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さらばのび太、僕は君を忘れない。/のび太絶体絶命②

ドラえもんを読んでいると、どう考えても利用価値のないひみつ道具がチョイチョイ出てくる。そればかりか、それを使ってしまうと、人命を損なう可能性のある道具すらある。

もちろん、用途が無いわけではないのだが、それでもドラえもんが敢えて持っている必要のない道具であったりする。

そこで、「のび太絶体絶命」と題して、のび太が使ってしまったせいで、命の危険すら脅かされてしまうようなエピソードをまとめて紹介していく。前回の記事はこちら。

前回の記事では、のび太が包丁で刺されてしまいそうになった間一髪エピソードを2作品取り上げた。本稿では、また別の展開で、のび太が絶体絶命のピンチに陥ることになる。


『家がだんだん遠くなる』(初出:すて犬だんご)
「小学三年生」1977年4月号/大全集8巻

のび太がロクな目に遭わないお話は、たいていの場合、便利なひみつ道具を調子に乗って別の使い方をして、酷い目に遭うという「自業自得」パターンがほとんどである。

ところが、ドラえもんが出しっ放しの道具をのび太が勝手に使ってしまい、とんでもない目に遭うというお話もいくつか存在する。勝手に使うのび太も悪いが、危険な道具を目立つ場所に置いておくドラえもんにも大いに問題がある。


本作ではドラえもんが捨てるつもりだったという「捨て犬ダンゴ」を、のび太が食べてしまうことが災難の始まり。

本来の用途は、犬や猫を捨てると家に戻ってきてしまうので、これを食べさせることで二度と帰れないようにするというもの。ペット虐待とも言える倫理的に如何なものかと思わせる道具ではある・・。

これを部屋に出しっ放しにしてあったので、のび太は美味しそうだと一つ口に入れてしまう。ドラえもんが気がついて、ダメだと止めに入るのだが、ちょうど飲み込んでしまったという。手遅れである。

ちなみに「飲み込んだ」という部分は、実は重要な後の伏線になるセリフである。この時、嚙み砕いていたら、のび太は二度と野比家に戻ってこれなくなるところであった。

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ドラえもんはのび太に、絶対に家から出ないよう厳命する。出たら最後、二度と帰れなくなるという。ビビるのび太は、火事になっても出るものかと決意を固める。

こんな時に限って、ママがお買い物を頼んでくるが、

「こんな時にお使いに行けなんて、あんたそれでも親か!」

と強く抗議して、ママを引き下がらせる。その後もジャイアンたちの野球の誘いも強く断る。

しかし、新しく買ったばかりのボールで遊んでいると、そのボールを窓から外へ落としてしまい、それを拾おうと門の所まで進むのだが、突然現れた犬に吠えられて、思わず外へと逃げ出してしまう。

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この後、「捨て犬ダンゴ」の効果により、のび太はなんやかんやで家に帰れなくなるわけだが、ここで長年の疑問に触れておきたい。

それは、のび太がボールを窓の外に落としてしまったことや、犬に吠えられて逃げ出す羽目になったことは、はたして偶然だったのだろうか、ということだ。

ドラえもんはのび太に家から出るなと命じていたが、既に食べてしまっていた「捨て犬ダンゴ」の効果で、偶のび太は外に出されてしまったのではないだろうか。

「捨て犬ダンゴ」は、基本的に偶然の積み重ねによって家に戻れなくなるようにしているので、偶然に見せかけて外出させたと考えるのが妥当であろう。つまり「捨て犬ダンゴ」は、偶然を操る恐ろしいひみつ道具なのである。

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偶然が重なり続けて、のび太は一向に家に帰れない。空いていたマンホールに落ちたせいで家の住所も忘れてしまうという恐ろしい状況となる。慌ててのび太を探しにいくドラえもんだが、すれ違って会うことができない。

夕暮れとなり、ドラえもんは諦めの気持ちになる。ここでのセリフが凄い。

「やっぱり探しても無駄か。あのダンゴを食べて家に帰れた犬はいないからな。もう二度とのび太には会えないんだなあ」
「さらばのび太。君との楽しかった思い出を僕は忘れない。いつまでも、いつまでも・・・」

映画版のコピーにもなりそうな、カッコいい別れのセリフである。

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夜中になってしまい、のび太は空腹でもう歩けない。するとノラ犬が残飯を食べていて、「美味そうだ」とのび太が声を掛けると、犬がそれを分けてくれる。同じ野良仲間と察知して、譲ってくれたのだろうか。

ところがやはり残飯なので、口に含んだものの、のび太はそれを吐き出してしまう。すると、冒頭で「飲み込んで」いた野良犬ダンゴも一緒に吐き出したらしく、急転直下、家に帰れることになる。

ダンゴを噛んでいたら消化して吐き出せなかったかもしれない。ギリギリのところで、のび太は帰宅することができたのであった。


『腹ぺこのつらさ知ってるかい』
「小学五年生」1977年11月号/大全集6巻

さて、野良のび太となって空腹の辛さが身に染みたはずだったが、この7ヶ月後には食べ物のありがたみを知らない子供に逆戻り

ご飯を残してボクシング中継に夢中となるのび太。パパが自分の戦時中の空腹の辛さを語るが、「でも今は食べ物があるからいいじゃないの」と話が噛み合わない。

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パパは「腹ペコの恐ろしさを知らない者には何を言っても無駄だ」と諦めて行ってしまう。ドラえもんは、一度空腹の辛さを知るべきだということで、「ヤセール」という薬を出す。

これを一粒飲むと一食ご飯が食べられなくなるという、強制的に絶食させるダイエット薬である。現在の薬事法では許可されそうもない、危ない薬とお見受けする。

案の定、よく話を聞いていなかったのび太は、ボクシングが終わったあと、7粒以上のヤセールをバラバラと口に入れて、「うまい」と言って飲んでしまう。ヤセールは危険な薬なのに美味しいとは恐ろしい・・。

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さて、ここからは「捨て犬ダンゴ」と同様に、偶然に操られるように、のび太はご飯にありつけない。

・寝坊して朝食を取れない
・トイレに閉じ込められて給食を食べられない
・ママが外出し、最後の一つのラーメンはドラえもんが食べてしまう
・商店街は一斉休業
・ジャイアンに将棋を誘われて、遅くまで帰れず晩ご飯食べられず

のび太が10粒近くも「ヤセール」を飲んでいたことを知ったドラえもんは、このままでは3日間は何も食べられないということで、タイムマシンで4日後に向かい、自分たちの昼ご飯のラーメンを食べることに。

突然昼ご飯が無くなったので、4日後のママは、4日後ののび太につまみ食いをするんじゃないと叱りつけるのだった。


タイムマシンが無ければ、のび太はかなり危険な状況に追い込まれていただろう。2~3粒で十分なのに、見た目100粒くらいが詰まっている瓶を置きっ放しにするドラえもん・・。

「捨て犬ダンゴ」のような危険な代物も出しっ放しにしていたし、ドラえもんの危ない道具を扱う姿勢には疑いの目を向けざるを得ない。監督不行き届きを感じるのは僕だけだろうか。


「ドラえもん」の考察、たくさんやっています。


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