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ヒーローは逆恨みされる『電話魔の犯人をさがせ』/対決・電話魔②

携帯電話の登場以前・以後で、作られる物語が変化したことを前回の記事で書いた。

携帯のない世界では、固定電話を使わなければ、その人と連絡を取るのは困難であった。今の日常生活においては不便極まりないが、物語の世界では、この不便さが思わぬストーリーを生み出すきっかけとなった。

ベタな例でいくと、好きな子に連絡を取りたいが家に電話をすると家族が出てしまうかもしれない。もし出たらどうしよう・・などと考えるだけで、ドラマが生まれてくる。

他にも、間違いを装って電話を掛けて、その人が家にいることを確かめて、強盗に及ぶ、などという犯罪ストーリーも考えられる。

今の二つの例は、固定電話が携帯電話に置き換わった現代では、物語が生まれない。好きな子への連絡は直接本人の携帯電話にすれば解決するし、家にいるかどうかを携帯に電話するだけでは知ることができない。携帯電話に代わる別の枷を与えないと、ドラマが展開できなくなっているのだ。

携帯電話に関わらず、身の回りの道具が便利になるに連れて、物語は変化を迫られているのである。


電話と言えば、藤子F作品では、なぜか「電話魔」の物語が複数生み出されている。F先生に被害経験があったのかは不明だが、確認できているだけ3本の電話魔の物語を描いている。

そこで、「対決・電話魔」と題して、その3本を見ていこうという企画となる。その第二弾として「パーマン」(新)の一作を取り上げる。

前回の記事では、「ドラえもん」の天才キャラ・出木杉君が、万年クラス二位の男の子から夜中に何度も電話をされて弱ってしまうエピソード『真夜中の電話魔』を紹介した。

この話からわずか一年半後、再びF作品に電話魔が登場する。


「パーマン」『電話魔の犯人をさがせ』
「小学三年生、四年生」1984年11月/大全集8巻

何度か書いているが、「パーマン」は1960年代に連載された「旧」作品と、1980年代に復活連載した「新」作品に分類される。新旧では設定が変わっていたりお話の構造も変化が見られるのだが、そのあたりはいずれじっくりと考察したい。

本作は「新パーマン」の作品の一つである。


ひったくり犯が走って逃げる途中、チリ紙交換車を盗んで逃亡を図る。パーマンが見つけて、車ごと捕まえるが、犯人は気付かれないように脱出してしまう。犯人は逮捕できなかったが、ひったくられたバッグと盗まれた車は戻ってきたので、被害者に大いに喜ばれる。

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何とか逃げ出した犯人は、パーマンに対して逆恨みの気持ちを抱く。

その日から、須羽家に嫌がらせの電話が鳴り出す。何度も掛けてきては「パーマンを出せ」と言い、電話口でパーマンを名乗れば「バーカ」と罵声を浴びせて電話を切ってしまう。

パーマンの家として須羽家はすっかり有名となっているようで、イタズラ電話の標的にされたみつ夫の家族は溜まったものではない。特にママはみつ夫に対して、「パーマンなんかと友達になるからです!!」とブチ切れる。日頃からママはパーマンにはそれほど好意的でないのだ。

電話番をみつ夫が引き受けるのだが、夜中も引っ切り無しに掛かってくるので、家族はノイローゼ気味となるし、みつ夫も寝られはしない。よって、翌日の学校では授業中に爆睡して、廊下に立たされてしまう。

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パーマンは、他のパーマン仲間に相談する。犯人が誰かも、居場所もわからないので、早くもお手上げ状態である。この話を聞いたパーやんは、しばらく電話番を任せてほしいと名乗りでる。こういう時は、パーマン仲間随一の作戦家、4号に頼るに限る。

須羽家に荷物を持ったパーやんがやってくる。1号の代わりに電話番をするということで、食料やら水やらを廊下に広げて、長期戦の構えである。

そこにさっそく犯人からの電話が掛かってくる。いつものパーやんの癖で、「毎度おおきにパーやん運送ですねん」と出たことから、犯人と会話が始まり、パーやんは身の上話を一方的に喋りだす。

パーマンが町内のパトロールを終えて家に帰ってくる。「何度電話が掛かってきたか」とコピーに尋ねると、まだ最初の電話が延々と続いているらしい。電話口の前でどっかと腰を据えたパーやんは、相手の発言を遮るように、しゃべくり倒していたのである。

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やがて犯人は「もう十円玉が・・」と言葉を残して、電話が切れてしまう。パーやんは、やはり公衆電話からか、とあたりをつける。そして、しばらく電話は掛かってこないと踏んで、今の会話をテープに録音していたので、これを聞いて手がかりを探そうということになる。

まず、バックの車の音から、かなりの交通量が多いところだと分かる。さらに電車の音の聞こえ、ガード下の感じではないかと想像する。ここまでだと、手がかりは無いも同然・・。すると、探し物の名人・ブービーがある音に気づく。

テープを巻き戻し、音量を上げてもう一回流すと、チリ紙交換のアナウンスが聞こえてくる。昨日引ったくり犯が奪った車のおじさんの声である。これは重要な手がかりである。

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街に飛んで出て、チリ紙交換車を見つけるパーマンたち。今から25分前に走っていた道を教えてもらい、その場へと急行する。車の交通量の多いガード下の公衆電話で、ちょうど、さっきの長電話から回復した犯人が、須羽家へと電話を掛けている。まもなく、お縄となることだろう・・


本件は典型的な逆恨み案件である。自分の仕事(=泥棒)をパーマンに邪魔されて、その恨みを解消すべく嫌がらせの電話をしている。電話代も労力もかかる。全く非生産的な行動だが、人を恨むと費用対効果とかあんまり関係なくなっちゃうんだなあ、と思うのであった。

さて、次回はどんな電話魔が登場するか? 電話魔ものの傑作をご紹介したい。


パーマンの考察たくさんやっています。ご興味あれば是非下記リンク集から。


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