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天使の囁き、悪魔の所業/のび太絶体絶命③

「ドラえもん」の道具はもちろん便利なのだけど、使い方を誤るとトンデモない事態に追い込まれる。

タケコプター一つ取っても、すぐにバッテリーが切れてしまうので、「大長編ドラえもん」では、何度も空から落ちそうな目に遭っている。

そんな一歩間違えれば危ない思いをすることの多いドラえもんの道具の中でも、かなりの致命的な危険を感じさせるものも数多く存在する。

そこで、「のび太絶体絶命」と題して、実際にのび太が使って、生命を脅かされる危機に陥ったお話をまとめてご紹介していきたい。


これまで2本の記事で、4作品を取り上げた。

「マジで包丁で刺される5秒前・・・」では、のび太が危うく包丁で突き刺される直前まで追い込まれたお話、「さらばのび太、僕は君を忘れない。」では、空腹で死にかけたお話を2本ずつピックアップした。

本稿では、一見天使のようであり、実際は悪魔のような「カード」を巡る2作品を取り上げる。二作ともシャレにならない事態にのび太は追い込まれることになる。


『デビルカード』
「テレビくん」1980年5月号/大全集19巻

この話は、読むたびに心が痛む「心痛系」作品となっている。

同じような気持ちになる作品としては、藤子先生のトキワ荘仲間でもあるつのだじろう先生の「恐怖新聞」がある。未来の事実が書かれている新聞を読むと、寿命が100日縮まってしまうという設定のお話で、寿命が短くなると分かっていても、つい新聞を読んでしまう心理描写が、心を締め付けるのである。


本作は、「デビルカード」という、悪魔が石鹸やタオルやティッシュペーパーと一緒に渡してくれたカードを巡る恐怖の物語だ。このカードを振ると300円出てくるのだが、その代償として身長が1ミリ縮む

成長期の子供における身長1ミリは、すぐに取り返せるような気もするが、10振り・3000円で1cm縮んでしまうと考えると、割に合うような代物とは思えない。

けれど目先の300円にのび太は目がくらんでしまうし、調子に乗って人のために使ってしまったり、無断に使われたりしてしまう。何とも業の深い道具なのである。

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最初はたった300円。コミックが欲しいだけであった。

ドラえもんは逃げてしまったので、のび太は押し入れのドラえもんの寝床をゴソゴソすると、「JHS」と書かれた巻物が出てくる。これを広げると、悪魔が姿を現わし、「デビルカード」を新聞勧誘のようにのび太に押し付けるのであった。

ちなみに、今回「JHS」について調べてみると、ラテン語でJesus Hominum Salvator、救いの人イエスという意味であるということがわかった。さらに、「図解悪魔学」という本の中に、悪魔を召喚する魔法円の図解が紹介されていたが、作中の図案と全く同じであった。

F先生が、きちんと悪魔召喚について細かいところまで調べていることを知れて、この記事を書いたかいがある。

なお、この名も無き巻物を「悪魔ット」と呼ぶという話もあるが、原作至上主義の僕としては、悪魔召喚する巻物で良いかと思う。

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のび太は300円=1mmが減っても見た目に全く変化がないことに味をしめて、次に3000円=1cmを振り出す。これを使って漫画をたくさん買って、しずちゃんに羨ましがられると、しずちゃんの分ということで一振り300円を提供する。

この時はたった1mmでしずちゃんの歓心を買えればと思ったはずだが、この様子をジャイアンとスネ夫にも見られてしまい、二人にはスケートボードを買わされてしまう。

安いスケボーならば、この当時でも1500円くらいだったとは思うが、2台で3000円。漫画代と合わせれば4cmほど減ってしまうことになる。

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翌朝、シャツの袖に腕を通すと、明らかに手が短くなっている。しかも朝食のテーブルでは、ママに「何だか小さくなったのでは」と驚かれる。ドラえもんが「並んでみよう」と声を掛けるが、のび太は逃げ出すように登校してしまう。

このあたりで相談できていれば良かったのだが、登校するとジャイアンとスネ夫から、スケボーでガラス戸と10万円の花瓶を壊したので、お前のせいだから弁償しろと無茶な要求をされる。

「平気さ、大人になるまでには、まだまだ伸びるもの」

と自らに言い聞かせるように、お金をジャンジャン振り出していくのび太。限度額を超えてキャッシュカードを使う若者を見るような心の痛みを覚えるシーンである。

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そして、さらには、お金を出している様子をパパに見られ、小遣いが足りなくなったということで勝手にカードを使われてしまう。ママにも月賦屋が来るということで、ドカドカとお金を振り出される。

