見出し画像

「ウラシマ効果」とは?『世界名作童話』/藤子Fの浦島太郎②

前回の記事で藤子F先生はSF(少し不思議)なおとぎ話が好きで、よく題材にしているのだが、特に浦島太郎伝説のモチーフを使っての、力が入った作品を複数発表されていることを紹介した。

この記事では、昔話は伝承されていくうちに、時代ごとのバックボーンを踏まえて尾ひれがついていくという、おとぎ話の成立について触れている。興味ある方は是非読んでみて下さい。


『世界名作童話』「小学四年生」1975年12月/大全集3巻

本稿では、「浦島太郎」も含めた童話パロディ集『世界名作童話』を取り上げる。本作は、1975年の4月~翌3月まで「小学四年生」誌上で特別連載された、「ドラとバケルともうひとつ」の企画の一つという位置づけとなっている。

「ドラとバケルともうひとつ」の解説を少しだけ。
この当時「小学四年生」では藤子F先生の「ドラえもん」と「バケルくん」の二大マンガを同時連載していたのだが、これに加えて二作をクロスオーバーさせる企画を毎月行っていた。

この企画からドラえもんとバケルくんファミリーが共演した『ぼく、桃太郎のなんなのさ』が生み出されたので、とても意義深いものだったと僕は考えており、こちらについては詳しい記事を近く出そうと思っている。

本作は「バケルくん」の要素はないのだが、いかにもオマケ的な、力の抜けた楽しい作品となっている。

「全5巻」という構成の童話パロディ集となっている。
タイトルは、

第1巻:みにくいアヒルの子
第2巻:ねむれる森の美女
第3巻:うらしま太郎
第4巻:ヘンゼルとグレーテル
第5巻:ジャックと豆の木

となっており、それぞれ見開き2ページの超短編である。まずはともあれ、「うらしま太郎」について検証していこう。


本作は短いながらも、背景にしているネタはかなり重層的だ。特に、浦島太郎を語源とする「ウラシマ効果」については、サクッと設定に埋め込んでいる。

一応「ウラシマ効果」について解説しておくと・・、これは、アインシュタインが提唱した「特殊相対性理論」に基づく光の速さと時間の関係についての仮説を、浦島太郎のストーリーに引っかけて命名したものである。

「特殊相対性理論」では、時間の流れは絶対的ではなく、相対的であると捉える。具体的に、ある条件を満たした基準点から観測した場合に、光速に近い速度で飛んでいる宇宙船では、地球上にいるよりも時間の進み方が遅くなる、とされている。

この現象を踏まえて、SF作品などでは、光速で宇宙探索をして地球に戻ってくると、例えば1年間留守にしていただけで、地球では何年も時間が経過していた、というような描写がよく出てくる。

浦島太郎の物語では、3日間の竜宮城滞在から帰ってみると300年が経過していた。まるで宇宙飛行から帰ってきたように思える、ということで、この時間経過が異なる現象を、俗に「ウラシマ効果」と呼んでいるのである。


そして、浦島太郎のような現象=ウラシマ効果、というところから着想を得て、浦島太郎は実は宇宙旅行をしていたのだ、と考える二次創作も多く存在している。

これも良くある話ではあるが、「亀に乗って」というのは宇宙飛行船のことで、竜宮城は宇宙人の星、帰ってみるとウラシマ効果で地球の時間がだいぶ経過してしまっている、と童話をSF設定に置き換えるパターンである。


本作では、まさしくこのパターンに沿ったお話なのだが、何せ2ページというミニマムの分量でこれを描いているので、その歯切れの良さが半端ないのである。

「ウラシマ太郎」はマンガとナレーションを並行して描く絵物語の形式となっている。せっかくなので、少しずつ見て行こう。

最初のナレーションから、

「うらしま太郎のお話ほど、間違いだらけの姿で伝えられた話はありません」
「実はですね、太郎が助けたのはカメじゃなくてタコだったんですよ」

と、いきなり惚けた始まり方。タコとしたのは、この後助けたのはタコ型の宇宙人だったという説明に繋がっていく。そして、タコをいじめているのは、ジャイアンとスネ夫にそっくりな子供と、のび太らしき男の子も加わっている。

