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ジャイアン世界征服の野望!『未来世界の怪人』/ドラえもんミニ考察⑪

『未来世界の怪人』「小学四年生」1973年3月号

本作は未来のひみつ道具を使う者同士の対決が描かれる異色作。ヒール役のジャイアンは、途中で世界征服の野望まで口にするヴィランぶりを見せつける。

また、タイムパトロールがドラえもんの世界に初登場し、未来から来た極悪犯罪者も襲い掛かってくる。全編に渡って見応えのある「ドラえもん」初期の傑作篇である。


冒頭一コマ。
タンコブできたてののび太がドラえもんに何か道具をねだっている。このパターンで言えば、ジャイアンに殴られて、その仕返しの道具をドラえもんに出してもらおうとしている始まり方となる。言ってみれば、お馴染みのオープニングである。

ドラえもんが出した道具は「空気ピストル」。指にはめて「バン」と声を出すと空気砲が飛び出す仕掛けである。「3発殴られたので3発撃ってやろう」といって仕返しに向かうのび太。相手はやはりジャイアンであった。ちなみにこの段階ではまだのび太は拳銃王である設定は確立していない。


意気揚々とジャイアンを探すのび太。スネ夫としずちゃんに居場所を聞くとスネ夫が

「ははあ、またドラえもんから、何か借りてきたな。のび太くんはドラえもんが付いてていいなあ」

といつになくのび太に好意的。しずちゃんまでも、

「どんな機械か見せてね」

とのび太寄りの発言をする。特にしずちゃんについては、まだ優しい女の子という設定が固まり切れていない初期ドラならではのセリフだと言えよう。

そうして、のび太はジャイアンと決闘となる。このパターンだとのび太の仕返しが決まるものだが、ここで作品は転調する


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のび太が「謝るなら今のうちだぞ」と言って空気ピストルをジャイアンに向けると、ジャイアンはそれよりも一回り大きい空気砲を腕にはめており、ドカンとのび太は吹き飛ばされてしまう。

この空気砲は、「大長編ドラえもん」では非常にお馴染みとなる道具だが、本作が初登場となっている。そしてこの時点では名前ははっきりしていない。


見事に返り討ちに遭ったのび太。ドラえもんは「空気砲は未来の国しかないはずだ」と信じない。そこで今度は「かくれマント」を出す。このマントを被ると透明になるので、近づいてぶん殴ろうという訳だ。

このかくれマントも有名な道具だが、こちらも本作が初登場回である。

透明となってジャイアンを探すのび太。ところが、透明な見えない壁にぶつかり、不思議がっていると、いつのまにか小さくなっていて、透明の金魚鉢のようなものに閉じ込められている。これはなんとジャイアンが「万能わな」という道具を使ってのび太を捕まえたのである。

ジャイアンはいつの間にか、未来の道具を使いこなしている!

「もうドラえもんなんか怖くないぞ」とジャイアン。逆を言えば、これまではドラえもんの道具でたびたび仕返しされていたので、少しは怖がっていたのかもしれない。

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続けてジャイアンがポケットを探ると、鳥の形をしたワッペンが出てきて、これを貼るとふわりと宙に浮く。空とぶワッペンだったのだ。

ジャイアンは空へと飛び上がっていき、のび太は閉じ込められたまま。「出してえ」と助けを呼んでいると、ドラえもんに声が届き、

「どこからともなくのび太くんの間抜けな声が聞こえる」

と軽やかに毒を吐く。


のび太と合流したドラえもんは事情を聞くと、のび太を助けずに「捨ててはおけない」と言ってタケコプターで後を追っていく。「あんなヤツに未来の秘密を握られるとろくなことにならない」と、ここで一気に対決モード。

なぜか未来のひみつ道具を取り出すことのできるジャイアンと、元祖未来からきたロボットドラえもんの戦いが迫る!


ジャイアンは「雲かためガス」を使って雲の上で休んでいる。そして拾った小さなカバンから色々な道具が出てくると言って喜んでいる。そこへドラえもんが「返せっ」と飛び込んでくる。たまらず逃げ出すジャイアン。

追われるジャイアンはカバンからふりかけのような小瓶を取り出す。訳もわからずドラえもんに振りかけると、それは「くすぐりノミ」。ドラえもんは空中で笑い転げて、そのまま地上に落ちて気絶してしまう。

ジャイアンは倒れたドラえもんを見て、「ドラえもんのポケットの物も貰っちゃえ」と悪いことを思いつく。そしてかのセリフ。

「これだけあれば、世界を征服できるかもな・・・。むひひひ」

凄まじい悪党ぶりなのである。これは未来の道具を使えばいくらでも悪事が行えるということを意味しており、ひみつ道具の闇に踏み込んだなかなか危険な発言であった。


一方、万能わなに閉じ込められていたのび太が、一人の男に助けられる。そしてこれを使ったのは誰かと聞いてくる。のび太は「ジャイアンという非常に悪いやつです」と答える。ちなみにのび太を助けた男だが、初見では女性のように見えるのは僕だけだろうか?


ドラえもんのポケットから色々な道具を出して物色しているジャイアン。その中から「タイムテレビ」のようなものを取り上げると、ビビビといって映像が流れ出す。

ここでタイムパトロールの存在が、ドラえもん史上初めて明かされる。

「時間パトロールへ緊急連絡! 二十二世紀時間警察局より各時代へ・・。宇宙ロケットが強盗に襲われた。警官に追われた犯人はタイムマシンで昔の時代に逃げた模様」

と緊急連絡が流れ、「これが犯人だ」と言って、先ほどのび太を助けてくれた男か女か分からない人間の顔が写し出される。

するとちょうどこのタイミングでのび太が男を連れて、ジャイアンの所に辿り着く。男の顔が強盗犯と同じであると、のび太もジャイアンも気がつく。

男はいかにも危ない表情を浮かべて、

「君たち僕の秘密を聞いてしまったね」

と言って光線銃のようなものを向けてくる。いつの間にか起きたドラえもん含めた3人に「消えてもらおうか」と引き金を引く。このあたり、かなり怖い展開・・。

ところが間一髪、男の背後からタイムパトロール隊が現れて、光線を打ち込み気絶させ、のび太たちは一命を取り留める。

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ここまで、通常のドラえもんとは思えない程のバトルがあり、命の危険が迫る展開であった。しかも大長編以外でタイムパトロールが登場するのもかなり珍しい。たった10ページの作品とは思えないSF感と特別感のある作品である。


ジャイアンが拾ったカバンはタイムパトロールに没収されることになるのだが、ジャイアンは「拾い主は一割貰えるはずだ」と言って食い下がる。世界征服はともかく、今後のび太・ドラえもんに対抗するためには、ひみつ道具が必要だと感じているのかもしれない。

ジャイアンはたいていドラえもんの道具を手にすると、悪いことをする生き物である。例えば「コンピューターペンシル」を、のび太が使うのを躊躇していたのに、ジャイアンはいとも簡単に使用してテストで100点を取っていた。自省が効かないタイプであり、ひみつ道具を持たせてはいけない「悪党」なのである。。


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