そこにのび太が帰宅し、大ショックを受ける。ようやくドラえもんに大泣きしながら相談すると、「な・ん・だ・っ・て」とこれ以上ない驚きをもって受け止められる。

悪魔を召喚する道具は、うっかり使ったりしないように押し入れの奥に隠していたのだという。ドラえもんのポケットの方が安全じゃないかとか、そもそもそんな恐ろしい道具を何で持ち歩いているのか、などの疑問は浮かぶが、ここでは不問としておこう。

使った総額は40万程。399,900円だとすると、1333回分で、133cm縮んでしまう。ちょうど9歳(小学三年生)の平均身長位だろうか。まともに縮んでしまえば、のび太は姿かたちを失ってしまうことになるだろう。

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この絶体絶命のピンチをどのように乗り切るのか。

答えは、割と誰でも思いつくようなもの。ビッグライトを使って体をあらかじめ大きくしておいて、縮んだ時にちょうど普通の背丈に戻るように設定しておいたのである。

比較的安易な方法で何とかなったので、作中ののび太も「ビッグライト」があるから何べんも使えると言って、デビルカードをドラえもんに返そうとしないで逃げ回るラストを迎えるのであった。

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『しあわせトランプの恐怖』
「小学六年生」1982年3月号/大全集9巻

デビルカードが悪魔のようなカードだとすると、こちらのカードは天使のようなトランプである。正式名称は「しあわせトランプ」と言って、持ち主の望みを何でも自動的に叶えてくれる夢のような道具である。

しかし、天使と悪魔が背中合わせのように、願いが叶うと、カードが一枚ずつ減っていき、52枚を使い切ってジョーカーが残ると、それまでの埋め合わせのように不幸が束になって襲い掛かるという。


いつものように、非常に危険なひみつ道具を、ドラえもんはのび太の部屋に置きっ放しにして、学校から帰ってきたばかりののび太が悪気もなく手に取ってしまうことで、全てが始まってしまう。

他の人がトランプを欲しがってくれれば、譲ることが可能。誰も欲しがる人などいないかと思いきや、スネ夫が僕にくれよと言い出したので、呆気なく手放すことができるのび太。

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スネ夫はカードを持って、

「パリへ行きたいな。マロニエの並木をそぞろ歩きながら詩を作るんだ」

とロナンチックな願いごとをすると、パパがパリの出張となって、連れて行って貰えることになる。

小賢いスネ夫は、カードに数が残っているうちなら、欲しがる人はいるはずだと考えていた。この狙いが当たり、この後カードはジャイアンに渡り、友人たちの間に流通していく。

ちなみにジャイアンはお金が欲しいと願い、一等当選の宝くじを拾う。安雄やはる夫もラジカセや自転車をゲットする。(他にもケンちゃんはギター、ハル夫は電子ゲーム30種)。

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この話を聞いたのび太は、慌てて人にやるべきではなかったと思い、遅ればせながらトランプを探し求める。情報を追っていく中で、「オバQ」のキザオとゴジラが登場し、名前だけだがよっちゃんも出てくる。少しだけファンサービスな展開である。

トランプの行く末を追っていった結果、のび太はトランプを入手するのだが、何とラスト二枚の状態となっていた。ババ抜きでいうところの、完全にババ。そういえば、作品冒頭でしずちゃんとババ抜きをしているのだが、これはラストののび太を暗示するものだったのかもしれない。

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あと一回何かを望むと、ジョーカーが残って不幸の束が襲い掛かってくることになる。火の中にカードを投げ捨てても、手元に戻り、ゴミ捨て場にあったケースに入れて逃げても、ケースごと飛んできてしまう。

しかも、ここでうっかり家に帰りたいと考えてしまい、それが叶ってしまう。一枚だけとなったジョーカーが、ニヤリと不気味に微笑む

のび太、またしても絶体絶命のピンチ!(都合6回目)


思わずドラえも~んと叫んで走り出すのび太であったが、見知らぬ男が体をぶつけてきて、カードが入っていたケースをひったくて行ってしまう。運悪い中でも運良くカードを手放すことができたのび太は、ここでもなんとか命拾い。

なお、カードをひったくった男は、引ったくりの常習犯で、この後犬に嚙まれて、どぶに落ち、車にはねられて、落ちたところが交番でそのまま捕まったのだという。不幸が束になったのだろうが、思っていたよりは軽めの不幸で済んでいるようである。

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さて、全3回に渡って、のび太が絶体絶命のピンチに陥ったエピソードを6作品紹介してきた。結論的に言えば、ピンチの原因の6割はのび太だろうが、ドラえもんの責任も4割はある。

危ない道具は、是非未来の世界に取りおいてもらうか、ポケットの中で厳重管理をしてもらいたいものである。


「ドラえもん」の考察を既に140作以上やっています。

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