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Qちゃん、スキー場を作ってみた。『ケチスキー場』/スキー好き?嫌い!③

東京に住んでいると、スキー場は案外と遠い場所にあるので、日頃からスキーを嗜んでいる子供は少ないように思う。

その一方で豪雪地帯に住む子供たちからすれば、スキーは学校の授業でもやるし、冬の週末の遊びの代表格とも言えるほどに、お馴染みのスポーツである。

藤子先生は富山県で子供の頃を過ごしていたので、スキーはきっと特別なものではなく、日常の延長に存在していたのではないかと想像される。

実際に、藤子作品に登場する子供たちはスキーとの距離感が近く、上手いか下手かは別にして、皆、冬にはスキーを滑るものという認識を持っているようである。

スキーに関するエピソードは、あらゆる藤子作品に出てくるわけだが、今回は「オバケのQ太郎」からスキーと雪に関するドタバタ劇を見ていきたい。

本作には、何度読んでも笑ってしまうシーンがある。個人的にお気に入りの一本でもある。


『ケチスキー場』(初出:「オバQのスキーそう動のまき」)
「小学四年生」1965年12月号/大全集9巻

オバQは、毎回何かのテーマでひと騒動起こすのが定番で、本作はそれがスキーということになる。その点において、大全集版のタイトル(『ケチスキー場』)より、雑誌掲載版のタイトル(「オバQのスキーそう動のまき」)の方がしっくりくる。


スキーは冬の定番スポーツだが、雪が降らなくては滑れない。テレビの天気予報では当分晴れの日が続くと報じていて、正ちゃんは思わず舌打ちする。そんな正ちゃんにQちゃんは、「お天気が良ければ結構じゃないか」と指摘するが、正ちゃんは買ってもらったスキーを使いたいので、早く雪が降って欲しいのであった。

よっちゃんが予約したスキーバスでスキー場へ向かうという話を聞いて、正ちゃんがママにスキーへ行こうとねだると、「パパが忙しいから来年にしましょう」とかわされてしまう。

当分お預けか・・とため息交じりの正ちゃんを見て、Qちゃんは思う。

「こっちがスキー場へ行けないのなら、スキー場をこっちへもってくればいいんだ」

このシンプルかつ、実行不可能なアイディアがパッと思い浮かぶQちゃんはさすがだが、それを本当に実行してみるところがまた凄いところ。


Qちゃんは、雪の積もっている山地へと飛んでいき、その雪を背中に背負って持ってこようと考える。簡単な作業かと思いきや、雪の重量は重く、さらに下界へと持ってきた途端、溶けてほとんど無くなってしまう。

正ちゃんは「運ぶ端から溶けちゃうよ」と言うが、「決心したことはやり抜く」とQちゃんの意思は固い。正ちゃんはQちゃんの根気に感心しつつ、余計なひと言、

「利口な人間にはできないことだ」

さすがのQちゃんも「それ褒めたの?貶しているの?」と疑問符が浮かぶのであった。


再び雪山へと向かうQちゃん。少しずつ運ぶから溶けるのだと考え、自分の体の何倍もの重量の雪を丸めて運ぶことにする。かなりの重さなので、途中は電車の上に乗せてもらい、東京に近づいたところでトラックに乗り換え、乗り継ぎ、正ちゃんたちの町の空き地まで運んでくる。

これを何往復も繰り返し、Qちゃんはついにミニ雪山を完成させてしまうのであった。利口な人間がやらなそうなことをやり遂げる力が大事なのだと教えてくれる。


空き地では想像以上に雪が積んであって、正ちゃんも感心しきり。Qちゃんは「これだけの雪を運ぶその努力!」と、自分を褒めつつ、正ちゃんからの労いを求める。

「ありがたく滑らせてもらいます」と言って正ちゃんがスキーに乗ると、スロープが短すぎてすぐに雪のないところに着いてしまい、転んでしまう。

そこでQちゃんは雪山を作り変えることにする。スロープの先にはジャンプ台のように雪を積む。そうすることで、滑り出してみると、グルっと一回転して元の滑り出した地点へと戻る仕組みである。

続けて何度も滑ることのできる省エネタイプのゲレンデで、「これはいいや」と正ちゃんも満足気であったが、途中で止められない構造となっており、正ちゃんは滑っては宙返りして、また滑るということを延々と繰り返す羽目となる。

この無限スキー地獄がかなり笑えるところで、この後Qちゃんが雪山で商売を始めることになるのだが、その間正ちゃんの存在は忘れられ、ずっとスキーを滑らされてしまう。ここの場面だけでも、是非とも読んで欲しい作品である。


Qちゃんはとにかく苦心して作った雪山だということで、これでうんと儲けようと考える。そこでゴジラたちを雪山へと誘導し、入場料20円を要求する。一年ぶりの雪ということで、渋々お金を払って入山するゴジラたち。

スキー無限ループでヘトヘトになった正ちゃんから板を借りて、これを一滑り10円で貸し与えようとするのだが、ゴジラたちはただでやれることをしようと言って、雪合戦や雪だるま作りを始める。

ところが雪合戦や雪だるまは、雪をゲレンデの外へ飛ばしてしまったり、地面がむき出しになってしまうので、Qちゃんはこれを止めさせる。「雪が勿体ない、雪を運ぶのにどんなに苦労したか」と言うのである。


仕方がないからと、ゴジラがスキーを借りる。一度滑るごとに10円という値段設定だが、先ほど正ちゃんがハマったループするゲレンデなので、ゴジラは延々と滑り続けることになり、そのたびに10円が加算されていく。

結局43回滑ったところで転び、計430円をQ太郎から請求されてしまう。ぼったくりスキー場だと言うことで、集まってきていた他の子供たちもこれを見て帰って行ってしまう。

お金を取られたゴジラたちは腹の虫がおさまらず、仕返しとしてのら犬を集めて雪山へとと放つ。犬たちが雪の中でおしっこを始めたので、ここで犬対Qちゃんの雪合戦バトルが行われることに・・・。


本作におけるQちゃんは、散々苦労して雪山を作り上げたので、その元を取るべくお金を稼ぎたいという気持ちが先んじている。

入山料10円では高いということで、入場料を1円に引き下げて集客を図ろうとするが、そこで天気予報が外れて雪が降り出してしまう。「タダの雪が降ってきた」と子供たちは大喜び。

Qちゃんは「せっかく運んだ雪と混ざっちゃう」ということで、雪山の雪を丸めて、大原家の家の中へと持ち込む。「雪を部屋の中へしまっておくと」と騒ぎ立て、ママを困らせるのであった・・。


本作の他にも「オバQ」にはスキーに関するエピソードが数多くあるのだが、本稿では一番笑える本作を取り上げた。

以前「オバQ」のスキー作品2本をまとめた記事を作っているので、他の作品がどんなものか知りたい方は、どうぞ下記をご覧ください。そんな人はいないか。。




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