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のび太、神さまやってみた。『神さまごっこ』/私は神さま①

八百万(やおよろず)の神々を戴く私たち日本人にとって、「神様」の存在はとても身近である。なにしろ、あちらこちらに神様は存在しているのだから。

たいていの田舎には神棚があるし、神社や鳥居をみると自然と拝みたくなる。神々しいという言葉が普通に使われたり、少し前になるが「トイレの神様」なんていうヒット曲もあったし、「エンタの神様」なんていう番組もある。

神々は畏敬の対象であるとともに、いつも自分の身の回りに居てくれる存在でもある。他の国の宗教観はよくわからないが、この生活の身近に神様がいるという感覚は、日本人の個性という感じがする。


さて、藤子Fワールドには、主人公自身が「神様」になってみた、というお話が多数存在する。

神頼みという言葉があるが、自分が頼られた場合にどんなことになるのか。また神の強力な力を得てしまった時に、人間はそれに耐えられるのか。などなど、様々な切り口から考えられた、抜群のエピソードが多数描かれている。

そこで「私は神さま」と題して、いくつかの神様エピソードを見ていきたい。それはまるで神様の疑似体験のようでもある・・。

まずは、あの、のび太が神様となるお話から始めてみよう。


「ドラえもん」『神様ごっこ』
「小学六年生」1982年7月号/大全集10巻

ただし、最初に神様を求めたのは、のび太ではなく、ドラえもんであり。しかもその願いとは・・・。

冒頭、のび太が部屋に入ると、ドラえもんがアウ~ウオ~と呻りながら、ジタバタを体をよじらせている。何か悪いものでも食べたのかと思いきや、どら焼きを3日(も)食べていないために禁断症状が出ているようなのだ。

ドラえもんとのび太と小遣いは合わせて20円。ドラえもんは、「どら焼きが無いと、僕はもう駄目だ~」と完全なるジャンキー状態なのである。


そこで急にドラえもんが何かを思いつく。そして取り出したるひみつ道具は「神さまごっこ」。名前からして子供だましなおもちゃ感がある道具で、天使の輪っかのようなものと、お賽銭を入れる箱のセットとなっている。

ドラえもんは、のび太を神様にさせて、10円をお賽銭として箱に入れる。そして「どうかどら焼きが食べられますように」とお祈りすると、のび太の頭上に浮かぶ輪っかが光り出す。

この瞬間が重要で、すかさずのび太は「叶えてつかわす」と一言告げなくてはならない。言われた通りにそうしゃべると、玄関に誰かがやってきたような音が聞こえる。

なんと、どら焼きのおすそ分けを近所の人が持ってきてくれたのだ。これにて、ドラえもんの望みは叶い、大満足に食べ始める。大した効果を発揮する道具だが、あくまで「ごっこ」なので、望みは個人的でささやかなものでなくてはならないらしい。


それを聞いたのび太。輪っかをドラえもんに備えて神様にして、自分の残り金10円を賽銭箱へと入れる。そして望みは「こづかい100万円」。先ほどのドラえもんの「ささやかな願い」でなくてはならないという話をまるで理解できていないようである。

結局、お願いする金額を下げていき、ようやく100円というところで輪っかが光る。そしてこの後、廊下で転んで100円が見つかるのだが、10円が100円になったので、悪くない話であった。

確かにご利益があることがわかった。そこでのび太は、自分が神さまとなって、世の人々を救ってくるこようと言い出す。ドラえもんは、「おかしなことにならねばいいが」、と悪い予感が走る・・。


のび太はまずしずちゃんの家に行く。しずちゃんの願いとは、トンちゃんに会ってサイン貰って、握手をするというもの。トンちゃんとは、当然(?)トシちゃん(田原俊彦)のパロディである。

10円でそんな願いは認められるのか・・? するとのび太の頭上の輪が光る。「叶えてつかわす」とのび太が告げると同時に、「ごめん下さい」と来客の声が掛かる。このスピード感が素晴らしい。

何と訪ねてきたのは歌手のトンちゃん。彼の用事とは、急な腹痛でトイレを貸して欲しいというもの。「もう少しロマンチックに出会いたかった」としずちゃんは不満を述べるが、まあ10円なら上出来だろう。結局しずちゃんは、サインを貰い、握手もしてもらうのであった。


人の願いを叶える神さまの仕事に喜びを感じたのび太。みんな少しは僕を敬うようになるだろう、と考え歩いて行くと、困った様子のスネ夫に出会う。

何をしているか聞くと、今日のテストが90点だったので、ママが100点取ってこないと家へ入れませんと怒られたようなのである。ちなみにのび太はこのテストは10点だったらしい。

神さまセットの説明をすると、スネ夫は何千円入れたらいい、と札束を出す。金に糸目をつけない必死さがよく伝わってくる。そして「この答案を100点に」と願うと、輪が光る。

すると先生が「すまんすまん」と言いながら歩いてくる。今日のテストで、答えを一つ勘違いしていて、全員の採点をやり直して回っているのだという。

スネ夫の誤答は実は正解で、なんとテストの点は100点に! 泣いて喜ぶスネ夫は、「神さまありがとう」とのび太と歓喜の握手を交わす。なお、のび太の答案だが、唯一合ってた答えが実は間違いだということで、なんと10点から0点へ格下げ・・・。


神さまが不幸になるという理不尽を感じるのび太。そこへトドメを刺す人間が現れる。もちろん、ジャイアンである。とても神様を敬っているとは思えない頼み方をしてくる。

「よ~、神様はじめたんだってな。かあちゃんに追われてるんだ。このピンチを救え!!」

そしてお賽銭の金額はたったの5円。さらに、嫌な顔をするのび太を「金額で差別するな」とぶん殴り、半ば無理やりに願いを叶えさせると、のび太が突き飛ばされたドブの中から、ジャイアンのかあちゃんが去年落とした財布が出てくる。

ジャイアンは、これでかあちゃんの難から逃れるが、神様のび太は散々な目に遭ってしまった。「あんなヤツには天罰を与えたい」と憤るのび太。


さて、家に帰り、のび太はふとママの顔をみて、「たまには親孝行してみるか」と名案が浮かぶ。自分でお賽銭を入れて、ママに「願いごとを言って」と告げる。何かのおまじないかと思ったママ。どんな願いをするのだろうか・・。

「のび太がせめて人並みの成績を取ってくれますように」


この願いが届き、のび太は机から離れられなくなる。人並みの成績を取るまで、強制的に勉強をしなくてはならない・・・。困り果てるのび太に、「言わんことじゃない」と、どら焼きを食べ続けるドラえもんなのであった。


次稿では、全く別角度の「神様」をご紹介したい。

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