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科学冒険漫画!『幽霊ロケット』/藤子F初期作品をぜーんぶ紹介⑫

藤子F先生の知られざる活動初期の作品を全部紹介していこうという意欲記事も12本目。今回は久しぶりにSFジャンルの作品を見ていく。

『幽霊ロケット』「漫画王」1956年2月号別冊付録

本作は秋田書店の「漫画王」という雑誌の別冊付録で発表された作品で、48ページの大作である。発表された1956年はまだその前年の「大量原稿落とし事件」の余波を受けている頃だが、本作は本格復帰作と呼んでもいい質量を誇る作品である。

藤子・F・不二雄大全集では1957年2月発表作品と表記されているが、これはどうやら1956年2月の間違いであるようだ。

作品の扉で「科学冒険漫画」と銘打っており、手塚治虫先生が作り上げたジャンルへの挑戦とも言える作品である。この後内容を見ていくが、宇宙人対人類の死闘を描く壮大なスケールの物語で、文句なしにワクワクする傑作となっている。


突然襲ってきた宇宙人との攻防ということで、下敷きとなっているのはH・G・ウェルズの「宇宙戦争」ではないだろうか。1953年には映画が公開されており、触発された可能性がある。

もう一つ影響を与えていそうなのは、この頃にアメリカ空軍での目撃情報が相次いだ「未確認飛行物体」である。1950年代では空飛ぶ円盤などと呼ばれ、まだUFOという呼び名は一般的ではなかった。

本作では退治するUFOを「幽霊ロケット」と呼んでいる。粋な言い方しているなと思っていたが、「UFO」や「空飛ぶ円盤」といった呼び名がこの時点では確立していなかったのだ。


物語の構成はサブタイトルとしては5つに分かれているが、実際には序・破・急の3部構成と言ってよいだろう。タイトルとページ数を下記にまとめてみた。

序(17ページ):空一面の怪物(5)+なぐられる五郎(7)+不死身の幽霊(5)
破(22ページ):
地底へ
急(8ページ):勝利の日

「空一面の怪物」はいわゆるアバンタイトルのようなオープニングエピソード。空軍のパイロットが幽霊ロケット(=UFO)一機を見つけ、戦闘となるが一機だったはずのロケットは空一面埋まるほどの数に分裂してしまう。飛行機が撃ち落され、パイロットが地上から敵を見上げると一機のみのUFOが空を飛び立っていくのが見える。

大長編「ドラえもん」で見かけるような、壮大な敵を予感させるオープンニングである。


続けて「なぐられる五郎」では、本作の主人公が登場する導入の章である。

主人公は真面目な工員の五郎。昼間工場で働いた後は、科学者を目指して夜間学校で勉強をしている。付き合いが悪いので、工員の同僚に絡まれてリンチに遭い、そこに通りがかった車に救助される。

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助けてくれたのは、高名な科学者・矢間博士。高圧モーターでノーベル賞を受賞した、五郎の尊敬する男である。もう一人のいかにも軍人風の男は、オヤマノ大将。矢間とオヤマノは互いに信頼し合う間柄だが、幽霊ロケットが存在するかどうかでは議論が平行線のようである。

矢間は人間を狙う幽霊ロケットの存在を確信しており、五郎に自分の研究を手伝うよう声を掛ける。

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第三章は「不死身の幽霊」。矢間の恐れていた幽霊ロケットの人類襲撃が始まる。北アフリカのムリアス市に幽霊ロケットが現われ、空軍を繰り出して対抗するがあっと言う間に負かされて、ムリアスを占領されてしまう。

その状況を予期していたいた矢間。案の定オヤマノ大将が矢間の研究所に姿を現し、博士の研究を急ぎ進めて欲しいと依頼する。研究と占領、どちらが早いかスピード勝負となりそうだ。

