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「ドラえもん」世界に星野スミレ初登場!『オールマイティ・パス』/女優・星野スミレ①

本稿から3回に渡って「女優・星野スミレ」と題して、藤子F先生の作品歴において、非常に重要な「ドラえもん」のエピソードを語っていきたい。

藤子Fノート執筆の最大の目的とも言える記事となるので、是非とも多くの方に読んで頂ければと思います。


そもそも、「パーマン」世界の主要人物である星野スミレは、いわゆる「旧パーマン」(=1960年代のシリーズ)で、国民的な美少女スターとして幾度か登場していたキャラクターである。

彼女は、実際のところパー子の中の人なのだが、旧パーマンにおいてははっきりとその正体を明らかにしてこなかった。ただし読む人が読めばわかる作りにはなっており、パー子=星野スミレは公然の秘密のような状態であった。

そして、パー子の正体は明示されぬまま、メイン掲載誌である「週刊少年サンデー」連載は終了するのだが、その直後に、唐突にパー子の正体が明らかとなる。

なんと、モノクロアニメ「パーマン」の最終回Aパート『パー子という名の女の子の巻』という回で、パー子の正体が星野スミレだと明かされたのであった。

隠されていた設定が明らかとなったわけだが、その後、1971年に発売された虫コミックス版の「パーマン」第4巻の表紙カバーにおいて、パー子の正体は星野スミレであると、あっさりと描かれている。(この時は、星野スミレは芸名で、本名は鈴木伸子とある)


アニメと単行本カバーのみで星野スミレがパー子だとされたが、実際に漫画の世界では依然パー子の中身は謎のままであった。しかし80年代に入り「パーマン」の新シリーズが始まると、状況が一変する。

パー子の正体が星野スミレであるという設定が大っぴらとなり、それを踏まえたエピソードがいくつも描かれたのである。

しかもそのエピソードでは、藤子ファン、パーマンファンを歓喜させる驚きの展開をみせることになるのだが、この件については別の「パーマン」の記事などで改めてご紹介したい。


さて、そんな星野スミレが「ドラえもん」の世界に登場しているのをご存じだろうか。旧パーマンにおいて少女スターだった星野スミレは、なんとそのまま芸能活動を続けて成人となり、大女優への道を歩んでいた。

「ドラえもん」において、大人になった星野スミレは全4話で姿を見せる。その内の2話は、藤子F作家史において燦然と輝く最重要回となっており、この点については次稿以降でがっつりと紹介していく。


本稿ではまず、ゲスト出演という形で星野スミレが登場している二つのエピソードを簡単に紹介しておきたい。星野スミレが漫画の中で描かれるのは、実に9年ぶりのこととなる。


『オールマイティ・パス』「小学五年生」1977年5月号/大全集6巻

その日は突然やって来る・・・。本作は、何の前触れもなく星野スミレが登場するパーマンファン驚きの回となっている。ただし「パーマン」のキャラクターであるというような匂わせは一切なし。


本作で登場するひみつ道具「オールマイティーパス」は、ドラえもんファンにはお馴染みのもの。どんな場所でも入れ、何にでも乗れるという究極のサブスクアイテムである。

このパスを提示すれば、車や飛行機は乗り放題。入りたければ首相官邸でも、銀行の金庫室にでも入れるという、テロリストが入手したら一大事件が必ず起こる道具である。


ドラえもんは、このような貴重なパスを持っていたことを忘れてしまっており、期限が今日の午後六時までとわかって、「しまった、惜しいことをした!」と言って飛び上がる。

のび太はそれを聞き、今日の6時まで目一杯使ったらいいのではと考える。今が1時を回ったところだから、あと五時間近く使用可能である。ドラえもんは「途中で切れたら帰れなくなる」と忠告するが、無視してパスを持って出掛けて行ってしまう。

なお、ドラえもんのこの注意は、もちろん、壮大なオチへの前フリである。


のび太は、おっかないオヤジと犬がいる家に入りパスの効果を確かめると、しずちゃんと合流して喫茶店に入ってお冷を頼んだり、パチンコ屋に入って落ちている玉を拾うとしたり、キャバレーに入ろうとしたりする。

小学生が好きにしてもいいと言われた時のリアルな反応である。

結局、無難に子供たちでも入れるところということで、映画館に入場する。するとそのスクリーンに登場したのが、僕らのアイドル・星野スミレなのである。しかも、僕たちが知っていたような、少女スターの面影はない。映画でヒロインを演じている女優になったスミレちゃんだったのだ。

のび太は星野スミレを見て「ファンなんだ」と言っている。漫画に登場するのは初めてだが、ずっとお茶の間では人気者であったようだ。そして、のび太はよからぬことを思いつく。

「いつ見てもきれいだなあ。そうだ、スミレちゃんとこへ行こう」

しかものび太はいつの間にかスミレちゃんの住所を知っていて、ここから車で30分程度の距離にあるらしい。

なぜのび太が星野スミレの個人情報を知っていたかは謎だが、この当時より少し前は、ファンレターの送り先として、芸能人の住所が明かされていることもあったので、そういうデータを見たのかも知れない。


