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テレビ局で引っ張りだこ?「Qちゃんのテレビスター」/キミをスターに④

かつて、60年前とか70年前までは、スターと言えば圧倒的に「映画スター」であった。すなわち、スターの顔をを拝むためには、映画館まで足を運ぶ必要があったのだ。

時代が変わりテレビが家庭に普及すると、スターは「テレビスター」を指すようになり、お茶の間にいてもブラウン管の向こうにスターを見ることができるようになる。

ビデオの登場で、映画も家庭で見ることができるようになり、BS、CSとテレビのチャンネルも増えていって、スターが少しずつ身近なものとなっていく。

それでも、テレビ画面のこっち側と向こう側では、れっきとした隔たりが存在していた。その隔たりは、向こう側のスターへの憧れを強めたし、自分もテレビの中に出てみたいと思う人々も大勢いた。


ところが、インターネットが現われ、ネットの回線が太くなり、携帯電話でも映像を見ることが可能となった。そして映像を気軽に、市井の人々が発信できるような時代となった。

そうなると、スターと自分たちを区別する隔たりは薄くなり、やがて解消されてしまう。ある日突然、それまで何でもなかった人が、テレビ画面やスクリーンを経由せずに、「スター」となることが可能となったのである。

藤子先生は、今の時代に生きていらっしゃったら、どのようなアイディアで作品を生み出したのだろう? 僕は凡人なのでさっぱり思い浮かばないが、きっと今の誰でもスターになれる社会を反映した、子供たちの喜ぶような傑作を書いたに違いない。


さて、藤子先生がバリバリ活躍されていた時代は、テレビ全盛期とモロに重なる。先生は子供の頃から映画が大好きで、作劇的には映画から大きな影響を受けているわけだが、プロの漫画化となって子供向けの作品を量産するにあたり、テレビの影響を受けた作品を数多く残している。

その中で、テレビに出てスターになりたいという願望を持つ複数の藤子キャラが登場してくるのは、至極当然の流れと言える。

そこで、「キミをスターに」というシリーズ名をつけて、スターを目指す藤子キャラのエピソードを取り上げてきた。(記事は下記)

これまでパーマンの三重晴三、佐倉魔美(エスパー魔美)、そして郷田武(ジャイアン)と見てきたが、今回はついにオバケのQ太郎の出番となる!


「オバケのQ太郎」『Qちゃんのテレビスター』
「週刊少年サンデー」1964年45号/大全集1巻

本作が描かれた1964年は、何と言っても「東京オリンピック」が開催された記念すべき年である。オリンピックを契機に日本の社会は色々と動き出したわけだが、その一つに、テレビの世帯普及率の爆発的上昇というものがある。

1960年頃には、テレビの普及率は50%を割っていた(内閣府調べ)。ところが「3種の神器」の一つに呼ばれるようになり、オリンピックを境に普及率は90%まで押し上げられたのである。

こうなると、テレビは娯楽の中心となり、テレビに出ている人は、人々の憧れとなる。テレビスターの確立である。


さて、そういうテレビへの憧れやスターへの羨望があった時代において、大原家に思いもよらぬ手紙が届く。

大原正太が雨の中帰ってくると、玄関に泥で汚れてしまった封筒が落ちているのに気がつく。手に取ると、宛名が「大原 太 様」=「大原正太様」と読める。

正ちゃんがさっそく封を開けると、あなたの噂を聞き、テレビドラマ「少年宇宙パトロール」に出演いただけないか、と書かれている。なぜかTV局から直々に出演オファーが届いたのである。


一読して「夢じゃなかろうか」と飛び上がって喜ぶ正太。だが、家族は一様に「信じられない!!」という反応。正ちゃんは居てもたってもいられなくなり、みんなに知らせてこようと言って、雨の中飛び出して行く。

はしゃぎすぎて、工事現場の水の中に落ちてしまうが、めげずによっちゃんの家に行き、「テレビに出るんだよ」と自慢する。そしてポケットに入れていた手紙を出すと、自分かと思っていた宛先が、「大原Q太郎様」となっている。泥で汚れて、Qと郎の字が見えなくなっていたのを誤読していたのだ。


・・・ということで、翌日Qちゃんがメインでテレビ局へと向かう。正ちゃんも帯同し、Qちゃんから自分も出演できるよう局員に頼んで欲しいと告げる。彼もまたテレビに出ることを諦めきれないのである。