と、ここまでが、「序破急」でいうところの「序」の部分である。

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続けて「破」にあたる「地底へ」が本作のメインとなる。幽霊ロケットはアフリカからインド、中国と征服して、ついに日本へと進軍してくる。矢間の研究はまだ続いていたが、その全貌が明らかになる。

なんと地下100メートル深く、20枚もの鉄板で仕切った通路の奥に、博士の大研究所が存在していた。ロケットは日本中に襲い掛かってくるが、安全な地下で研究の完成を急ぐ博士と五郎。

そのころ地上では、五郎を殴った工員連中が、ガラガラとなった町でお金を奪うなどやりたい放題にしていた。するとそこにUFOが現れて襲撃されてしまう。

地下研究所で昼夜問わず研究を続ける五郎たち。地上での人の悲鳴を探知する。誰かが幽霊ロケットに捕まっているに違いない。そこで二人は地上に出て、残された人間を救い出すことに。

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地上では人間が何者かに撃たれている。そして五郎を殴った連中の首謀者の男が、ヨロヨロと姿を現す。この男、名前が出てこないので、男Aとしておこう。

そして男Aを追うように、ついに宇宙人が姿を見せる。影の妖怪のような風貌で、この当時の宇宙人=タコ型の枠に捉われないカッコいいデザインである。

宇宙人にはビーム銃も効かず、何とか男Aを連れて地下へと逃げ込む。助かったと思いきや、宇宙人は後を追ってきて二十枚の扉を次々と壊して近づいてくる。

電子脳を限界まで開いて研究の完成を急ぐ博士たち。電子脳とは、今でいうAIだろうか。ほどなく宇宙人は発電室に辿り着いて電気が消されてしまう。最後の扉が溶かされて、先ほどの怪人が姿を現す。ギョロっとした目つきのカラスのような姿である。

ところがこの宇宙人は突然倒れ込んで死んでしまう。博士は「宇宙人たちは宇宙線を吸って生きているので宇宙線の届かない地下百メートルでは死んでしまう」のだと予測する。幽霊ロケットをやっつけるカギは、宇宙線を遮断することだとわかり、盛り上がる3人。

ちなみに「宇宙線」は地球外から届く放射線のことだが、1936年には宇宙線を発見したビクター・フランツ・ヘスがノーベル物理学賞を受賞している。

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「序」「破」ときて「急」は、最後章「勝利の日」となる。

地上に出ると、死んだ宇宙人が乗っていたUFOがそのまま置かれている。男Aを見張りにして五郎と博士が中に入っていく。すると博士がある機械を見つける。それは蜃気楼を作り出す装置で、光の魔術を使って一つのものを複数の姿に見せることができる。幽霊ロケットのトリックは、蜃気楼であったのだ。

襲い掛かってくる宇宙人たちを、パワーアップした銃で倒していく五郎たち。この銃は宇宙線を遮る効果があるのだろうか? 敵のロケットに乗り込み、ロケット同士の空中戦となる。うようよとUFOが姿を現すが実際には六機しかいない。

機銃で次々と敵機を墜としていくが、最後の一機を前に五郎が負傷してしまう。すると男Aがここぞとばかりに存在感を出して、代わりにロケットへビームを撃って墜落させる。とどめはお前が差すのか! と僕は思わずツッコミが入ったが・・・。

幽霊(=UFO)は全て姿を消した。そして最後一コマで余韻なく地球は救われたと大エンディングを迎える。藤子F先生の余韻の短さは、既にこの頃から健在なのである。

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まだUFOや電子頭脳(AI)といった単語が一般化していないこの時代に、幽霊ロケット、電子脳といった新語を使って描いている点に注目しておきたい。また、少年と科学者という組み合わせは、後の「海の王子」などでも使われる。

壮大だが、あくまで少年目線から描かれたSF作品で、今読んでも純粋に面白く、当時の子供たちは熱狂して読んでいたのではなかろうか?


初期短編の紹介たくさんやっておりますので、目次からどうぞ。


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