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ヒーローは宿題を手伝う『正義の味方セルフ仮面』/タイムマシンで大騒ぎ⑯

昨年の9月から3期に分けて書き連ねてきた「タイムマシンで大騒ぎ」シリーズも、一応今回で一区切りとしたい。まだまだタイムマシンが登場するお話は「ドラえもん」を中心に数多く存在しているのだが、時制の混乱などを描いてきた「タイムマシンもの」は、大体紹介し終えたように思う。

もちろん、まだまだ見落としもあるだろうから、その時は追加でまた記事を書こうと思う。


さて、今回取り上げる「ドラえもん」の『正義の味方セルフ仮面』は、タイムマシンものと言ってしまうには、少々抵抗がある。というのも、タイムマシンというキーワードが、本作のネタバラシになってしまうからである。

ただ、本作は有名なお話でもあるし、「セルフ仮面」というタイトルからしてネタバレ覚悟にもなっているし、基本的にネタバレ全開がこのnoteの特徴なので、そこはご容赦願いたいところである。

なお、本作のオチの部分は、「大長編ドラえもん」のとある作品にも繋がる要素が含まれているので、「ドラえもん」史においても重要である。その点については、最後の方で言及したい。


「ドラえもん」『正義の味方セルフ仮面』(初出:セルフ仮面)
「小学六年生」1976年7月号/大全集4巻

まず注目してもらいたいのは、本作が「小学六年生」掲載作という点。最高学年となり、そろそろ子供じみたものから卒業していく年齢となる。

そんな中のび太は、テレビ番組のヒーローものに無我夢中。正義の味方あらわし仮面という人気の上がらなそうなヒーローの活躍を見て大興奮している。

ドラえもんは「いい年して単純というか・・・ある意味では幸せな人だ」と冷たい視線を送っている。のび太は見終わって、「やはり最後には正しい者が勝つのだなあ」と感慨に耽っている。

興奮冷めやらぬまま、ドラえもんに「正義の味方を出してくれ」と要求するが、「アホか」と全く相手にしない。小学低学年ならまだしも、もうすぐ中学生というのび太が正義の味方という他力を願うのは、確かに幼稚かも知れない。


のび太は正義の味方に期待するのは馬鹿げたこととは思えない。年中ピンチののび太にとって、本気で正義の味方が欲しいのである。しかも何とかなりそうな気がしてくる。あと少しで正義の味方に関する素晴らしいアイディアが浮かびそうになる。

「よし今夜は寝ないで考えよう」と言った瞬間にグウと寝てしまうのび太。そして早朝、目を覚ますと宿題をしていなかったことに気が付き、大慌て。ドラえもんも手伝い、宿題に着手するが、あと一人ぐらいいないと間に合わないと嘆くのび太。


「手伝おう」

突然謎めいた、月光仮面のような風貌の男が現わる。マントを翻して、「正義の味方セルフ仮面!」と名乗る。思いもよらぬヒーローの登場に、「ドラえもんは頼りになる」と涙を零すのび太。ところが、ドラえもんは自分が出したわけではないと否定する。

ともかくもセルフ仮面の力を借りて、宿題を開始、そしてギリギリセーフで完了させる。のび太は感激して「どこのどなたですか」と尋ねるが、答えない。のび太は「ピンチになったらまた来てね」と一声かけて、朝ごはんへと向かう。


頼りになるヒーローが実際に登場したものだから、のび太は朝食中にママに「正義の味方が宿題をやってくれたんだよ!」などと興奮して話すのだが、「テレビの見過ぎです」と心配されてしまう。

どうにも腑に落ちないドラえもん。どうしてのび太のピンチがわかったのか疑問が募るのだが、のび太は「そりゃ正義の味方だからさ」と答えにならない答えを出す。

ドラえもんは、「セルフ仮面のあの声、あの姿、どこかで聞いたような見たような・・・」と首を捻る。果たして、突然現れたセルフ仮面は何者なのか? なぜ宿題を手伝うレベルのピンチで姿を見せたのか? ミステリー仕立ての立ち上がりがちょっと楽しい。


その後もセルフ仮面はのび太がピンチになると姿を現し、危機を救ってくれる。

下校時、夕立にあって帰れないでいると、雨の中から傘を手にしたセルフ仮面が歩いてくる。傘を渡してくれて、のび太としすちゃんは雨に濡れずに帰ることができたのだが、セルフ仮面は自分の傘を忘れきてしまったようである・・。

