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宇宙人は幽霊を知らない『出た出たオバケが』/しかしユーレイはいない③

「しかしユーレイはいない」シリーズも3回目。本稿では、Fノートで初めて取り上げる「ウメ星デンカ」から一本紹介していく。

藤子F作品では、「超常現象は本当に存在する」という切り口で描かれることが多いのだが、その数少ない例外として幽霊の存在がある。「幽霊がいるかも」と思わせておいて、「いや、いない!」という流れになるパターンの作品が、非常に多いのである。

これまでの記事は以下。


今回取り上げる「ウメ星デンカ」の『出た出たオバケが』も、そうしたパターンで構成されているが、話の内容としては「ドラえもん」(「ドラミちゃん」)の『山奥村の怪事件』とかなり似通っている。


本作を見ていく前に、まずは簡単に「ウメ星デンカ」の作品説明を。

「ウメ星デンカ」は、「パーマン」と「ドラえもん」の連載の間(1968~70年)で学年誌を中心に発表された。故郷のウメ星が爆発し、地球に逃げてきたウメ星王国の一家が、家族総出で中村家に居候するというなかなか壮絶な設定である。

何とか新しい星(土地)を見つけて王家復活を夢見るのだが、狭い地球の狭小住宅に住むことになる王族たちの、少々間が抜けたやり取りが魅力の作品となっている。

主人公はウメ星の王子・デンカと、中村太郎の二人。デンカの家族は父親(国王)と母親(王妃)で、途中から侍従のベニショーガや、お手伝いロボットのゴンスケなどが登場する。

ゴンスケは、本作とほぼ同時期に「週刊少年サンデー」で連載していた「21エモン」にも登場するロボットである。少々性格が違っているように思えるが、一度ゴンスケ特集の記事を書いてみたいと考えている。

宇宙人で、かつ王室の一家ということで、世間知らずの度合いがすごい。しっかり者が全くいないというボケ倒しのキャラクターたちが、毎回何かのテーマで大騒ぎする。


ちなみに梅干し(ウメ星)、紅生姜(ベニショーガ)、奈良漬け(ナラ子)、福神漬け(フクジン大臣)と、お漬物がキャラクターの名前の由来になっている。デンカが超能力を使うときには「スッパッパ」と呪文を唱えるが、これは「酸っぱい」から取られているものとなる。

殿下が使う魔法のツボから不思議な道具が色々出てくる設定があって、これが直後の「ドラえもん」に引き継がれたと、F先生は回想されている。

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「ウメ星デンカ」『出た出たオバケが』
「小学四年生」1969年9月号/大全集2巻

さて、本作を見ていこう。

王室一家でテレビを見ていると、平家の落ち武者が開村し、今は誰も住んでいない秘境・平川村が紹介される。その広大さに心惹かれたウメ星一家は、「この土地に新ウメ星国を作ろう」ということになり、みんなで飛んでいく。

平家の落ち武者という設定は、前回の記事で紹介した「オバケのQ太郎」の『ゆうれい村』と重なっている。また、不便で人が住まなくなったという平川村のアイディアは、やがて「ドラえもん」(ドラミちゃん)の『山おく村の怪事件』で再び使われることになる。

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平川村はガスも水道も通っておらず、冬は雪深く、あまりに不便だったことから、誰も住まなくなったらしい。「全部で16戸あり、一戸20人住めるので、320人のウメ星人を呼べる」と、ベニショーガは計算する。

人気のない村の古くなった日本家屋ということで、太郎は「オバケでも出そうだ」と気味悪がる。ガタっと物音がして驚くが、これは風だったようである。

埃だらけだった家の掃除も終わり、食事の時間となるが、侍従のベニショーガの天然ぶりが発揮される。電気がまを囲炉裏(いろり)に入れてご飯が炊けないと困ってみたり、缶詰を持ってきても缶切りを忘れたり(←このギャグも「ゆうれい村」で使っていた)、かまどに火を点けようにもマッチを忘れたりする。

ベニショーガは、どこかにマッチが落ちてないかと歩き回ると、人だまのようなものが浮かんでおり、これを種火にして、かまどに火を入れる。

「火が表に浮かんでいた」と太郎が聞いて様子を見に行くと、やはりそれはひとだま! 太郎はその場から逃げ出すが、皆のいる部屋に駆け込むとそこで気絶してしまう。

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ご飯が炊け、ウメ星一家はようやく夕飯となるが、襖に幽霊のようなシルエットが映り、「うらめしい・・・」と声を出してくる。幽霊を全く知らない国王は「うらめしではなく晩飯だ」と惚ける。

この話を、気絶から起き上がった太郎が聞くと、それは幽霊だということで、再び気絶。それを見て「よほど眠いのだ」と妃殿下。この家族は、本当にボケ役だらけ。

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次に、二階から物音が聞こえてくる。みんなで様子を見に行くと、巨大な武者人形が、突然ガハハハと笑い出す。デンカはそれを見て、「この人形笑うよ!」と大喜び。まるでオバケに反応しない一家なのである。

さらに、ベニショーガがお茶を沸かそうと井戸の水を汲むと、「うらめしい・・・」と言いながら、幽霊が出てくる。それを聞いたベニショーガは、

「訳もなく恨まれちゃ迷惑だ。はっきりさせてもらおう」

と、幽霊を皆のもとに連れて行き、どう恨めしいか説明を求める。

そして、幽霊に人間には魂があって、殺されたので夜になると出てくるのだ・・・などと説明させる。このナンセンスさが、「ウメ星デンカ」の魅力と言えなくもない。

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結局、この幽霊とさっきの武者人形は、平川村に身を隠していた指名犯たちなのであった。オバケの姿で脅かして、村から出て行ってもらおうと画策していたのである。

ところが幽霊作戦が通用しないとわかると、次に銃を使って実力行使に出ようとする二人。覚悟しろ、とデンカたちの部屋に入っていくと、ちょうどデンカたちが大量のやぶ蚊に襲われおり、「こんなところには住めない」と、魔法のツボに荷物を詰めて空を飛んでいってしまうところであった。


その様子を見た犯人たちは「本物のオバケだ!」と驚いて、山を駆け降りていってしまう。

翌日、平川村に隠れていた犯人たちが、オバケに襲われて山を降りて捕まったというニュースを知る。そこでようやくオバケを怖がるデンカであった、というオチとなる。

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本作も幽霊かと思いきや、この村から押し出したかった指名犯だったという「しかしユーレイはいない」パターンの作品である。

本作のように、オバケの姿に扮してそこから逃げ出してもらおうという話は、実は藤子F作品に頻出の展開で、「ドラえもん」の『ゆうれい城へ引っこし』などがそれにあたる。

そして、次稿で紹介する作品も、このパターンに当てはまるお話となっている。F先生の幽霊はニセモノ、という頭の中が少しだけ見えたような気がするのは僕だけだろうか?


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