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ヒーローは着替えを持ち歩いておかないと「パジャママン」『コアちゃんのかつやく』/VS.脱獄囚②

悪者が跋扈する社会では、時としてヒーローが求められる。しかし、その逆もしかりで、ヒーローのいる所に悪事が集うのだとも言えるのではないか。

ヒーローが先か、ヴィランが先か。実はこれは「ヒーローもの」の永遠のテーマであり、このテーマを突き詰めたアメコミ映画の「ダークナイト」という金字塔もある。

藤子作品にはヒーローの物語が多いが、同様の問題が常に付き纏う。ヒーローが活躍することで悪者が駆逐されている一方、次から次へと新しい敵が登場してヒーローを苦しめる。

もしヒーローがいなかったら、悪者がのさばる社会となっていたのだろうか。それともヒーローが誕生してしまったから、悪者が湧き出てきてしまったのか。

「ニワトリが先か、タマゴが先か」に似た、考えれば考えるほどに、とても難しい問題なのである。


今回、脱獄囚という悪者にスポットを当てた作品について、シリーズ記事を書いている。前回は藤子マンガ最大のヒーロー作品「パーマン」から一本取り上げた。

上の記事で、脱獄事件は昭和時代(戦後)では年間20~30件発生しており、脱獄犯は、令和の今の時代よりもポピュラーな存在であったことを書いている。日常をベースにしたヒーローものを得意とする藤子先生にとっては、使いやすい悪役だったのかも知れない。

本稿では、「パーマン」以降に描かれた代表的なヒーロー作品である「パジャママン」から、脱獄囚が登場するお話を見ていきたい。


内容を語っていく前に、まず「パジャママン」とは何かをご存じの方も少なかろうと思うので、以前書いた作品紹介記事を貼っておく。

藤子・F・不二雄大全集で初めて単行本化されたマイナーな作品だが、幼稚園~小学校低学年の男女ペアが活躍する、パーマンの年少版というような立ち位置の痛快なヒーローものである。



「パジャママン」『コアちゃんのかつやく』
「テレビマガジン」1974年1月号

本作『コアちゃんのかつやく』は、「パジャママン」のメイン誌だった「テレビマガジン」の二話目にあたる作品。

初回の『パジャママンたんじょう』にて、山田タツ夫と川田エミの二人が、地下深くに埋まっているロケットからヒーロー道具一式を譲り受け、「パジャママン」となった、次の作品である。

本作ではエミちゃんの持ち物であるコアラのぬいぐるみ「コアちゃん」も、パジャママンの仲間入りを果たす。これにて設定が完全に固まるという意味で、本作はしっかりと押さえておきたい作品となっている。


パジャママンの隠れ基地となるロケットは、隣家である山田家と川田家の地下深くに埋もれている。タツオとエミはその一室でロケットの故郷ユメジ星の美しい映像を見ていたが、タツオのママが自分を探していることに気が付き、自室へと戻る。

さり気ない導入シーンだが、子供たちだけが行き来できる親に内緒の世界があるという、幼い読者の憧れがきっちりと描かれている。

タツオに友人が訪ねてきており、話を聞くとこれから野球をするのだと言う。ちなみにこの友人の名はデメケンと言って、「ドラえもん」でいうところのスネ夫の役回り。

野球に誘われたかと思って空き地までついていくと、チームの三番バッターが留守番で出場できなくなったのだと聞かされる。いきなりクリーンナップを任されるのかと思いきや、留守番の方を代わってくれという。

補欠にもならない役回りであり、当然タツオは「そんなばかな!」と感情を露わにするが、ガキ大将である大太郎のツルの一声で、留守番をさせられることになる。

タツオとエミは前作(初回)で転校してきたばかりということで、まだ大太郎やデメケンたちといった友人たちとの関係はギクシャクしているようだ。


「人の留守番なんて初めてだよ」と愚痴りながら三番バッターの少年の家に入るが、少年が家を空けている隙に何者かが侵入しており、タツオは殴られてそのまま捕まってしまう。

この乱暴者の正体は何者なのか?

