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お金は存在するのだが・・『お金のいらない世界』/もしもの世界を見てみよう②

若い方はピンとこないだろうが、1970年代・1980年代の子供たちの人気者といったら、断然ドリフターズだった。「8時だよ!全員集合」と「ドリフの大爆笑」は、子供たちをTVに釘付けした伝説的番組だった。

1974年生まれの僕は、御多分に漏れずドリフターズの虜となり、毎週土曜夜のTBSと、月一火曜のフジテレビは、欠かさずドリフにチャンネルを合わせていたものだった。

「ドリフの大爆笑」では、毎回何かテーマが決められて、コントが次々と流れてくるのだが、その中で人気のコーナーだったのが、「もしものコーナー」である。

実際僕も大好きで、「もしも威勢の良い銭湯だったら」などが最も思い出深い。お客であるいかりや長介が、威勢の良い太鼓のリズムに乗せて、有無を言わさず他の4人にシャンプーを掛けられたり、お湯を掛けられたり、湯舟に突っ込まれたりと、滅茶苦茶にされてしまう。これには、本気で腹がよじれるくらいに大爆笑したものだった。

少々脱線した話題から入ってしまったが、「もしも~だったら」というフォーマットは、お笑いにもSFにも採用できる、とても万能な形式なんだな、と思った次第である。


ドラえもんにおける「もしも~だったら」は、有名な「もしもボックス」という道具によって、全部で10作が描かれた。前回の記事でリスト化させているので、後ほどご覧くださいませ。


本稿では「もしもボックス」登場3作目にあたる『お金のいらない世界』を取り上げる。前回の記事にした『もしもボックスで昼ふかし!?』の翌月に発表された作品である。

この頃は一年半の間に5回も「もしもボックス」を使ったパラレルワールドを描いている。これほどの短期間で同じ道具をメインにしているケースはほとんどないので、藤子先生はもしもの世界を描くことに、さぞかし凝っていたのだろう。


『お金のいらない世界』
「小学五年生」1977年5月号/大全集5巻

本作のテーマは、既にタイトルが全てを語っている。世の中に絶対的に必要な「お金」がいらない世界とは、どんな世界となってしまうのだろうか。

まず注意しておきたいのは、お金が「ない」世界ではなく、お金が「いらない」世界という点である。お金がない世界、例えば物々交換の世界、ということではない。あくまでお金は存在しているが、「いらない」のである。


今回の発端は、のび太に欲しいものがあり、ママにお小遣いをねだるのだが断られてしまうという、いつものパターン。

のび太は「お金のいらない世界に住めたら気楽だろうなあ」と呟くと、ドラえもんは「じゃ、住んでみる?」と言って「もしもボックス」を取り出す。

本作で三度目の登場となるもしもボックスだが、初登場回の『もしもボックス』の読者が読む学年誌に発表されたので、のび太は既に知っているという設定となっている。


のび太がボックスに入り、「お金のいらない世界」と、受話器に吹き込む。今回のパラレルワールドの始まりである。

のび太はさっそくどうしても欲しかったラジコン飛行機を貰うために、模型店へと走っていく。お金がいらないということは、タダのはず。のび太は、お金を払わずに店から品物を持って帰ろうとする。

すると店主に呼び止められ、ただで持って行く気かと注意を受ける。そして、

「代金2万6000円を・・・持っていってくれなきゃ困る」

と言って、ポンとお金をのび太に渡す。

のび太は商品が貰えるだけでなく、お金も受け取れるのだとわかり、大変に驚く。そして、素晴らしい世界だと満足して家へと帰る。

「お金のいらない世界」とは、商品と一緒にお金を貰わなくてはならない世界だったのである。かなり意外な展開に、のび太でなくても驚く。


家に帰ると、ママが「今月も家計が赤字だ」と嘆いている。そこでのび太は先ほど模型店で貰った2万6000円を、遠慮なく使って欲しいと手渡す。・・・喜ばれると思いきや、ここでも意外な反応が出る。

「二万六千円も? また、むだもらいしたのねっ」

むだもらい」とは聞き慣れない表現だが、さらにこの後驚きの展開になる。なんと居間の押し入れから札束が溢れかえっており、お金が溜まりすぎてどうしようかと思っているという。

するとそこへパパが「大変だ!」と言って駆け込んでくる。スリにやられて知らないうちに10万円が懐に入っていたのだという。この世界の泥棒は、お金を置いていくものらしい・・。

ママは「とてもやりくりできない」と言って泣き出す。パパは「もうすぐ月末だから会社へ月給を持っていける」と言って慰めるが、ママは「あなたの月給安いもの」とさらに落ち込む。


のび太はお金が邪魔なら捨てればいいと単純に思う。そこで先ほどのラジコンと一緒に貰ったお金を埋めようと、空き地を掘ってみると、先に誰かが埋めた札束がわんさと出てくる。

その様子を警官に見られて、罰金として、捨てたお金の十倍を受け取らされる。さらに、警官から逃げた時に重要文化財のツボを持ち歩くおじいちゃんにぶつかり破損させてしまい、弁償として1億円を渡される。


お金を抱えて帰宅したのび太は、「こんな世界にいたら気が変になる」ということで、もしもボックスで元の世界に戻してもらう。

戻ったかどうか確かめるため、もう一度模型店に走って、ラジコン飛行機をお金を払わず持って出ようとする。当然呼び止められ、26000円を請求されるのび太。そこで、

「それは僕がもらうのか払うのか、どっち?」

と店主に聞く。ぶん殴られたのび太は、「確かに元の世界だ」と言って喜ぶのであった。


なお本作では、ドラえもんは「もしもボックス」を出しただけで、本編中ほぼ何もしていない。最初から最後まで、ヨーヨーをしているだけである。

また、本作で気になるのは、「お金がいらない世界」では、現金でのやりとりが重要なので、カード払いや振り込みの仕組みは導入されそうもない、ということだ。物理的にお金が家の中で溢れかえるのが嫌なのであって、帳簿上にお金が溜まっても、痛くもかゆくもないからである。



「ドラえもん」考察実施中。


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