「のび太の恐竜」公開記念?『アニメ制作なんてわけないよ』/アニメ作っちゃえ②
藤子作品とアニメーションは、切っても切り離せない関係にある。スタジオ・ゼロメンバーの合作である「オバケのQ太郎」を皮切りに、A先生との合作だった「パーマン」や、F先生単独の「ウメ星デンカ」、二度目の「オバQ」などと、アニメ化が続いていく。
さらには、アニメ化前提の企画だった「ジャングル黒べえ」や、かの失敗作と言われる日本テレビ版の「ドラえもん」や、安孫子先生単独の「怪物くん」なども70年代までにアニメ化された。
だが、本格的な藤子不二雄作品のアニメ時代到来は、テレビ朝日版の「ドラえもん」(79年4月~)の大ヒットを受けてからだったように思う。
1980年代に入ると「忍者ハットリくん」「怪物くん」「パーマン」「プロゴルファー猿」(藤子不二雄ワイド)などと、毎日藤子作品のアニメを見ることができるようになる。
当時藤本先生と安孫子先生の違いを知らなかった僕は、全てを「藤子不二雄アニメ」として浴びるように堪能したわけだが、それはそれは幸せな少年時代であった。
そんな藤子アニメ全盛期の直前、「ドラえもん」にてアニメーション制作をテーマとしたお話が描かれる。これは映画ドラえもんの第一作目である「のび太の恐竜」が公開されたことも、おそらく大きく影響している。
お話としては、スタジオ・ゼロを経験しているF先生ならではの、アニメ制作の裏側の苦労が分かり易く描かれている。そもそもアニメとは何かという解説もあり、子供たち読者にとって最適なアニメ入門編と言えるお話ではないだろうか。
なぜ、のび太はアニメーションを作ろうなどと考えたのか。これは原作を読まずとも察しがつく人もいるだろうが、そう、スネ夫の自慢が発端である。
今回のスネ夫は、いつものメンバーに物置を改造したアニメーション映画のスタジオを披露する。スネ夫の夢は壮大で、アニメを作ってテレビや劇場に売り込む計画らしい。
しかしアニメ制作は労力、特に人的リソースが必要となる。スネ夫曰く「資金はたっぷりあるが人手が足りない」というわけで、ジャイアンやしずちゃんにも手伝って欲しいというのである。
のび太も名乗り出るが、絵が下手くそということで拒否されてしまう。「そんなら始めから呼ぶなってんだ!!」と憤るのび太だが、これごもっともである。
スネ夫も、こういう風にのび太をバカにするので、いつもこの後ドラえもんが出てきて、逆襲を食らって本人が痛手を食うことになる。彼もいい加減学習してもらいたいものである。
のび太はドラえもんにひと言、「アニメスタジオを出して!!」と無理な注文をする。ドラえもんは、のび太に「そもそもアニメがどうやって動くか知っているのか」と尋ねる。
のび太は「知らないけど多分」と言って、下手くそなドラえもんの絵を描いて、「これをカメラの前で動かすんだろ」と言いながら、絵を手で動かしてみせる。「まるでわかってない」とドラえもん。
ここから、ドラえもんによる、アニメーションプチ講座が始まる。プラモデルだったりジオラマだったり、「ドラえもん」ではこの手の「制作の裏側」がこだわりを持って描かれることが多い。一つの定番パターンであると言えよう。
ドラえもんは「こまどりカメラ映写機」という道具を取り出して、まずはストップモーションピクチャーについて説明する。アニメの基本はコマ撮りというわけである。
こうして少しづつ違った絵を何枚も何枚も書くのだと、のび太に説明し、同時に読者にもアニメの原理原則がしっかりわかるようになっている。
そこでのび太は、読者の疑問でもある「そんなめんどくさいものなの?」という質問を口にする。アニメ作りがあまりに途方もない作業のように思えるからである。
ドラえもんは「スネ夫スタジオ」の様子をモニターすると、パラパラ漫画風に何枚も絵を描いていることが嘘ではないとわかる。のび太はようやくここで「何枚でも書くぞ」と本腰を入れるのであった。
ドラえもんは続けて「発光マット」を出す。絵を一枚描き、その上に新しい紙を置くと下の絵が透けてみえるという仕掛けとなっている。アニメーター垂涎の道具である。