近所をパトカーが通り、拡声器で住民にメッセージを出している。

「ゆうべ刑務所を逃げ出した凶悪犯人がこのあたりに潜んでいる模様です」

町の住人からしたら、とてつもない大事件の発生である。今の世の中だったら、集団下校とか、家から出ないようにとお達しが出るレベルである。

しかも犯人は拳銃を所持しているという。凶悪な上に拳銃まで入手しているとは、まさに鬼に金棒。かなりの危ない人物と言って良いだろう。ちなみに前回取り上げた「パーマン」の脱走犯も交番から拳銃を盗み出していた。

タツオはそんな危ない輩に捕まり、縛られてしまう。騒ぐと撃つと拳銃を突きつけられる。

タツオはパジャマさえあればと思うが、変身に必要なホルスターはロケットに置きっぱなしのまま。まだヒーローになりたてなので、変身セットを手放すというヘマをしてしまったようである。


脱獄犯のニュースは基地に残っていたエミちゃんとロケットにも伝わる。今こそパジャママン出動の時だと言うことで、エミは、タツヤにも伝えなくてはと、慌てて基地から飛び出して行く。しかし彼女もまたホルスターを忘れて行ってしまう。

エミちゃんは野球をしている少年から、タツヤが留守番をしていると聞く。タツヤが脱獄犯と一緒だとは露知らず、不用心に家に入ってしまい、あっさりとエミも捕らわれてしまう。

タツヤからすれば唯一自分を助けてくれる可能性のあるエミちゃんも捕まってしまうことは想定外。まさしく手も足も出ない緊急事態である。

脱獄犯は留守宅だと思って身を隠していたのに、立て続けにタツヤとエミが入ってきたので、ここも安全な場所ではないと判断する。ここから逃げ出すにあたり、タツヤたちをそのまま置いておくと面倒だということで、殺してしまおうと考える。


絶体絶命のピンチの最中、エミちゃんがいつも持ち歩いているコアラのぬいぐるみ(コアちゃん)が、なぜかトコトコと町の中を歩いている。タツヤとエリのホルスターを抱えて、エリの匂いの後を追っていく。

そして二人が捕まっている家に辿り着き、中に入っていくと、ちょうど脱獄犯がタツヤたちに銃口を向けて、「可哀想だが覚悟してもらおうか」と、引き金を引こうとしている。

物音がしたので、脱獄犯は誰かがいるかと思い、廊下に出てみるがぬいぐるみが転がっているだけ。脱獄犯が廊下を探し回っている間に、コアちゃんは二人にホルスターを渡して、パジャママンになるよう促す。

突然ぬいぐるみが動いて喋り出すものだから、驚くタツヤたち。そこでコアちゃんが事情をざっと説明する。

「ロケットはロボットになる手術をしてくれたんだよ」

心強い(?)第三の仲間の誕生である。


この家の住人である野球少年が帰って来る。もちろん彼も凶悪な脱獄犯が家にいるとは思いもよらず、あっさりと捕まってしまう。

そしてそこへ、着替えを終えたパジャママンが登場! 正義のヒーローは最後に登場するものだが、本作の場合は、本当に待ちに待った感が強い。

脱獄囚は拳銃で撃ってくるが、パジャママンには通用しない。そのまま脱走犯に近づいていって、「やめようね、いい子だから」と言って頭を押さえつける。

すると、パジャママンの怪力が発動して、犯人は廊下を突き破って埋もれてしまう。あっさりと勝負あり、である。


事件を解決してロケットに戻るタツヤとエリ。ところがタツヤの家ではまたママが自分を探している。パジャママンの格好で部屋に戻ってしまい、慌てて脱ぐのだが、着替えはロケットに置きっぱなしのまま。

部屋の中で裸のタツヤは、ママに対して「お風呂まだ湧かないかしら」と強引に誤魔化すのであった。


本作は「パジャママン」の二話目であるが、敵として大抜擢されたのは、凶悪な脱獄犯であった。第三話以降も何かと物騒な事件が続く「パジャママン」だが、全体を通じてもかなり強烈な敵キャラであったように思う。

拳銃で命を狙われるという展開は、幼児向け作品としてはやりすぎ感もあるが、このくらい主人公がピンチに陥った方がヒーローものは盛り上がるというもの。

サービス精神旺盛な作品なのである。



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