画像1

カメではなく、カメ型ロケットに乗って、竜宮城ではなく「水ガメ座二番星、リューグージョー」へと向かう。

太郎はそこで楽しい毎日を送り、そろそろ帰ろうかというところで、乙姫から、

「ああら、今から帰ったってしようがないんじゃない」

と、明るく、絶望的なことを告げられる。そして、ここで「ウラシマ効果」の説明が入るが、これが非常に端的で気に入っている。

「光の速さに近いロケットで飛ぶと、時間の過ぎ方が遅くなるんだそうです」

お見事。

既に300年経っていると太郎は教えられてショックを受けるが、それならばと開き直り、あちこちの星に立ち寄って道草をしながら地球へと帰っていく。

そして、本作のオチは、なんと帰ると地球が「サルの惑星」になっていた、というもの。ご存じ映画「猿の惑星」を思わせるコマで終わりとなっている。

画像2

一応、「猿の惑星」のことも補足しておくと、最初の「猿の惑星」が公開されたのが1968年のこと。宇宙飛行中に辿り着いてしまった星は、猿が人間のように知性を持った世界だった、という始まり方で、実はそこは時代が大きく先に進んでいた地球であったというラストシーンが、当時の観客の度肝を抜かした超話題作である。

この宇宙飛行も準光速で進んでいたので、地球よりもだいぶ遅い時間経過であった。なので、結果的に地球に戻ってきた乗組員たちは、タイムマシンのように、かなり未来の地球に着いてしまったのだ。まさしく「ウラシマ効果」をテーマとした作品であった。

おそらく藤子先生も、「猿の惑星」は好きな作品だったに違いない。だいぶ様相は異なるが、これに着想を得たと思われる『一千年後の再会』という名作も残されている。

本作「ウラシマ太郎」は、よくある浦島太郎=宇宙飛行説に、猿の惑星の要素もくっ付けて、良質なパロディ作品に仕上げている。たったの2ページにアイディアがきちんと詰まった、お気に入りの一本である。


さて、『世界名作童話』のそのほかの作品も軽く触れておこう。

第1巻:みにくいアヒルの子
自分のことが兄弟の中で最も美しいと思ったアヒルの子が、ハクチョウの元に単身向かうが、似ていないと追い返され、あちこち歩くうちに汚れてしまい、カラスの子供の仲間入りをしてしまうというお話。何の教訓も得られないバカ話となっている。

第2巻:ねむれる森の美女
百年の眠りから覚めたねむり姫。しかし、寝すぎたために、今度は夜になっても眠れなくなる。一人起きているのが悔しくて、夜中に大騒ぎをするようになり、「眠れ森の王女」と呼ばれることになったという、これもバカ話。

第4巻:ヘンゼルとグレーテル
ヘンゼルとグレーテルを捕らえた魔女。二人を太らせて食べようと画策するが、料理下手で二人は食べてくれない。そこで、色々と料理の工夫をしているうちに才能を発揮し、二人にレストランを開けば大流行とそそのかされて、「レストランまじょ屋」をオープンさせてしまう。
当時問題になったCMの「私作る人、僕食べる人」のパロディセリフも出てくる。

第5巻:ジャックと豆の木
ドラえもん、のび太、ジャイアンが登場。5本のうち、最大限にバカバカしい作品となっている。こちらは敢えて詳細はカットしておこう。

画像3


さて、本稿は「ウラシマ効果」と、浦島太郎=宇宙飛行のパロディ作品を紹介した。次稿では、「のび太の海底鬼岩城」のベースにもなった、浦島太郎伝説をテーマとした大作を検証する。





この記事が参加している募集

コンテンツ会議

マンガ感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?