のび太は下手くそなドラえもんを何枚か書いてみるが、この調子で何枚くらい描くのか気にかかる。10分ほどのアニメなら2000枚は欲しいと言われて、計算をしてみると・・・、一枚に30分かかるとして1000時間。一日十時間書き続けて100日という途方もない事実が判明し、のび太は倒れ込んでしまう。
単純計算ではあるが、子供ながらに本作を読んで、アニメ制作は途方もない作業なんだなと思ったものである。アニメ制作はセルからCGに変わっているかもしれないが、今でも基本的にアニメーターが何枚も絵を描くことには変わりない。
アニメ制作には、気の遠くなるような作業量が求められていることを、本作で改めてアニメファンは知るべきであろう。
さて、現実のアニメ制作がいかに大変かを実感させたところで、今度は未来のテクノロジーを使った、楽々アニメ制作現場を紹介していく。
ドラえもんは「アニメーカー」という、万能アニメ製造機とも呼べる機械を出す。それはまるで、AIを使ってアニメーションを一本取ってしまうような便利さなのである・・。
まずはキャラクターとシナリオ作りから。ドラえもんは「僕をマンカの主人公に使うのは止めてくれ」とクレーム。確かに漫画「ドラえもん」の中で漫画のドラえもんが出てくるのは大変ややこしい。
そこで「アニメーカー」の「キャラクター」のボタンを押すと、まずはシナリオを入れてくれと要求される。藤子流では、お話があってのキャラクターということなのだ。
のび太は「SFがいい。僕が主人公になって、宇宙で活躍するの」と大変大味なプロットを希望する。これは本当にChatGPTにお願いするようなやり方であるが、実際にこのプロットだけで、決定稿「のび太ウォーズ」というシナリオを一瞬で書き上げてしまう。
「のび太ウォーズ」は、のび太がブラックホールを舞台に宇宙魔人と戦う話であるという。これを元に、ノビータなどのキャラクター表や絵コンテも完成。
「アニメーカー」の全自動機能を使って、原動画から彩色ずみのセル、背景をまとめて書き上げる。本来、背景とセルを重ねて一コマずつ手作業で撮影するわけだが、こでも「アニメーカー」に全部お任せ。
現像済みのフィルムを作り、ここから音の作業も全自動である。作曲、演奏、そしてどんな人の声も電気的に合成してアフレコもしてもらえる。
のび太とドラえもんはのんびりおやつタイムにして、なるべく一流の人の声が良いな、などと軽口を叩いている。当然この時二人が推挙するのは、のび太が小原乃梨子で、ドラえもんが大山のぶ代である・・。
全自動の作業を待つだけなので、「アニメって楽だね」とすっかりらくちんな二人。しかしその頃、スネ夫スタジオでは深刻な対立が巻き起こっていた。
スネ夫としては、主人公のキャラはハンサムで長身の自分を想定していたのだが、ジャイアンは自分をスマートにさせたキャラを立たせようとしたので、意見対立ができてしまったのだ。
揉めているところに、のび太が登場し「アニメを作った」と自慢してくる。どうやら、「アニメーカー」の作業が終了したらしい。
のび太の部屋に行き、初号の映写。「悔しいけど面白い」とジャイアンたちも感心する。のび太は「僕なりに苦労したからね」と得意満面である。そして大満足のまま上映は終了し、のび太は「どうだった? 君のアニメと比べて」とスネ夫を挑発する。
すると、「おわり」のあとにエンドクレジットが写し出される。それによると・・・
と、ほぼ全業務がアニメーカーに集中しているのである。
これを見たスネ夫たちは「のび太は一体何をやったんだ!?」と詰め寄るのだが、確かにその通り。
でも、先ほども書いたが、本作でアニメーカーが代行した作業を、今後AIが肩代わりしていく未来はもう間近のような気がする。ボタン押しだけが人間、なんていう未来はもう冗談ではないのかも知れない。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?