気すら感じる。

画像4


8月号:ドラとバケルのカッコマンだよ夏休み

夏休みをテーマに、ドラえもんとバケルくんのキャラクターたちが、山や海に行く計画を立てて、準備したり、実際に行ってみたりする。夏休みと言えば山か海、ということで、これは後に「のび太の海底鬼岩城」などに通じるものを感じる。

ドラえもんのてんとう虫コミックス11巻「ドラえもん大事典」に一部収録されている。

画像5


9月号:『ぼく桃太郎のなんなのさ』

ドラえもんとバケルくんの完全クロスオーバー作品を掲載。「ドラとバケルともうひとつ」最大の企画と言える。桃太郎が実際にいる?というテーマで、藤子二大キャラがガチンコ共演を果たす貴重な作品となっている。

てんとう虫コミックスでは9巻に収録しているが、バケルくんを知らない読者が読むと、かなりの疑問符が浮かぶ作品で、僕も実際そうだった。壮大なストーリーゆえ、1981年に初めて夏の時期に映画化されたが、この時はバケルくんの姿はない・・。

本作の考察については、ずっと先に記事化する予定である。


10月号:学習なんでも図鑑

藤子先生オリジナルキャラを紹介する「図鑑」企画。鳥・動物・魚・昆虫・植物のテーマで、先生のイマジナリティ爆発。

画像6


11月号:『ぼくのオキちゃん』

この年の7月から始まり、翌年1月まで開催された「沖縄国際海洋博覧会(EXPO’75)」とのタイアップしたような読切短編。実際にいたイルカのオキちゃんをモデルに、とある少年の夢を描く幻想的な物語となっている。

こちらも別途どこかで考察予定である。


12月号:『世界名作童話』

こちらについては既に記事化しているので、そちらをご一読下さい。


1月号:マンガワークブック

「マンガ大学入試のための必読書」と題された意外と真面目なマンガ書き方ガイド。藤子先生のお題に、当時の藤子プロのアシスタントたちが挑戦する企画が見所。読者に対しても作品募集を行っており、後の号で結果発表も行われた。

画像7


2月号:『リトベラのたて琴』

ネームを藤子先生が描き、小森麻実さんが画を担当した少女漫画(風)。19ページとボリュームあり。この作品については謎が多く、そもそも少女漫画に良くある大河ロマンをパロディしているのか、本気で感動させようとしているのかも不明である。

小森麻実は、藤子マンガでは「宇宙人レポート サンプルAとB」という作品の画を担当していることで有名な漫画家。石ノ森章太郎門下で力を溜めて、本作の頃から短編などの商業作品も手掛けるようになっていた。

小森麻実特集ということで、「宇宙人レポート サンプルAとB」と合わせて記事化するかもしれません。

画像8


3月号:未来の遊び百科

タイトル通り、未来の遊びを藤子先生が目いっぱい想像して書き下ろしたマンガ+イラスト。こちらもてんコミ11巻に収録されている。個人的には「スカートめくり用マジックハンド」がツボだが、今ならセクハラでアウト。

画像9


大人になるまで「ドラとバケルともうひとつ」の存在は良く知らなかったのだが、藤子・F・不二雄大全集のおかげで、その全貌を知ることとなった。この企画の集大成は、映画化にも発展した「ぼく、桃太郎のなんなのさ」であろう。こちらは別途しっかり記事化する。

また、6月号の「スター誕生」は、二大キャラのクロスオーバーの企画性や、小説という発表形式からしても、かなりの異色企画と言える。こちらは、語りがいがあるので、次回たっぷりと考察いたします。


他のF作品考察はこちらから。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?