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人類誕生の物語?『白亜荘二泊三日』/藤子Fの大恐竜博⑦

真夏の「藤子Fの大恐竜博」シリーズ第7弾。本稿では、恐竜時代をテーマとした読切短編を見ていく。

前回「T・Pぼん」の『バカンスは恐竜に乗って』を紹介したが、内容は特に込み合ったストーリーはなく、F先生の「恐竜時代を描きたい」という欲望の元に描かれた作品であった。

この中で、哺乳類の先祖といわれるシノグナータス(キノグナトゥス)を描いているのだが、今回見ていく話は「哺乳類の先祖」のテーマにフォーカスを当てている。


『白亜荘二泊三日』
「漫画アクション増刊S・F7」1981年7月6日号

最初に結論を書いてしまうと、本作は「T・Pぼん」『バカンスは恐竜に乗って』とほぼ同様の構成で描かれたお話である。

①恐竜時代でのバカンスという設定
②恐竜を描くことが最大のミッション
③人類(哺乳類)の起源に関するジョーク

と、この3点において共通している。

言ってみれば、本作は『バカンスは恐竜に乗って』のリメイクなのだが、描く時代が異なっているのがポイントではある。どうせリメイクするなら時代を変えたいというF先生の心の声が聞こえてくる。

前作が三畳紀とジュラ紀の間だったので、今回は時代が進んで白亜紀となる。(以下に簡単な年表)

古生代(5.7~2.5億年前) 恐竜前
中生代(2.5億~6500年前) 恐竜時代
 ・三畳紀(約2億5000万年前~約2億年前)
 ・ジュラ紀(約2億年前~約1億4500万年前)
 ・白亜紀(約1億4,500万年前~6,600万年前)
新生代(6500年前~現代) 恐竜後
*区分年は諸説あり

本作の登場人物はある平凡な4人家族。一家の名前は作中で出てこないので、父親・母親・娘・息子とする。

時代は近未来。街並みや家族の服装が何となくそれっぽい。夏のバカンスをどうするかが家族の懸案で、ご近所さんや友だちは南極・月旅行・太陽系巡りと景気が良いようだ。

家族がうちはどこへ行くのか騒いでいると、父親がおもむろに「白亜荘-御利用の手引-」という冊子を取り出す。千二百倍の倍率を勝ち取って、タイムトラベルの権利を引き当てたのである。

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旅行先は7174万2095年前(白亜紀)の7月8日、北米ユタ州航時法(F先生お馴染みの法律)が定められており、旅行先での動植物の殺傷・採取は固く禁じられている。古代の生物相を狂わせると、後世に大きな影響を及ぼしてしまうからである。

白亜紀のロッジに二泊三日、家族だけで過ごせるという贅沢な旅である。基本、この物語は家族が白亜紀の生物・恐竜たちを見て大喜びするだけのお話となっている。

この旅の特色としては、「マジック・ミラー効果」という防御システムで人間が守られている点にある。どういう仕掛けかは不明だが、この時代では恐竜から見て人間が見えない。言わば透明人間となっており、これによって恐竜たちに気付かれずに近づくことができる。

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スコロサウルス、オーム貝、アンモナイト、クリダステス、…。初日から白亜紀を堪能する一家。

この時代の北米は亜熱帯気候で暑い。四季の変化は白亜紀後期にでき始めたというウンチクが挿入される。

二日目はジープに乗って少し遠出。トリケラトプスを前に記念写真を撮ろうとするのだが子供たちが少々尻込みしている。そこで父親が手本として恐竜に触り、「せっかく白亜紀に来たんだから大自然の懐に飛び込んでみよう」とけしかける。

父親の後押しを受けて、子供たちはここから大騒ぎ。慣れるに従って、色々と無茶をやりだす。トリケラトプスの鼻をくすぐったり、プテラノドンでハングライダーごっこをしたり、小型の恐竜に馬のように跨って走って見たりとやりたい放題。

目に余る行為で、父親は激怒。

「勝手な行動で人間・恐竜、どっちに怪我があっても取り返しがつかんのだ」

と、今後生物に一切触るなと厳命する。

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コリトサウルスなどを見つつ、子供たちは「この頃哺乳類はいたのか」と質問してくる。父親が答えるが、これが本作の重要なポイントとなるので、一部抜粋しておく。

「ごく原始的なやつならジュラ紀にはいた。何千万年もの間、ひっそりと生き延びてきた。それが白亜紀後期、つまり今僕らがいる時代になって急激に枝分かれし、進化の道を辿り始めたんだ」
「原因は誰にもわからない。何か突然変異を促す出来事があったのかもしれん。例えばある個体が強い放射能でも浴びたとか…」

伏線というか、もはやオチを語っているような説明セリフとなっている。


ところでマジック・ミラー効果があると言いつつ、父親はライフル型の熱戦銃を所持している。なぜ持っているのか問われると、「万一ということもある」と歯切れ悪い。

家族の前に、ティラノサウルスが現れる。「恐竜の王者、白亜紀のビックスター」と紹介される。すると、ティラノサウルスが、なぜかこちらを見ているようだ。と、家族たちの存在に気付いたティラノサウルスが、真っすぐ襲い掛かってくる。どうしたマジック・ミラー!?

父親は「そうか、あれが解禁獣だな!」と何かに気付き、熱戦銃でティラノサウルスを撃ち込みあっさりと倒してしまう。「解禁獣」とは事前申請しておけば一頭に限りミラー効果を外してくれて、恐竜狩りができるという追加特典なのであった。

かなり高価な別会計が発生するということで、夫婦喧嘩が始まってしまう。子供たちはパパばかりズルいと不満を覚え、それなら自分たちも何かを捕まえてこっそり持って帰ろうと計画する。そして何かを捕まえる・・。

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その日の晩。夫婦喧嘩は続いている。

寝室で姉が弟に「さっき捕まえたあれをどこに隠した?」と聞くと、「台所の四角い箱の中に入れた」と答える。それは調理用の「原子レンジ」「放射能浴びたらどうすんの!!」と姉は強く懸念を示す。

すると、キャーと母親の悲鳴。原子レンジからネズミが飛び出したのだという。妻に抱きつかれた夫は、それはたぶんトリコノドンだと宥める。

トリコノドンは恐竜が繁栄していた時の原子哺乳類。この進化の先に人類があると言えるわけだが・・・。

父親は解説する。

「あんなのが進化していって、その頂点に人類が誕生したわけだ。君はひょっとして我々のご先祖様に会ったのかもしれないよ。アハハハ」

笑い事ではないと思うが、この家族がいなければ人類が誕生しなかったのかもしれない。と、そういう予想通りのオチであった。

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読切短編たくさん考察中です。


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