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「パジャママン」の町は凶悪犯だらけ!!/ちょっぴりマイナーな幼児向けF作品⑥

藤子作品の日常系ヒーローものと言えば、真っ先に思い浮かぶのは「パーマン」だろう。もしここで、「パジャママン」と答える方がいたら、その方はきっと変態だ。

知名度の若干低いヒーロー作品「パジャママン」は、実は当時高視聴率の子供向け番組から生み出されたキャラクターである。

番組名は「ママとあそぼう!ピンポンパン」。フジテレビ系列で朝早くに平日帯で放送されていた。僕も微かながら見た記憶があり、「ママとあそぼう!ピンポンパン」とNHK教育テレビの「おかあさんといっしょ!」の2番組を喜んでハシゴしていたようだ。

「ピンポンパン」の中で「パジャママンのうた」という楽曲があり(全然知らなかった)、その歌詞に着想を得て、物語が作られたとされる。

作詞家はピンクレディーなどのヒット曲を手掛けた、阿久悠。漫画版においても「原案」としてのクレジットが残されている。


作品制作の発端は変わっているが、漫画版は藤子F先生の「らしさ」が詰め込まれた、子供ゴコロをくすぐる魅力たっぷりの面白作品群となっている。

まずは作品の概要を説明しよう。

主人公は山田タツ夫と川田エミ。山田家と川田家、二つの家族が同じ日に隣同士で引っ越してくるところから始まる。

両家の地下には、かつて何百年前に落下してきた「ロケット」が埋まっており、タツ夫とエミは、このロケットに招かれて地下に潜り、友だちとなる。その友情の証にとプレゼントされたのが、ユメジ星のパジャマである。

裸になってパジャマを着ることで、パジャマのエネルギーが全身から吸収され、パジャママンへと変身することができる。着心地は柔らかくて、温かで、涼しく、力が湧き出る感じらしい。

パジャマを着れば、とてつもないパワーが出るし、銃弾も跳ね返す強靭な体を持つことができる。

ヘルメットにはトランシーバーが付いていて、パジャママン同士、遠方での会話が可能。ジャンプグツは履くと20メートルまで飛び上がれる。

また、備品のホルスターを叩くと、マクラ型の弾が出て相手を眠らせる「ドリームガン」と、空を飛んだり道を走ったりできる「ユリカ号」が飛び出す仕掛け。ユリカ号は三輪車よりも簡単に操縦できて、ホバークラフトやロケットにもなる優れものだ。

第二話で、エミちゃんお気に入りのコアラのぬいぐるみコアちゃんが、ロケットの手によって動けるロボットとなり、以降はタツ夫、エミ、コアちゃんの3人組で活躍していくことになる。


次に掲載誌の情報を整理しておく。

本作は講談社の幼年向け雑誌4誌にて一斉に連載が始まった。メインとなったのが、子供向けテレビ特集雑誌「テレビマガジン」。小学館の「てれびくん」の先行誌にあたる。初回は16ページで、二話目以降は7~10ページ程度の短編である。

他には「たのしい幼稚園」「おともだち」「ディズニーランド」にて、3~5ページくらいの掌編が掲載された。連載期間は以下の通り。

「テレビマガジン」1973年12月~1974年10月号(11話)
「たのしい幼稚園」1973年12月~1974年11月号(12話)
「おともだち」1973年12月~1974年11月号(12話)
「ディズニーランド」1974年1月~1974年11月号(11話)

