夢中になるのは良いことだ。『のび太の模型鉄道』/模型マニアの物語②
藤子・F・不二雄ミュージアムに行くと、藤子先生の作業机が展示されていて、その周辺には色々なフィギュアや模型が並んでいる。おもちゃ好きだった藤子先生の作品には、しばしばプラモデルなどの模型が登場するが、それらの描写は、少々マニアックだったりする。
多忙だったのでプラモデルやプラレールを丁寧に作っている時間はなかったように思われるが、本当は凝りに凝ってプラモを作りたいという欲求があって、それが作品の中に現れているように思える。
「模型マニアの物語」と題して、数本の模型マニアな物語を紹介していこうという企画で、既に一本記事を書いた。
ここでは、マニアックなプラモ道に邁進するスネ吉兄さんを登場させて、マニアとはこういうものだ、という描写を行っている。特にスネ吉がジオラマについて語り尽くす2ページ半(全体の25%)は、必見。ガチに参考となるジオラマテクが披露されている。
本稿では、続けて「ドラえもん」から、別の模型マニアなお話を取り上げてみようと思う。
「ドラえもん」『のび太の模型鉄道』
「小学三年生」1987年1月号/大全集16巻
『超リアル・ジオラマ作戦』では、プラモデルを使ったジオラマ撮影をテーマとしていたが、本作のテーマはずばり「プラレール」。作る模型は違えど、ストーリー展開はかなり似通っている。
①のび太が自分なりに鉄道模型を一生懸命に作り、皆に見せる。
②ところが金に物を言わせたスネ夫がその何枚も上を行くセットを見せつけて、のび太が落ち込む。
③そしてドラえもんに頼る・・・
という、お馴染みの流れである。
本作は一月号の作品ということで、舞台はお正月。新年早々、珍しくのび太が何やら机でコツコツと作業をしている。ドラえもんはその後ろ姿を見て感心する。
のび太は何をしていたかというと、おじさんからお年玉として貰った9ミリゲージ(Nゲージ)のセットに設置する建物(ストラクチャー)を作っていたのである。続けて線路作り。パネルにレールを敷いて、立木や家を貼りつける。最後にパワーパック(電動制御機器)を繋げて、セットは完成である。
そして精巧な電車模型をレールに乗せて、パワーパックのダイヤルを少しずつ回していくと、模型がゲージを回り出す。
今はすっかりNゲージと呼ばれて市民権を得ているが、1987年発表の本作では9ミリゲージとして紹介されている。ちなみにこの「N」とはNineの頭文字を取ったもの。
Nゲージの知識をさらりと登場させてお話がスタートするのだが、これは単純にF先生の趣味・知識のご披露という意味合いが強そうである。こうした必要以上の付加情報が載ってくるのが、藤子作品の大いなる魅力だ。
のび太はみんなに自慢しようと持っていくのだが・・。そこに、いつものスネ夫が目の前に立ち塞がる。スネ夫はのび太の鉄道模型を見て「ハハハ」と乾いた笑い。そして・・
「ま、のび太ならその程度で満足だろうけど、僕ぐらいのベテランは・・」
と容赦なくのび太のプライドを傷つけて、凄まじい規模のプラレールを見せつける。
セット自体が大きいだけでなく、線路は分岐しているし、小高い丘に灯台が建っていたり、鉄橋や駅もある。のび太はこれを見て髪を逆立でて驚く。ジャイアンも「さすが・・」と声が出ない。
『超リアル・ジオラマ作戦』と同じような流れではあるが、本作では冒頭でのび太が一生懸命にプラレール作りをしている描写が入っているので、規模の違うスネ夫のジオラマを見てのショックが、よりリアルに伝わってくる。
のび太はドラえもんに泣きつき、「広いレイアウトが欲しい」と頼むが、
「また始まった。そんな広いの、うちのどの部屋に作る?」
と最初は駄目出し。
やる気をそがれたのび太は部屋でゴロゴロして、ママに正月からだらけていると叱られてしまう。そこでドラえもんが立ち上がる。このあたりの進行も『超リアル・ジオラマ作戦』と一緒である。
ドラえもんが取り出したのは「ポップ地下室」。地面に埋めて爆発させると、巨大な地下室があっという間にできてしまう道具である。以前『超大作特撮映画「宇宙大魔神」』でも、ポップ地下室で映画のミニチュアセットを建て込むスタジオを作った。
広い場所は確保できた。次はこのスペースを活かすべく、大量のレールやストラクチャーが必要である。
ドラえもんは「フエルミラー」を出して、レールをたくさんコピーして、木や家やビルなども増やしていく。フエルミラーは、鏡に映ったものをコピーして取り出せる道具で、わりと初期から何度も登場している。
場所と道具は揃った。あとはこれを組み立てていくのみ。
のび太は鉄道模型作りにすっかりハマり、学校から帰るとすぐに地下室へと向かって、セットを作り込んでいく。そんなのび太にママは不満を覚えるが、ドラえもんは「毎日昼寝しているよりいいじゃない」と助け船を出してくれる。
勉強も大事だけど、好きなことに没頭することも良いことだという藤子先生のメッセージと受け取るべきであろう。そしてラストへの伏線的意味合いもある。
発泡スチロールの山を削って色を塗ってパウダーを撒く。そこに木を植えればちゃんとした山の出来上がり。また、シリコンに青いカラーインクを混ぜて、流して固めると川や池となる。
そんな楽しいジオラマ作りも丁寧に描写されている。
巨大で精緻な鉄道模型セットができあがる。のび太はスネ夫、ジャイアン、しずちゃんを呼んで完成披露。スネ夫は『超リアル・ジオラマ作戦』に引き続いてショックを受ける。いくら大金持ちでも、未来のネコには敵わないのだ・・。少し可哀そう。
スモールライトで小さくなって電車に乗って、セットをみんなで堪能する。スネ夫だけは素直に喜べないようだが・・。
今回の模型作りは、遊びとはいえ、のび太らしからぬ勤勉さや集中力が見られた行動だった。ドラえもんも
「何でも夢中になるのは良いことだ。これでのび太の怠け癖も直るだろう」
と満足する。
続けてのび太は、また何かを作った模様。寝台車の中にベッドを入れたのだという。これをゲージセットに持ち込み、スモールライトで小さくなって・・。のび太はこの日から、毎日寝台車で寝てばかりの生活になってしまったのだった。
頑張った後には怠ける。怠けた後ににはまた少し頑張る。それがのび太の生きる道なのである。
「ドラえもん」考察120本以上しています。
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