タクシーでスミレ宅に向かうのび太としずちゃん。パスがあるので料金はタダだ。しかし時間は既に4時。あと2時間で効用が切れてしまう。

着いた家は、都心にあって豪華な一軒家の邸宅。表札には「星野スミレ」と掲げられているようだが、「ミレ」の部分以外は見切れている。星野スミレの本名は鈴木伸子説も有力ではあるのだが、このドラえもん世界では星野ミスレは本名であるようだ。

入口で「オールマイティーパス」を使って、中へと案内される二人。究極的な、好きなアイドルに会いに行ける券である。なお、この案内をしてくれた人が何者かは不明。。


スミレちゃんは部屋でゆっくりと雑誌を読んでいる。室内には3体ほどの人形が飾られている。可愛らしい女の子らしい部屋である。

当然スミレは、突然現れたのび太が何者かわからずに、「だあれ!?」と驚くが、のび太はそこにパスを掲げて、「おかけになって」と席に通される。

のび太は、6時前には帰らなくちゃなので、ゆっくりしていられないなどと言っていたのだが、すぐに、

「でもスミレさんと話していると、楽しくて時の経つのを忘れちゃうなあ」

とゆったりモード。しずちゃんもそれに同調して楽しそうな雰囲気である。


と、ここでいきなりのタイムオーバー。本当に時の経つのを忘れた結果、パスの有効期限である6時を回ってしまったのだ。歓迎モードだったスミレちゃんも、「どなた?いつの間に私の部屋に上がり込んだの!」と声を荒らげる。

急いでスミレ邸から出るも、パスは切れているのでタクシーには乗れない。結局、車で30分かかる夜道を歩き始めるのび太たちなのであった・・・。


のび太たちは2時間ほど、星野スミレと楽しく会話をしていたのだが、果たしてどんな内容だったのだろうか・・。気になるところ。


さて、唐突に大人になった星野ミスレが「ドラえもん」に登場し、映画の主演を張れるような人気女優に成長を遂げている姿が確認できた。

そこから再び姿を消すのだが、本作からちょうど一年後、またまたスミレちゃんが登場する。


『出前電話』「小学五年生」1978年5月号/大全集7巻

本作は「出前電話」という無理やり何でもデリバリーさせてしまうという、はた迷惑なひみつ道具を使ったドタバタ劇。

封筒を買ってくるようにママに頼まれたのび太とドラえもん。どっちが行くかで喧嘩となり、ドラえもんが「出前電話」で文房具屋に電話して、封筒を一枚届けてもらう。

これは便利と思ったのび太は、次々と電話で配達を頼んでいくのだが、半ば無理やりに持ってこさせるので、届けた人が一様に不本意な表情をうかべているのが印象的。


調子に乗ってしずちゃんの出前一人前を頼むと、入浴中だったしずちゃんは裸にタオル一枚でのび太の部屋までやってくる。(さすがにすぐ返す)

続けて、ママから封筒の投函を頼まれるのだが、ここでのび太はポストを届けてくれと、無茶な電話を掛ける。すると、ポストの横を通りかかった人が、成り行きでポストを抱えて野比家に届けるハメに・・。

さらにこの後ものび太が無理な配達をさせようとするのだが、それをドラえもんは止めていく。出前電話から気を逸らすべく、テレビでも見てようということで、ドラえもんはのび太を居間に引っ張っていく。


するとここで、テレビでは歌番組が放送されているのだが、なんとここで星野スミレが歌っているのである。ドラえもんでの登場シーンはこれで二度目。映ったのはたった一コマだが、星野スミレちゃんは少女スターの頃から、歌手活動も続けていたことがここで判明する。

のび太は画面を見て「僕大すき」とご満悦。さらにドラえもんも「僕だって」とベロを出しながら応じている。スミレちゃんはみんなのアイドルであり続けているのだ。

のび太はそこで、「スミレの出前」と言って出前電話をしようとするので、ここでもドラえもんがのび太を掴んで制止させる。

「スミレちゃんに、迷惑かけることは許さん!」

止めた理由は、スミレ好きだからということらしい・・。



本稿では大人になった星野スミレが登場を果たしたエピソードを2本紹介した。この2作品によって、スミレちゃんは少女スターだった頃から芸能活動を続けており、今でも映画のヒロインになったり、歌番組で歌っていたりしていることが明らかとなった。

でも、「パーマン」通の方は、大人になった星野スミレを見て、疑問を感じたはずだ。星野スミレが大人になったということは、パー子も大きくなったということだ。今でもパーマン活動をしているのだろうか

そして、他のパーマン仲間はどうなったのだろうか。さらに「パーマン」最終回でスーパー星へと留学していったパーマン1号こと須羽ミツ夫は、その後どうなったのか?


そんな疑問が解消し、そして「パーマン」世界が一気に広がりを見せていくことになる重要エピソードが存在する。次稿と次々稿にて、じっくりと見ていこうではないか。


「ドラえもん」も「パーマン」も。


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