4誌合計で46話が描かれた。


さて、概要はこの程度にしておくが、本作を通読して感じたのは、タツ夫とエミが引っ越してきた町は、凶悪犯が蠢(うごめ)く治安の悪い地域であるということだ。

そこで本稿では、どんな種類の凶悪犯が登場したのか列挙してみたい。仮にパジャママンでなければ、タツ夫たちは幾度となく死にそうな目に遭ったことだろう・・。


脱獄犯(『コアちゃんのかつやく』)
ピストルを持って市中へ逃走。タツ夫の家に忍び込み、タツ夫とエミは捕まって口封じに撃たれそうになる。

引ったくり犯(『目ざましぐすり』)
車に乗って通行人からカバンを引っ手繰る。ナイフで応戦してきたりと物騒な男だ。

誘拐犯(『切手とゆうかい』)
切手収集家の娘を誘拐し、一枚62万円もする切手を身代金代わりに要求する二人組。

人さらい(『人さらいをやっつけろ!』)
お菓子をあげるからと声を掛けて子供をさらう。目的は不明・・。
人さらい2(『おばけこわいよ』)
大太郎を誘拐する
凧の人さらい(『たこの人さらい』)
リモコン操縦の巨大な凧を使って、子供たちを誘拐する。凧を使った攻撃も。

ピストル犯(『ピストル男を追え!』)
町中でピストルを撃ちまくり、そのまま山へと逃亡。パジャママンのパジャマを狙う。(実際に奪われる)

ニセ札犯(『ニセ札がいっぱい』)
大量のニセ1000円札を作り、商店街で使いまくる二人組。宝石ではなく、タバコを大量に購入してしまう。

40人のギャング団(『大太郎とパジャママン』)
セリフの中でサラッと出てくる凶悪犯罪者集団。

強盗犯(『パパがピンチ!?』)
夜道で通行人に襲い掛かる。基本はナイフで脅すが、柔道三弾でも敵わない腕力を持つ。

宝石強盗(『ユーレイが出た!』)
宝石店の隣の家から地下を掘って宝石を盗み出そうと画策する。
宝石強盗2(『おちばの雨』)
宝石店からダイヤを盗んだ二人組。落ち葉の中に落としてしまう。
宝石強盗3(『たからさがしごっこ』)
宝石店から強奪し、公園に埋めておいたところをタツ夫たちに見つかる

拳銃強盗(『ロケットのなみだ』)
拳銃で実際に人を殺してしまう。(生き返らせることに成功するが)
拳銃強盗2(『トイレについてきて』)
ピストルを使って夜道で強盗

銀行強盗(『かたづけましょう』)
二人組。強盗には成功するが、逃走中にパジャマンに捕まる。

水責めしてくる悪者(『大きなプール?』)
タツ夫とエミのいる地下室に水を流し込んで溺れさせようとしてくる。

列車爆破魔(『きれいな花火』)
ダイナマイトの束を線路に設置。

眠りガス強盗(『ねながらたおせ!』)
眠りガスで眠らせて金庫を狙う。寝相の悪いパジャママンに倒される。

泥棒(『かしわもちだいすき!』)
押し入れに隠れているところをす巻きにされる。
泥棒2(『せんめんきは?』)
いかにもな泥棒ルックが特徴的
泥棒3(『おとをたてないで』)
いかにもな大きな風呂敷を担ぐ
泥棒4(『おふろはきらい』)
金庫を盗んで下水道へ逃げ込む
泥棒5(『おししどろぼう』)
おししを被り、中に掃除機を入れてお年玉を吸い込んでいく
泥棒6(『みんなみいつけたっ!』)
泥棒して犬小屋に隠れる。
泥棒7(『おちばそうじ』)
木の上に隠れていたが落ちて葉っぱに埋もれて、たき火の火をつけられる

<番外編>
大蛇(ボア)(『パジャママンたんじょう』)
熱帯園から脱走
トラ(『ネコかトラか』)
動物園から脱走
ワニ(『かげ絵あぞび』)
ペットのワニが脱走


作品のタイトル名はほのぼのしているが、毎話のように凶悪犯が身近に現れる。そのギャップが凄い。パジャマを持っていない時に襲われることもよくあり、友人や家族もしょっちゅう狙われている。

この町に住んでいると、命がいくつあっても足りない気がしてくる。その意味で、幼児読者は人間不信を起こしてしまうんではないかと思ってします。


なお、「テレビマガジン」での最終回は、感動的なエンディングを迎える印象深い一本となっている。こちらは、将来予定している「最終回」特集記事にて紹介を行うつもりである。



メジャー作品から、少しマイナーな作品まで考察揃っています。


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