ABC(朝日放送?)と書かれた局に入り、控室に通される。どんな役か想像していくうちに、衣装はQちゃんのオバケスタイルでいいのかという疑問が湧いてくる。

そこでQちゃんの服に縞模様を書き、横縞を引き、交わった部分に黒丸を付ける。Qちゃんが対抗して白丸をつけると、そこから五目並べに発展してしまう。


ADがやってきて、メーキャップルームに連れていかれる。Qちゃんはそこで怪獣のメイク(着ぐるみ?)をさせられ、大怪獣バケラとなる。Qちゃんがわざわざ手紙でオファーを受けた役は、宇宙から攻めてきたオバケという色物だったのである。

正ちゃんもどさくさに紛れて役柄をゲット。ただし、出てきてすぐに悲鳴を上げて、そのままハケるだけというピンポイントの出演であった。

リハーサルが始まるが、バケラ(Qちゃん)は、大欠伸をして主人公の少年を吸い込んだり、バトルの末に主人公を倒してしまったり、やられたはずなのに、みんなと一緒にバンザイをしたりする。

要は悪役を演じるということが全く理解できておらず、リハーサルの段階でクビを言い渡され、Qちゃんも「こっちからお断りだい!」と怒り出して話は決裂。あっと言う間にテレビスターへの道が絶たれてしまうのであった。


ところが、局内の別の番組収録で、全身Qちゃんのような白装束の男たちが出演する「三匹の怪人」という謎の番組があり、一人の男の代打でQちゃんが急きょ出演することになる。

しかしここでもQちゃんはマイペースに演じてしまい、現場に混乱を引き起こす。

・女の子をさらう役だが、「こう見えても曲がったことが嫌いだと」拒否
・「あなたは誰?」と聞かれて「オバケのQ太郎」だと自己紹介
・仲間の怪人から「パトカーが来たぞ」と言われて、「見に行こう」と役を忘れて野次馬化する。

さらに少年探偵団の小森少年に殴られてしまうQちゃん。小森少年は、Qちゃんの服を剥いで変装してギャングの本部に乗り込もうとするのだが、Q太郎にとって、衣服はとても重要なもの。拒否した挙句、消えてしまうのであった。


これで二つの番組の出演がパーとなるQちゃん。ところがさらに局内を歩いていると、「良い顔だ、是非コマーシャルに出てください」と、いきなりCM出演を依頼される。なんやかんや、Qちゃんはテレビ局での需要はあるようだ。

スタジオに通され、椅子に座らせるQちゃん。正ちゃんはその後ろでほうきを持つという謎の役割。そのまま何もしないように指示を受ける。しばらくして、Qちゃんの頭上に数滴の水が落ちてきて、そのタイミングで正ちゃんがほうきを持ち上げる。

さっぱり意味のわからないやり取りであったが、これで「いいコマーシャルができた」とのこと。さっそく今夜放送されるのだと聞く。


帰り道、よっちゃんに「今夜僕らテレビに出るよ」とアピール。帰宅後、テレビを前にして、家族が大集合する。二人が出演したCMとは何だったのだろうか。

ブラウン管に映し出されたのは、Qちゃんの頭の部分、毛が三本見えているだけ。そこに「は~げた頭に毛が三本」と歌が流れ、「こんな方はいませんか? でも心配はいりません。ほんの二、三滴たらせば・・・」とナレーションがつく。

そして「たちまちこのとおり」と、3本だけだった頭に大量の毛が生える。これは、Qちゃんに水滴が落ちた後、正ちゃんが持ちあげたほうきが、あたかも増えた髪の毛のように描写されていたのである。

Qちゃんたちが出演したのは「ケハエール」という育毛剤のコマーシャルであったのだ。家族のみんなも「あれだけ?」と拍子抜け。「テレビなんか嫌いだ!!」と、すっかり恥をかいたQちゃん正ちゃんなのであった。


テレビスターになりたくてなれない藤子キャラが大多数ではあるが、一応Qちゃんには局からのオファーがあり、局内では他の番組やCM出演依頼が、飛び込んでくる。

強烈なキャラクターなので、テレビの需要はけっこうあるようである。そして、実際にオバQはこの半年後、テレビアニメ化され、全国区の大人気オバケ番組となる。

テレビとQちゃんの相性は、実は抜群であったということだ。




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