帰宅すると雨が止んだので、ママに対して「これから宿題せずに遊びに行くね」と声を掛ける。わざと怒らせて窮地に立たされて、セルフ仮面を呼ぼうという作戦である。

案の定激怒したママだったが、「火事だ」という声が聞こえてきて、ママは様子を見に行ってしまう。声の主はもちろんセルフ仮面。のび太は「助かった」と言って外へと出掛けていく。


続けてイライラしながら歩いているジャイアンに目をつけるのび太。ジャイアンをわざと怒らせて、ピンチを作ろうという意志がありありである。

するとそこへ、セルフ仮面が割って入ってくる。のび太は「スリルがない、ジャイアンが怒り出してから出てきてよ」と勝手なことを言い出す。さすがのセルフ仮面も「わざわざピンチを作るの、やめてくれないか」と逃げ腰の様子。

「面倒見切れない」「そんな無責任な正義の味方があるかい」と言い争うになる二人。のび太はセルフ仮面の制止も聞かず、ジャイアンを後ろから蹴飛ばすと、当然ジャイアンは「ヌガー」と大層ご立腹に。

のび太は「僕には正義の味方が・・・」と振り返るのだが、そこにはセルフ仮面の姿はない。完全に怒り狂ったジャイアンに追い回されるのび太。「こんな時の正義の味方なのに・・・」と思っていると、そこでようやくセルフ仮面が再登場。

パンパカパーンというファンファーレとともに、ジャイアンのかあちゃんを連れてくる。セルフ仮面は見事ジャイアンの弱点を突いて、のび太を助けれくれたのだった。


しかし、他力を借りるやり方に、あまりパッとしない正義の味方だと思い始めるのび太。ドラえもんは引き続き正体は誰だろうと考えこんでいる。

するとそこへママがやってきて、去年劇で使った衣装を捨てるかしまっておくかと訪ねてくる。手にした風呂敷を広げると、見覚えのある帽子や衣服が出てくる。

そこでドラえもんが「わかった」と言って手を叩く。

「セルフ仮面は君自身だ!!」

まるでピンとこないのび太に、ドラえもんが事の次第を説明する。

・現在ののび太は今日一日どこでピンチにあったか全てわかっている
・これから「タイムマシン」で過去ののび太をピンチから救いに出掛けていく

すなわち、セルフサービスの正義の味方という訳である。

ドラえもんは言う。「もしも行かなければ、のび太は数々のピンチを切り抜けられなかったことになる」と。後から自分を助けにいくというシステムでセルフ仮面は成立しているので、未来の自分がさぼるわけにはいかないのである。

何やらタイムパラドックスの構造に納得いかぬまま、のび太はセルフ仮面の衣装を着て、今朝ののび太の部屋へと向かう。向かった先では、宿題を始めようとしているのび太とドラえもんの姿がある。未来ののび太が正体のセルフ仮面の、長い一日がここから始まるのである・・。


このお話では、未来ののび太が過去ののび太を助けることになる。そうなると、起点はどこだったのかという疑問が湧いてくる。時間軸においては、未来からセルフ仮面がやってきたところが起点となる(すなわち今朝)。

ただし、セルフ仮面が過去へと向かったのはその日の夜で、そこが起点とも言える。今朝の段階で、のび太がセルフ仮面になるんだと自覚していたならば、その自覚した瞬間が起点となるのだが、そういうことではない。

まさしく「ニワトリかタマゴか」のパラドックスに陥っているのである。


ちなみにこれとよく似た構造で、大長編ドラえもんの「のび太の大魔境」という作品がある。これはのび太たち5人がバウワンコ王国で大ピンチに陥ってしまうのだが、しずちゃんが「先どり予約機」という機械を使って、未来の自分たちをタイムマシンで救いに来させるという離れ業と成立させている。

ただし、この作品では「先どり予約機」を使った地点が起点となるので、多少強引ではあるが、タイムパラドックスまでは起きない仕組みとなっている。

まあいずれにせよ、時間軸を色々といじっていく藤子作品は、子供ながらに読んでいて楽しい気分になることは間違いない。




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